京都工芸繊維大学文藝部

こんにちは!京都工芸繊維大学文藝部です。工科系単科大の文藝部として、理系ながらも文学を愛するひとがあつまってワイワイする部活です🕺 48号以前のものはHPに掲載されています→https://x.gd/wPZVN

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最近の記事

洗顔

霧雨53号 テーマ:イニシエーション/通過儀礼 作者:小桜明 分類:自由作品  マヤは知っていた。夜布団に入った後、母親が頭を撫でてくれていることを。母親は昼間こそ冷たく厳しいが、それはただ不器用なだけで本当は彼女のことをとても愛していることを。そんな優しい手の感触が心地よくて、彼女はいつの間にか眠ってしまうのだ。      マヤはその日も朝から水を汲みに行った。砂漠の村に住む彼女たちはその日の水を得るために近くのオアシスまで足を運ばねばならないのだ。  マヤには父親がいな

    • 今朝は二月のケサランパサラン

      霧雨53号 テーマ:イニシエーション/通過儀礼 作者:槌野こるり 分類:テーマ作品  その日は、吐いた息も静かに動きを止めてしまうような、空気の冴えた二月だった。  早那(はやな)は遮光カーテンを閉めた二階の自室で、じっと羽毛布団に包まっている。凍てつくような外の寒さとは裏腹に、部屋の中は強い暖房がついていた。赤いギンガムチェックのパジャマは厚手のフランネル生地で、冷気が入り込む隙間などない。  それでも早那は寒気を感じて、枕元のホットココアを口に含む。ぬるくなったココアは

      • 霧雨53号 霧雨53号 テーマ:イニシエーション/通過儀礼 作者:田中夏 分類:テーマ作品  ずっと好きな人がいる。  ふと寂しくなったときに思い出す。高校一年生の夏、運動会で恋に落ちた。ひとつ上の学年、同じ縦割り。いつの間にか目で追っていて、離すことができなくなっていた。わたしの目線の先には、いつもその人がいた。外で体育をしている様子を、授業を受けている教室から眺めたりした。あの人がボールの元へ駆け寄り、追いつき、足を器用に動かしパスをした。別の人間がそれを受け取って蹴り

        • 獣性

          霧雨53号 テーマ:イニシエーション/通過儀礼 作者:墓花ガラン 分類:テーマ作品  ある冬の夜、男はノックの音で戸を開けた。 「すみません。一晩、泊めていただけませんか」  見ると、その声の主は、痩せた一人の少年である。隣に四つ足の獣を連れ、粗末な布を身にまとい、ガタガタと震えている。  外は吹雪が強く、おそらく一晩もすれば凍え死んでしまうだろう。  男は少年の頬に貼り付いた雪を払い落とし、 「そうか。ここに来るまで寒かったろう」  と、少年と獣を小屋へと招き入れた。 「

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        • 霧雨53号
          4本
        • 霧雨52号
          3本
        • 霧雨51号
          5本
        • 霧雨50号
          5本
        • 霧雨49号
          2本

        記事

          探偵助手依存症・ロミオの誤算

          霧雨52号 テーマ「依存」 作者:槌野こるり 分類:テーマ作品  卒業の日、あの人は「クジラが唄い、謎が満ちたらまた会おう」と私に告げた。  昨日、クジラが大口を開けた。  そして今、私の目の前には遺体が転がっている。  川の途中の少し幅が広くなった、「池」と呼ばれている場所。水がほとんど無く短い草が目立つ浅瀬で、男の人と女の人が倒れている。女の人は男の人の半袖シャツの腰を掴み、男の人は女の人の頭に手を回している。シャツの袖から剥き出しになった男の人の腕には、擦れたような痕

          探偵助手依存症・ロミオの誤算

          Sensitive Duet

          霧雨52号 テーマ「依存」 作者:小桜明 分類:テーマ作品 ◎ベッドがきしみ布が擦れる音がするどこかの一室にて……   男・女M 『きっと怖かったんだ』 女M 『だから誘った』 男M 『だから断れなかった』 女M 『だけど、ふと正気に戻った時、もっと怖くなった』 男M 『初めてこいつの怯えた顔を見た』 男・女M 『私(俺)は間違えたんだろうか』 男M 『こういうんじゃないだろ。俺達はもっと……』 女M 『もっと気楽な関係だ。……だった、はず……』   (2秒の間)   女M

          最適な解

          霧雨52号 テーマ「依存」 作者:峰々碧 分類:テーマ作品 君は泣いていた 隠れて泣いていた 僕は偶々それを見つけた  困っている人が目の前にいて、何も分からないから話をした やがて君は笑ってくれた。いっぱい、とてもいっぱい そしたら、自分がピンチに駆け付けたヒーローみたいで誇らしかった あの時、僕はやっと世界に必要とされた気がしたんだ   君はとても元気になった。「もう大丈夫。」今、君はステージの上にいる。 スポットライトが照す君は、紛れもなく僕が好きになった君だった。

          よるのおさんぽ

          霧雨51号 作者:鎚野こるり 分類:自由作品 ――むかーしむかし、にんげんたちは地上で暮らしていました。あらそいが起こったり病気がはやったりして、にんげんたちが困ることもありましたが、なんとかみんなで生活していました。けれどあるとき、おおきな石が地面にぶつかって、世界が真っ暗闇につつまれました。夜の世界はどうぶつたちの世界です。にんげんたちはどうぶつたちを怖がって、みーんな地下に行ってしまいました。そんな世界のおはなしです。  人間はみんな、「昼」というものが大好きです。

          イオの観測

          霧雨51号 作者:小桜明 分類:自由作品  生物は皆、イオと共に生きている。  全ての生物はイオを連れているし、全ての生命はイオによって守られている。  貴方も、私も、その例外ではない。私たちがイオを知覚できないだけで、イオは誰しもの隣にいるのである。    校舎の屋上に立つ私は、小学生の頃に先生から聞いた話を思い出していた。  これだけならば、少々思想の強い先生であったというだけだ。しかし、そうはなら無かった理由がある。  その話を聞いた数日後、同級生の一人が交通事故に遭

          テレイドスコープ

          霧雨51号 テーマ「翻訳」 作者:槌野こるり 分類:テーマ作品 テレイドスコープ:カレイドスコープの変種で、筒の先端にレンズをつけることで、のぞいたものを万華鏡様にする。「遠距離」から名づけられた。スコープを向けた先の物体が、何度も反射を繰り返して映像を作る。 『華麗な夢の世界 万華鏡』照木公子編 文化出版局 より  昔から、運河のある街に憧れていた。小樽、倉敷、京都。海外ならばヴェネツィアやオランダのアムステルダム……。運河でなくてもよい。例えば、霧の出る街。蜃気楼の出

          一年後、僕は首を吊る

          霧雨51号 テーマ「翻訳」 作者:小桜明 分類:テーマ作品  一九四七年以後イスラエルなど中東の各地の遺跡で発見される通称死海文書と呼ばれる一連の写本群、二千年以上前に書かれたとも言われ、二十世紀最大の考古学的発見とも称されたそれらの中には、無論保存状態の悪いものも存在する。  その中に一つ、『予言の書』と呼ばれる文書群がある。命名理由は至極単純なもので、それが未来の人類史について書かれたものであったからだ。ヘブライ語で書かれたそれらは劣悪な保存状態故その大部分が判読不能と

          一年後、僕は首を吊る

          パナマソウの高貴な生活

          霧雨51号 テーマ「翻訳」 作者:鮎川ツクル 分類:テーマ作品  休暇をサントーリスト・シティで過ごすのは悪くない考えだった。雄大な海と色とりどりの水着が映える砂浜を右手に、ぼくのフィクスン・ダンパー1994は快走していた。道路の真ん中に植えられたヤシは、風で左右に揺れていた。都市生活者の夢想がパッキングされている観光都市。街全体がボサノバか、そういったチル系の音楽に包まれていた。  タバコに火をつけて、灰皿に置く。窓を開けて腕をだらしなくもたれかからせ、大きく息を吐く。

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          霧雨50号 テーマ「SNS」 作者:忍 分類:自由作品  こうして親戚一同で集まるのはいつぶりだろうか。  礼装に包まれた人たちが一人ずつ順に焼香をあげていく。その横顔と後ろ姿に見覚えがある人もいれば、そうでない人もいる。何故だか深い付き合いのある人は特にいない。単に関わるきっかけがなかっただけだろうか。世間一般的にはどうなのだろうか。よく分からない。今思うと、親族というのも実は不思議な繋がりなのかもしれない。  おばさんの訃報の知らせを聞いたとき、両親は「あんなに厳格で強

          憧憬

          霧雨50号 テーマ「SNS」 作者:治 分類:テーマ作品 「…もしもし、あの、高山勇太です。智くんいますか」 「もしもし勇太くんね。ごめんね、智さっき出かけちゃったわよ。多分今日も公園じゃないかしら。ごめんね、おばちゃんわからないわ」 「あ、大丈夫です。ありがとうございました」  今日も一日頑張って、さっき家に着いたところだった。僕はいつもみたいにみんなとサッカーしに行く前に智に電話をかけた。念のため智には電話をするけれど、いつも受話器から聞こえるのはおばちゃんの申し訳なさ

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          霧雨50号 テーマ「SNS」 作者:f 分類:テーマ作品  1 もう、時効かなと思った。  すごく大事な約束……大事だ、と、ずっと思いこんでいた、約束。を、私は破ろうとしている。いま。まさに。  スマートフォンを握りしめて、私は迷った。たぷたぷと無駄に画面をタップする。愛用のSNSアプリを立ち上げ、すぐさまホームボタンに触れる。またアプリ画面を開いて、ロード。アカウントを切り替えてロード。ロード。ロード。更新はない。ロード。あ、三件の新規投稿。ななめ読みした。内容はもう思

          self

          霧雨50号 テーマ「SNS」 作者:かわたれ 分類:テーマ作品 「ちょっとだけ、時間いいかな。」 必資な資料を貰いに母校を訪れ、事務室の扉を閉めたところで声をかけられた。年は30前後の女性。待って待ってと急いできたような様子を見せながらこちらに笑顔を見せた。人当たりは悪くない。 「わたし、あなたの双子の妹さんの元担任だったんだけど、分かる?」 存在はうっすらと、でも大した覚えはない。なんと答えてみようもなく「まあ…」と呟くと、彼女は気にした様子もなくまた微笑む。笑った時に目