弱小吹奏楽部を追いかけた軌跡 第36話 ラストステージ
コンクール地区予選を突破した後、何だか少し寂しい気持ちになりました。
中学生という多感な時期に親がどう関わるか。親によって考え方はたくさんあると思います。だから保護者同士でも意見が分かれて衝突します。
コレといった答えがあるわけではありません。しかも同学年の子供達の中でも成長度合いが違います。
小学生のように最初から最後まで手取り足取り面倒を見る時期もあれば、中学生ともなると自分達で自立して物事を考え、判断して実行するタイミングも必ずやってきます。
親の立場からすれば、子供の成長を実感できる濃密な3年間であると同時に、どうあれ親離れ子離れが加速していく寂しさと向き合わなければなりません。
しかしながら私にとっては自立していく子供達を見るのが頼もしく、嬉しい気持ちで一杯でした。別にそれを狙って活動していたわけではなく、結果的にそうなったわけです。
私のような未熟な親も一緒に成長していくのかもしれません。
地区大会を何年も突破できなかった我ら弱小吹奏楽部。今年は2年連続で地区を突破し、県大会へと駒を進めました。
目の前の目標は県大会金賞を受賞することです。音楽室には大きな貼り紙で目標を共有していました。
金賞を目指すのであれば、メンバーの半数以上はもっとしっかりとした音を鳴らす必要があります。やせ細ったような頼りない音を県大会のホールに響かせるわけにはいきません。
地区大会から県大会までの2週間、どこまでレベルアップさせることができるのか?
私はこの間、一度も練習を聞けませんでした。自立した3年生たちが、後輩を一生懸命にサポートする姿が想像できましたし、何より子供たちを信じました。
普段は合奏を撮影録音し、後で振り返りのために動画をLINEで保護者会に配布していました。なんとなんと、中学3年間で撮影した容量が2TBを超えました💦
県大会当日の早朝、出場前の合奏練習がありました。朝の6時集合です。
音出しやチューニングが終わり、合奏が始まりました。
地区大会に比べて明らかに楽器の音が鳴り響いていました。特に2年生たち全員の動きが良くなっています!金管チームは少し迫力を感じるまでに変化しています。
少しですが手応えを感じました。しかしピッチが合っていない子が数名いましたし、何とも複雑な心境です。
娘を遠くから見てみると、ふてくされた表情をしています。ずいぶんと納得がいかない様子です。顧問の先生にボソボソと何か言っています。
あと1週間、練習時間が欲しいのですが、出発まで残り10分です。楽器の積み込みが始まりました。
子供たちも慣れたもので、積み込みもかなり早くなりました。
そして出発です。保護者たちはまるで自動車レースの選手のように、我先にクルマのエンジンを始動し、子供達が乗るバスを追いかけました。
現地に到着し、ホールの外観を眺めます。巨大な建築物です。昨年は見る余裕など無かったのですが、今年は落ち着いていて周りが良く見えるような気がします。
ホール客席に座り、開始を待ちます。29団体中5番目に登場します。
子供たちと先生、そして1、2年生保護者の中から選ばれた楽器運びサポート部隊は、ステージ裏で緊張しながら待機しているはずです。
そしてついに最初の団体が演奏をスタートしました。いよいよ始まりました。
前の4団体はきれいな音で、それぞれが素晴らしい演奏でした。このクラリネットの子は娘より上手かも!あるいは娘の方が上かな?そんな視点もまじえながら、順番を待ちます。
そして我々の団体が演奏を開始しました。朝の練習の時と違い、音程は少し良くなっています。子供たちは懸命に演奏していて、緊張感・真剣さが伝わってきました。
演奏が終わり、全員が立ち上がって客席を見ます。大きな拍手が送られました。子供たちの表情は晴れやかでした。
最後まで鑑賞せず、途中で切り上げて全員が帰途につきました。学校へ帰ってからは軽くミーティングをして解散。18時頃のインターネットによる結果発表をそれぞれの家庭で待つことに。
結果は2年連続の県大会銀賞です。
娘の戦いは終わりました。私の追っかけもここで終わり。
なんともいえない充実感と、寂しさ。
その日の夜は家族で感想を語り合い、静かに眠りにつきました。