Sensitive Duet

霧雨52号
テーマ「依存」
作者:小桜明
分類:テーマ作品

◎ベッドがきしみ布が擦れる音がするどこかの一室にて……
 
男・女M 『きっと怖かったんだ』
女M 『だから誘った』
男M 『だから断れなかった』
女M 『だけど、ふと正気に戻った時、もっと怖くなった』
男M 『初めてこいつの怯えた顔を見た』
男・女M 『私(俺)は間違えたんだろうか』
男M 『こういうんじゃないだろ。俺達はもっと……』
女M 『もっと気楽な関係だ。……だった、はず……』
 
(2秒の間)
 
女M 『高校を卒業した。今日、いや、もう昨日。それで、いつも通り、一緒に学校出て、ゲーセン行って……』
男M 『茶をしばいて、馬鹿な話をして……それで……』
女M 『それで……私が……』
 
(3秒の間)
 
女M 『昨日の明日が嫌だった。変わるのが嫌だった。ずっと一緒がいいとか、そういうんじゃなくて、……ないはずで……。ただ、この関係が心地よくて、大好きで……だから、だからきっと』
男M 『繋ぎ止めてしまいたかったんだと思う。離れないように、離れられないように。違う道でも、どこかで同じであるように』
女M 『私は卑怯だ、しかも、面倒だ。嫌な人間だ。こんな自分が、大嫌いだ』
男M 『俺は卑怯だ、それに駄目な人間だ。流れるまま、流されるままズルズルと……こんな自分がとても憎ましい』
男・女M 『最低だ』
 
(2秒の間)
 
女M 『たまに思う。なんでこの人は一緒にいてくれるのだろう。なんで私に優しくしてくれるのだろう。……なんで私なんだろう。なんで?変だ、絶対』
男M 『基本的に、俺はこいつが分からない。何を考えているのか、どこへ向かっているのか。掴んでないとどこかへ行ってしまいそうで、不安だよ』
男・女M 『ねえ(なあ)、貴方(お前)は何を考えてるの?』
 
(2秒の間)
 
女 「ばか」
 
(1秒の間)
 
男 「そっちこそ」
 
(2秒の間)
 
男・女M 『そう、馬鹿なのは私(俺)だ』
女M 『甘えてるんだ。着いてきてくれる優しさに。1人が嫌だから、貴方に居ていて欲しいから。だから、酷いのは、醜いのは私なんだ。……馬鹿だよ、私は。馬鹿だ……本当に。こんなことしなくたってこの人は……』
 
(女が鼻をすする音)
 
男 「……泣いてんの?」
女 「え……?ぁ……泣いて……ないし」
男 「泣くくらいなら、やらなきゃ……」
 
男M 『いや……泣かしたのは、俺か。俺にもっと意思があれば、こいつを泣かせることは無かった。俺が悪い、俺が……』
 
(2秒の間)
 
男M 『でも、それでどうする?謝る?……違う、きっとそんなことは求められていない。謝ったらもっと泣いてしまう。もっと泣かしてしまう。なら、俺はどうすればいい?』
男 「あっ……」
 
(迷うよう数回時間をかけてシーツが擦れる音がする)
 
女 「(息をのむ)」
女M 『手を握られた。びっくりした。絶対謝ると思った。自分が悪いと思ったらすぐに謝る人だから。そしたら私は泣くんだって、劣等感とか良心とか、そういうものに押しつぶされて泣くんだって』
 
(2秒の間)
 
女M 『なんでだろう……。なんでなんだろう。……一瞬で、涙が止まった。ぐちゃぐちゃな心が一瞬でスッキリした。……それが腹立たしくて、強めに握り返してやった』
 
(5秒くらい息遣いだけが聞こえる)
 
女 「……ねえ、明日も、というか今日も、どっか行こう。2人で」
 
(1秒の間)
 
男 「……そうだな。どっか適当に歩こうか、いつもみたいに、2人で」
 
(2秒の間)
 
男M 『多分、不安とか、わだかまりとか、そういうのはしばらくは消えないだろう』
女M 『だけど、不思議と今の短い会話で、』
男・女M 『怖くなくなった』
女M 『気がする』

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