読書記録:広域思考

スーツ,綿貫渉,こつぶ,がみ:広域思考(二見書房)

今回の本は,作者が交通系YouTuberの4名という本であり,本屋でたまたま目にして即決で買ったほど読む前から面白そうだと感じた本であった.だが,本書を8月末に購入してから読み終わって,こうしてnoteに感想を投稿するまで約1ヵ月半かかってしまった.そして前回の投稿からも約1ヵ月がたってしまった.生活が忙しかったこともあるが,本を読む中で考えさせられたことが今までよりも多かったことも一つの要因かもしれない.

ということでさっそく本題に入ろう.
まず,本書の「はじめに」の部分を読んで感じたのは,本書の一つ目の提案が交通やサービスは進化しているからもっと使っていこうよ,という提案であったこと.そして,2つ目の提案が移動地域を狭め,狭い地域で生きるのではなく,脳内地図を拡張することである.作者である4人の交通系YouTuberがこの本で提案するのが,「旅行楽しいからしてみよう」の様な単なる移動という枠にとらわれない部分が良いと感じた.
移動というものがもつ多様な価値を暗示しているのかと感じるし,実際その通りだと思う.

思っている以上に私たちの社会の交通やサービスは進化しています.
それらをきちんと知って,もっと使っていこうよ.

(pp.5)

1章:広域思考とは何なにか

本編に入る前から大変期待できそうな本だと感じたところで,1章を読み始める.

仕事がオンライン化するほどどこでも住めるという考えるだけではなく,どこにいるかを大切にする必要があるのだと感じた。どの地域に住むかではなく,どの地域で生活しているか,その地域の範囲が広いほど,様々な地域との関係も生まれ,生活が豊かになるのではないだろうか.そういえば、前回も話題に出した「関係人口」の話も本書にあったが,日常的に関わる地域を増やしていきたいと感じるし,自分の生活を振り返ってみたいと思った。

社会学の言葉「地域資源」はその地域に暮らす人々が利用できる有形無形すべての資源を指すが,思い込みで脳内地図が狭い地域に固定化された状態では,じつは少し手を伸ばせば簡単に得られる地域資源を見落としてしまうということになる.

(pp.14)

それらを考えるためには,各自がどの座標に位置しているかが重要になる.仕事がオンライン化すればするほど,幸福度は「どこにいるか」に依存するからだ.

(pp.20)

取り組みの結果,市内の和―ケーション検討につながるなど,関係人口の創出,地域経済の循環や地域への支援,持続可能な地域づくりにつながっている.

(pp.23)

2章:広域で暮らし,最大限に活用する

2章の広域で暮らし,最大限に活用するというテーマの中から気になったキーワードについていくつか掘り下げてみたいと思う.

移動の質

一つ目は「移動の質」である.本書のなかで,移動には耐性がついてくるという記述があった.

自分の家のような感覚でいつも乗り物を使っているため,移動に対する耐性ができ,移動するぞと意気込まないで過ごせていると思います.

(pp.34)

普段から移動する人に移動の耐性が着くのは当然だと思うが,そもそも移動は耐性が必要な程,大変なことなのだろうか.本書にも江戸時代に比べたら移動しやすい環境があると記載されていたが,実際は移動に対する何かしらの負荷を感じている人が大半を占めているのではないかと感じる.
その様な現実の中で本書にもあった移動の質というのが,これからの時代のキーワードになるのではないかと感じた.

通勤や通学,旅行において「移動」は目的地に到着するために我慢して行うものという認識があるかもしれない.しかし,やりたい作業を移動しながら行うことが可能であるかを乗り物ごとに区別することで,移動の質を意識することができる.

(pp.36)

移動の質ということで,本書では移動中に何か作業ができるかに依存する様な書き方がされていると感じたが,実際は移動にはもっと多くの(いい面でも悪い面でも)価値があると感じる.移動により何かしらの作業ができるだけでなく,移動することによって気持ちの切り替えができたり,何気ない移動中にアイディアが生まれたりと多くの価値があると感じた.

次に、優れた地域資源は都市に来ないという部分について考えてみる。

つまり,私たちが今後自分にとって有益な資源に触れながら豊かに暮らしていくためには,必然的に広域にその資源を求め,生活を豊かにする資本を収集していく必要があるということがだ.

(pp.59)

今後,プロフェッショナルの活動には広域思考は欠かせないものになっていく.昭和の時代においては,プロになるためのリソースが都市部に集中していたが,現代においては特殊な業界を除き,各地域に分散して存在するようになっている.

(pp.61)

これまでの都市部に文化も経済も全て集中するという前提が崩れていくということは納得がいく.特に移動がより快適になり,物理的な距離をあまり感じない範囲においては自分が一番過ごしやすい環境にいることが,各々にとって生産性が高く,幸せになると感じる.しかし,そのような時代になった時の都市の役割とはなんだろうか.やはり対面でのコミュニケーションがゼロになる訳ではないから,対面で人と人が接する場所として機能していくのだろうか,それとも対面でのコミュニケーションはそれぞれの拠点で行うことで,わざわざ都市に行く必要はなくなっているのだろうか.これは移動のしやすさだけの問題ではなく,働き方の問題も絡んでくるので,実際のところどの様になっていくのかよくわからない.ただ,移動のしやすさが変わることによって都市の形や役割が変わってくるのは間違い無いだろう.

移動を面でとらえる

次に,「移動を面でとらえる」という記載について,確かに本書に記載されているように,移動を線で捉えると通過しているだけでその地域と関わることができない.そして,せっかくその地域まで移動しているのに,その地域資源に出会うことができないのは少しもったいないとも感じた.移動を線でしかとらえていなかった身としては,移動を面でとらえて,来訪した地域のことを知れると良いと感じた.

線で移動をとらえている段階では,地域資源は一切見えてこない.目的の駅からどういう面に移動できるのかがわかれば,地域資源が発見可能になり,利用できる面積はどんどん増えていく.

(pp.70)

日本の交通網は国益

次に「日本の交通網は国益」というキーワードだが,これについては強く同意する.国鉄の人がいるところには鉄道を敷くという国策によって現在の鉄道網が形成されているという記載があるが,これは移動が国家にとって重要なことであるから、移動しやすい環境を国策として構築していったと言い換えることができると感じた.つまり,移動環境というのが国の発展のために必要なことであり,今後も日本が国力を維持していくためには,移動環境,交通網の維持が必要不可欠であると感じた.

新幹線をはじめとする鉄道,LCCをふくむ飛行機で日本全国ありとあらゆる場所が結ばれた交通者そのものが日本の国益と言えるだろう.世界ではありえないレベルの高い技術力と安全性,そして時刻の正確さを実現している好通網が数千円でりようできるのに,これを使わないのは本当にもったいない.

(pp.81)

公共交通センス

次に,公共交通を使うテクニックである「公共交通センス」というキーワードである.本書では,ちょっとしたテクニックさえあれば,公共交通で快適に移動できるという意味合いで使われているキーワードであったが,これについては違和感を感じた.

公共交通を使うテクニック,いわば,"公共交通センス"があることで便利に使える移動があると実感しています.

(pp.88)

それは,そもそも公共交通を使うのにテクニックが必要なのかという点である.公共交通を使うのにテクニックが必ずしも必要かと言われれば,必要ではないということになるだろう.待ち時間などの所要時間が通常よりもかかるかもしれないが、移動すること自体は可能である.しかし,それでは便利でもないし快適でもないから現実的にはテクニックがないと普段使いできないということになってしまう.
普段から通勤等で利用している路線とかならテクニックを既に持っているから,問題なく使える.それは,既に自分でテクニックを見つけているもしくは誰かから教えてもらっている状態であるからである.
しかし,日本の公共交通はそれで良いのだろうか.公共交通センスやテクニックがなくても公共交通を使って快適に移動できる環境を作っていく必要があるのではないかと感じるし,それでこそ「公共」の交通になるのではないかと感じた.

3章:広域を前提に移住する

3章では広域を前提に移住するということで,空港等のハブの近くを拠点とすることで,多くの地域が近所になるという考えは,これからの世界において重要な視点であると感じた.本章のなかで,公共交通機関に比べて車は割高という記載があった.
人数や距離によって公共交通機関よりも割高とは言い切れないが,高速道路代やガソリン代といった直接的なコストに加え,事故発生のリスクや移動中に他の作業ができないということあり,公共交通でも可能な移動では公共交通を積極的に利用すべきだと感じた.

コスト計算をすると車はつねに割高であることを知っておくと,視野が広がる.

(pp.132)

上記も含めいくつかの交通手段のコストの話が本書では記載されていたが,その最後に記載されていた「移動をする際に何が大切か」を先に考えることの重要性を改めて感じた.
仕事で一刻も早く移動しなければならないのか,旅行でのんびり周りの風景を眺めながら移動したいのか,といった自分がなぜその移動をしているのかを考えることがまず必要であるし,それによって移動にかけるコストが変わってくると感じる.例えば一刻も早く移動しなければならないときは,駅までタクシーを使ったとしても,そのコストは「一刻も早く移動したい」という目的に対しては大きくないかもしれないが,急いでもいない普段の移動であったらタクシーという手段は高コストになるだろう.
このように,自分がなぜ移動しているのか,何が大切なのかを移動の際に意識することが,自分にとってメリットの大きい移動になるのではないかと感じた.

ただ,ここで大事なことは,自分にとって何が必要な資源であるのか,何をすることで幸せになるのかを把握したうえで,その実現のためにコストカット技術を知るということである.

(pp.141)

4章:出会いと共に生きる広域思考

4章では出会いということで,その地域の人との繋がりや地域にある様々な資本について記載があった.やはりその地域での暮らしを知ること,地域を知ることといった,各地域に存在している社会関係資本について知ることが,生活の豊かさに繋がっていくと感じた.

私たちは一人では生きられず,人間資本の中で生かされている.そういった暮らしに必要な関係のことを経済学では社会的共通資本(social captital)と呼んでおり,貯金や土地と同じく,資本であると考えられている.つまり,人間関係が豊かであればあるほど,私たちの暮らしも豊かになっていくのだ.

(pp.158)

そして,本書で出てきたキーワードである宇沢先生の社会的共通資本については,学生時代に読んだことはあるが,内容を大分忘れてしまったと感じたので,もう一度読んでみたいと感じだ.社会的共通資本がないと生きていけないし,人間が都市で生活していく上で必要不可欠な部分であるので,もう一度学び直してみたい.

人間が生きて行くうえで必要な豊かさのための社会的装置を社会的共通資本という.これは経済学者である宇沢弘文氏の提唱した概念で,土地,土壌,大気,水,森林,下線,海洋などの「自然環境」,道路,上下水道,公共交通機関などの「社会的インフラストラクチャー」,教育,医療,文化,建物,金融などの「制度資本」の3つに分類される(『社会的共通資本』岩波新書).

(pp.161)

5章:正社員で働きながら広域思考

5章は正社員で働きながら広域思考するというテーマで正社員として働いている身として学ぶことが多かった.
まず,働きながら広域思考するということで,仕事では通勤や出張で移動とは切っても切り離せない関係がある.比較的出張が多い身としては,出張先の地域に何回か訪れることで,その地域の地理なども分かってきて,その地域に愛着も湧いてくる様な気もするし,地域住民の地理的な感覚に近づける.その様に知っている地域が増えていくと,様々なものに出会えると感じる.
また,出張等の移動で会社から外に出ることで,気持ちの面でリフレッシュすることもでき,生活がより豊かになっていくと感じた.そして,せっかくの出張の機会をもっと楽しんで行きたいと思う(この部分も出張で特急に乗りながら書いていたりする)

人生は多くの時間を仕事に拘束されるが,広域で生活することは十分可能だ.リモートワークはもちろん,通勤や出張などで強制的に移動の機会が日常的にある多くのビジネスパーソンも同様だ.

(pp.199)

出張は,地域性をなかば強制的に味わうことのできる瞬間で,広域思考的にはとてもウェルカムなもの.しかもそれが会社のお金で行ける.行って帰るだけにならないよう,出張をどれだけエンジョイできるかが大事だ.

(pp.221)

次に安定した職と生活が広域思考にとって非常に重要であるということである.本書を執筆しているYouTuberの多くは正社員として会社に勤めているわけではない.むしろ会社や仕事に縛られないからこそ,自分のペースで広域に生活することができると考えていたが,そうではないようだ.
実際に5章を執筆している方は週休3日で働きながら動画の撮影等を行なっているし,正社員として働きながらでも,様々な所には行けるし,そういった行動範囲を広げていくことが,仕事におけるキャリアアップにも繋がっていくのではないかと感じた.そして,もっと自分の時間を大切にしていきたいと感じた.

(中略)広域思考にとってむしろ安定した職と生活は非常に重要である.
広域思考は現状をがらりと変化させるものではなく,現在の行動範囲を拡張し活動範囲を広げることで,さらなるキャリアの向上を目指す概念と言える.

(pp.201)

広域思考的な生活を行うために,いま勤めている会社を辞める必要もなければ,引越しをする必要もない.会社との関係性を継続しつつ,ときには給与を下げてでも会社と交渉し,自分の時間を確保することも豊かさにつながる場合がある.

(pp.205)

対談

5章の後ろ,つまり本書の最後に執筆者である4人のYouTuberによる対談内容が記載されていた.その中で学んだこととしては,身近なものに興味を持つことの重要性である.
身近にあるものにもっと興味を持つこと,これは普段の生活をしつつも,広域思考ができると感じたし,今すぐにできることだから,普段から意識していきたい.

やはりみなさん身近にあるものにもっと目を向けた方がいいのではないかと.旅をより良いものにすることは,どうやったら身近にあるものに興味を持てるのかという話に帰結するような気がしています.

(pp.232)

今回の本は,読む前から面白そうだと感じていたが,実際に読んでみると広域思考という考え方が,これまで考えていたようなこととリンクする部分もありつつ,より広い視点があることについて学ぶことができた.そして日常生活を送りながら,今まで以上に広域で暮らすしていきたいと感じた.
今回は学ぶことが多い本で,投稿の分量もこれまでで一番多くなってしまった.ここまで読んでくださりありがとうございました.

#読書記録 #広域思考 #移動 #広域

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