2024年5月〜12月
557.こんとんの居場所 (山野辺太郎/国書刊行会)
『こんとんの居場所』素敵な奇妙文学だったのだ!
「渾沌島取材記者 経験不問要覚悟 長期可発給裸有」── 妙な募集に応募した純一は、謎の生物(かどうかも分からない)こんとんを目指す船旅へ
滋味の詰まった文学がとろとろに溶けていくシチュー感。皮膚感覚だけで描写した人類補完計画みたいな終盤が絶品!併録『白い霧』もナイス破滅SF!
558.つめたいオゾン (唐辺葉介/富士見L文庫)
『つめたいオゾン』で天才・唐辺葉介に入門するのだ
徐々に意識が融合してしまう奇病、アンナ・メアリー症候群を発症した侑一と花絵の半生記
二人の人生をずっしりと描く圧倒的筆力。「地底の脳」なる奇妙なロジック。心が共鳴し合う症状の中で問う愛の所在……特別などんでん返しなど何もないのに、心に穴が空くような強烈な読後感!
あ、直球の性暴力描写があるので要注意なのだ。
唐辺葉介(=瀬戸口廉也)作品、ほんとうにどれも素晴らしいので、紙本すべてプレミアなの人類の損失だと思うのだ……(本書はKindle版あり!)
559.地獄星レミナ (伊藤潤二/ビッグコミックススペシャル)
伊藤潤二は富江、うずまきなど名作揃いだが『地獄星レミナ』を再評価したいのだ
迫る人喰い惑星レミナ!惑星命名の由来になったというだけで芸能に祭り上げられ、やがて全世界から憎まれる少女!とつぜん登場して大友克洋ばりの空中アクションを見せるホームレス!
異次元の画力と奇想、アイドルオタクの愛憎を抉り出す展開も熱い!レミナは乃木坂5期生の小川彩さんにちょっと似てて重ねちゃうのだ……w
560.カフカ断片集 海辺の貝殻のようにうつろで、ひと足でふみつぶされそうだ (フランツ・カフカ/新潮文庫)
カフカの日記(5000円)に躊躇している方は、本日発売『カフカ断片集』がおすすめなのだ
カフカが遺した膨大なメモからパンチラインや物語の欠片を抜粋。インクに染みつく絶望と不条理。自己と対話する私的な言葉の魅力。天才のリズム
文字数控えめ低カロリーなので、本が読めない時期のリハビリにも〜
561.時里二郎詩集 (時里治郎/思潮社)
『時里二郎詩集』凄すぎて立ち上がれないのだ……
星と鞠を偏愛する王、村に現れる小さきカミ、ヒト標本が集うコロニー
山尾悠子に連なるファンタジー、平行植物風の架空生物史、プリーストを思わせる幻想地誌が融け混じる、美しく侘びた詩言語世界!まだこれほどの作品に出逢えるなんて……
ダントツで今年ベスト作品なのだ!こういう本に巡り合うために読書を続けている……
562.日本怪奇物語 (富岡直方/河出文庫)
河出文庫の新刊『日本怪奇物語』めっちゃ良いのだ!
見よこの幻魔怪奇事件の数々!神木の祟り!生首を売る老婆!お告げで発掘された観音像!一つ目人面馬!巨根児童!豆腐五丁で生きる男!明治・大正・昭和の新聞雑誌から集めた珍談奇談がずらり185話
資料価値も高く、拾い読みの軽読書にも最適!
563.阿片 (ジャン・コクトー/求龍堂)
カフカの日記や断片集で作家の原液を啜るのに目覚めたら、ジャン・コクトー『阿片』なんてどうなのだ?
天才詩人が阿片中毒治療の入院中に記した、レトリックと詩情と知性と幻覚がせめぎ合う短文集。翻訳はなんと堀口大學!
メンタルにクるデッサンの数々も強烈で、むしろ画集としておすすめ!大判サイズの求龍堂版でぜひ〜
564.エピタフ 幻の島、ユルリの足跡 (岡田敦/インプレス)
『エピタフ』素晴らしかったのだ
根室市沖に浮かぶ立入禁止の無人島・ユルリ島。2年の交渉を経て上陸した写真家が目にしたのは、霧深い草原で最期の時を待つ馬たち
タルコフスキー映画を思わせる静謐な写真と、島の記憶を残す僅かな人々への取材が放つ、滅びゆくものの手触り。民俗史としても極上!
565.過去を売る男 (ジョゼ・エドゥアルド・アグアルーザ/白水社)
「家に棲んでるトカゲが転生したボルヘスだった件」こと『過去を売る男』、良かったのだ!!
舞台はアンゴラ。捏造した過去を他人に売る男と、思慮深いトカゲのけだるい共生生活は、儚くも危ういサスペンスへ
上質な異国情緒と白昼夢感、内戦の傷跡を思わせるラストは、海外文学でしか得られない栄養素たっぷり!
566.いざなぎ流の宇宙 (高知県立歴史民俗資料館(編)/※展覧会図録)
https://kochi-rekimin.jp/publications-goods/shop/details_123.html
97年製の図録ながら最強の概説書と名高い『いざなぎ流の宇宙』が復刊してるのだ
いざなぎ祭文、幣(紙人形)、式王子、呪詛、仮面…妖気漂う貴重な写真と膨大なテキストぎっしりで、お値段わずか1500円!
基本的に高知県の民族資料館に通販するしか入手方法のないストロングスタイル販売だが、超良書!
567.『百年の孤独』を代わりに読む (友田とん/ハヤカワ文庫)
奇書筋には本家よりおすすめ!?『『百年の孤独』を代わりに読む』が入荷してるのだ
稀代の文学を紐解くのになぜか登場するドラクエ3!こんまり!バックトゥザフューチャー!小さんの落語!
脱線に脱線を重ねる解説が、名著をグッと身近に引き寄せながら読書の本質に迫る、トリッキーな怪作なのだ〜
568.宇宙衛生博覧會 (筒井康隆/新潮文庫)
アライさんの推し康隆『宇宙衛生博覧會』も復刊してほしいのだ
カニ星人を食いまくったら頬に甲羅が!宇宙豆が弾けてできた傷口に宇宙蠅が侵入して顔面崩壊!ポルノ惑星の妖草ゴケハラミ!
宇宙+奇病をテーマに悪趣味と奇想と駄洒落が煮えたぎる天才の毒壺。伊藤潤二にも霊感を与えたエログロ怪作!
569.邪視 (F・T・エルワージ/リブロポート)
金色のオカルト奇書『邪視』やっと手に入れたのだ
メデューサ、ゴルゴン、妖術、樹木信仰……膨大な知識と護符を引き、視ることの呪に迫ったヴィクトリア朝末期の邪視研究書
どろりとした民間信仰感と読み易い邦訳が絶品!南方熊楠も熱心に読んだ特級資料、しっかり学んで政敵や上司を邪視っちゃお☆
570.DOOMED (sarcoma/書肆マガジンひとり ※同人誌)
シベリアのアーティストsarcoma氏の作品集『DOOMED』が最高なのだ!
即身仏、ハロウィン、ウィッカーマン……民俗宗教を彷彿とさせつつも、よりおぞましい、名状し難き存在がぞわりと神経を撫でる暗黒画集
もの久保、toy(e)ら不穏ホラー好きはぜひ!amazonやタコシェで買えるのだ〜(^^)
571.姫君を喰う話 宇能鴻一郎傑作短編集 (宇能鴻一郎/新潮文庫)
芥川賞作家では宇能鴻一郎『姫君を喰う話』を押さえたいのだ
土俗的な村落社会を舞台に、巨大鯨との血生臭くも壮絶な戦いを描き切った超級モンスター文学「鯨神」(超おすすめ)、モツ焼き屋の与太話が気品溢れる変態エロス悲話へと変じる表題作など、異様な迫力に満ちた奇譚揃い
九鬼匡規の装画も絶品!
572.白い果実 (ジェフリー・フォード/国書刊行会)
ホラー、SF両ランキングを荒らし回っている鬼才、J・フォードは『白い果実』を読んでほしいのだ
理想形態市、鉱物化する村人、蘇る木乃伊、陶酔をもたらす美薬…綺羅星のようなイメージの万華鏡に溺れるファンタジーにして孤高のディストピアSF
なにより、金原瑞人が訳し、山尾悠子がリファインした奇跡の翻訳文がすごい!山尾作品としても必読なのだ〜
573.犬狼都市 (澁澤龍彦/福武文庫)
猛暑にひんやり澁澤龍彦!数少ない小説作品『犬狼都市』で涼むのだ
ダイヤモンドの中でエレキトリック狼貴族とけものフレンズする表題作、奇怪なる孔雀神崇拝から玉ねぎ信仰へ転回する「陽物神譚」、子育て幽霊船「マドンナの真珠」と、いずれ劣らぬ奇譚揃い
平易な文体で絢爛の幻視が味わえるのだ〜
574.ミッドナイト・ミートトレイン (クライヴ・パーカー/集英社文庫)
#至高の短編小説 タグには『ミッドナイト・ミートトレイン』で参加したいのだ
悪夢の人肉列車に殺人鬼と乗り合わせる表題作(オチ最高)、海外ホラー短編ベストに推す声も多い、ぶっ飛んだビジョンの奇祭ホラー「丘に、町が」と名作揃い!
クライヴ・パーカーはつくづくもっと評価されていいはず……!近年の流行とは真逆の、血塗れ極彩色モダンホラーに酔うのだ〜
575.『null-geist』『para-ghost』(鈴木捧、蛙坂須美、ふうらい牡丹、ひびきはじめ、高田公太/※自費出版)
個人的に激推しの怪談作家・鈴木捧が仕掛けるアンソロジー『null-geist』『para-ghost』面白かったのだ
命乞いをする虫、増殖する亀甲、人間ミミズ、三島由紀夫の生首、5本足のウェイトレス……
遍在と不在をテーマに集められた因果の壊れた怪談は、玄人こそ唸る絶妙な居心地悪さ!文学を感じる瞬間も!
576.容疑者の夜行列車 (多和田葉子/青土社)
『容疑者の夜行列車』は極上の二人称小説なのだ
夜行列車に乗り込む「あなた」を巡る13の
断片。霧がかった異国情緒、自分が他人事のような旅感覚、夜の曖昧さ、不意に口をついて出た言葉…淡い幻が至高の文体に溶ける半覚醒小説
胸を突く銘文がゴロゴロ埋まった茶碗蒸し感。ひやりとする展開も粋!
577.イヌジニン -犬神人- (室井大資/秋田書店)
伝奇漫画の良作『イヌジニン -犬神人-』を再発掘したいのだ
ゴミ屋敷の真実、信者殺害のカルト宗教が秘める秘密…ケ(穢れ)が起こす事件に影の組織が暗躍する
強烈なバイオレンス、目・耳・頭脳など特化型の異能で怪異と戦うチーム編成、アクの強い人間ドラマとかなりの個性派!紙本はややプレ値!
一巻のみで完結してないのだが一話完結なので読み易いと思うのだ〜。でももっと読みたかった……
578.デレク・ジャーマンの庭 (デレク・ジャーマン (著)、ハワード・スーリー (写真)/創元社)
『デレク・ジャーマンの庭』絶品だったのだ
性と暴力の映像作家は晩年、原子力発電所近くの土地に庭を作る──漂流物や古道具のオブジェと色とりどりの草花が迎える、孤独で侘びた幾何学の庭園を
静謐な、あまりにも静謐な美がパッケージされた極上の書物。一番良い読書環境で頁を開いてほしいのだ〜
579.保健室登校 (矢部崇/角川ホラー文庫)
少女庭国の矢部崇が送る隠れた角川ホラー奇書『保健室登校』が凄いのだ
肉体破壊リレー、セルフ首刈り教師、殺人合唱コン…魂の抜けた人形劇みたいな他人事感と天然サイコパスすぎる文体がヤバい血みどろ学園生活
人殺し中学校、にゃんにゃん者など説明なく登場する謎単語も絶品。痛烈な暗黒小説!
あ、わんちゃんの首がアレするので、苦手な方は要注意なのだ……!(人間の首もアレするが)
580.コード・ブッダ 機械仏教史縁起 (円城塔/文藝春秋)
『コード・ブッダ』最高だったのだ!
2021年東京、コードがブッダを名乗り、機械仏教が生まれた──
未来の思想史か悪い冗談か…多分両方正解のAI仏教小説。ドラクエや2001年宇宙の旅などニクい小ネタから、ジェンダー、陰謀論への鋭い知見もチラリ。さらに円城塔作品でも異例の読み易さ!読むしか!
581.星戀 (野尻抱影、山口誓子/中公文庫)
秋の夜長は『星戀』を紐解きたいのだ
冥王星の和名考案者にして天体民俗学者・野尻抱影の随筆と、山口誓子の句が交歓する、星についての俳句&エッセイ集
日本の原風景や四季の移ろいを鮮やかに描きつつ、天体にしみじみと想いを馳せる銘文は、まるで読むプラネタリウム。中公文庫らしいそっと佳い本!
582.ふるさとのはつこひ 竹岡一郎句集 (竹岡一郎/ふらんす堂)
『ふるさとのはつこひ』は幻想文学好きにもぶっ刺さりそうな絶品俳句集なのだ
少年少女、玉虫、虹、比良坂、牛頭馬頭……逆柱いみりの不思議生物が彩る装丁に納められたるは、「俳句とは詩の特攻である」と断じる俳人の苛烈で異質な言語世界
アライさんの好きな句は
虹の根を食べれば人でなくなるよ
583.幻燈記 ソコ湖黒塚洋菓子店 (榎本了壱/而立書房)
『幻燈記』、久々に強烈な奇書だったのだ!
冥界へ繋がる湖を囲む滝壺都市、移動し続ける蝸牛後宮、鰹節鬼、宇宙卵……めくるめく奇景巡りの掌編集
詩と呼ぶには異界過ぎ、ユーモアと断じるにはイカれ過ぎ、幻想文学を名乗るには俗すぎる絢爛アングラワールド!J.A.シーザーのテイストも仄かに香るのだ〜
584.ゆめこ縮緬 (皆川博子/角川文庫)
皆川博子はぜひ『ゆめこ縮緬』を読んでほしいのだ
濃密な和風幻想。頁をめくるごとに底なしの闇へずぶずぶと沈み込んでいく感覚。美とエロス、魔性化生が入り乱れる、境界の溶けた中洲の物語
日本幻想文学が誇る最高峰のひとつ。これほどの美が生身の人間に描けていいわけがない……死者の文章なのだ
585.愛らしい未来 (高原英理/河出書房新社)
『愛らしい未来』可愛くも強烈だったのだ
かわいいものを探し街を彷徨う少女、人格の境界が溶けた少女、二人だけの言葉で現実と対峙する少女達を描いた三篇
特にベビわる風のニュアンス会話に始まり、言葉が生命を得てうねうね蠢き出すような「れいめい」は絶品!今回はぐっと純文学寄りで、ゴシック愛好者から芥川賞読者まで必読!
586.生活 海猫沢めろん随筆傑作選 (海猫沢めろん/河出書房新社)
海猫沢めろん『生活』面白かったのだ〜!
貧乏と薄毛に悩み、ときに家を失いながらも文筆に生きる異端作家の生活記。とりわけ太宰治の霊に会うべく恐山のイタコを訪ね、初音ミクを祀った祭壇の前で瞑想する前半のトビっぷりに絶倒!
創作論や鬱病対策術も有益。中島らもに続く令和の無頼派名著爆誕なのだ〜
587.フィフス (飛鳥部勝則/芳林堂書店 ※同人誌扱)
飛鳥部勝則14年越しの新刊同人誌『フィフス』堪能したのだ!
斧で人間を切断する謎の美少女、『フランケンシュタイン』に匿された真実、社会に紛れ込む恐ろしき木人……
残酷描写とダークなヒロイン像は継ぎつつも、グッとポップな怪奇連作!『ファウスト』で次々新作が始まった時代のワクワク感を思い出すのだ〜
588.崑崙奴 (古泉迦十/星海社)
幻の作家・古泉迦十24年ぶりの新作『崑崙奴』面白かったのだ!
舞台は唐。屍体の臓腑を引き裂く連続殺人の背後に蠢くのは、人肉食、淫祠邪教、そして絶世の美女……
学識なしには一行も書けない超濃密な中華世界をさらりと読ませるリーダビリティ。物語は再び火蛾の如く飛翔するのか──「裏切らない」と約束するのだ!
589.クリーチャー (ショーン・タン/求龍堂)
クリスマスプレゼント、男女共本当に欲しいものはショーン・タン画集『クリーチャー』で決まりなのだ
絵本でおなじみの絵から初公開まで、画業25年分のふしぎ生物たちがぎっしり!岸本佐知子訳のテキスト群も創作者必読の歯応え!
6930円が安く思えるほどの一生本。アライさんは鉛筆画が超好き……!
590.そぞろ各地探訪 (panpanya/1月と7月)
プレミア必至のpanpanya新刊『そぞろ各地探訪』マニア悶絶の最高本なのだ!
本誌の合間に5冊の小冊子と1枚の絵葉書が綴じ込まれた、トラベラーズノート風の超特殊製本。
虚実の混じる紀州旅行、地下通路で初詣など、ディープ散歩の醍醐味と胸を突く侘び寂びがぎっしり!
販売店少ないのでお早めに〜