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第4話 いきなりの定期演奏会

 5月といえば桜の木はお役御免となり、他の木々が青々と主張してくる。新入社員や新入学生の中には5月病にかかる人も出てくる頃。
娘の高校吹奏楽部は定期演奏会のタイミングを迎えた。
 中学時代の吹奏楽部は4月下旬に定期演奏会を開催していた。これには狙いがあった。新一年生が正式に部活動入部届けを提出するのは5月のゴールデンウィーク後である。つまり定期演奏会に一年生を呼び込み、勧誘活動を同時に行うのである。将来を見据えて同じ学区の小学生へあの手この手で呼び込みを図る。あの頃が懐かしい。

 ところが5月開催となると事情は変わってくる。すでに入部届けは済んでおり、勧誘活動の意味合いは薄い。
 部員数48人中、一年生が28人と半分以上を占める。しかも入部して僅か1ヶ月ちょいの一年生。顔と名前が一致しない部員たちがいるのは間違いないだろうし、一度も会話すらしたことがない仲間もいるはずである。

 難しく考えると、定期演奏会はバンドの存在意義や伝統など、何をテーマにお客様へ表現したいのかをじっくり準備してのぞむべきだと個人的には思います・・
 これだけの準備期間では、新体制お披露目会と銘打ったほうがよほどスッキリと腹落ちする。

 入学して早々、今回は節目のアニバーサリー記念ということらしく、歴代顧問の先生、卒業生OBOG、関係する音楽家さんなどをお招きして開催するようだ。
 娘は毎日の部活で様々な人と練習で一緒になるのが新鮮らしく、興奮気味に感想を話してくる。

 演奏会当日まで毎日練習は続いた。中学時代とは環境が違うため、私のような保護者が気軽に練習の風景を見学できるような雰囲気ではない。そのため、部活動後の娘との会話が情報入手の一番の手段だ。
 部活終わりに学校へ車で迎えに行き、帰りの車内で色々と会話をしながら活動の様子を探る。
 家に帰ればテレビに動画サイト、夕食に風呂、そして部屋にバタン!と嵐のような工程が待ち構えているため、とてもゆっくり話などできたもんじゃない。

 定期演奏会が終わった直後に全日本吹奏楽コンクールのメンバー選出オーディションがあるらしい。7月中旬にコンクールの地区大会が始まるが、オーディションのタイミングが少し早い印象を受けた。実際には約1ヶ月ちょい後に地区予選があるので、早くもないかもしれないが、それくらい学校吹奏楽の世界は忙しい💦

 娘は同じクラリネットパートの同級生であるKちゃんと仲良しになったようで、ゴールデンウィークには我が家でバーベキューをしたり、一緒にコンサートを見にいったりするような仲になっていた。
 クラリネットパートの1年生は7人、そのうちの1人がKちゃんだ。
 中学時代は3年間全てコンクールで県予選を突破し、全国大会まであと一歩まで迫った経験のあるなかなかの子である。
 娘とは出場部門が違い、開催日も別のため直接演奏を聞いたことは無い。アンサンブルコンテストでは同じ日のステージで演奏を競い合ったことがあるため、最初は当時の話で盛り上がったそう。

 娘はKちゃんの実力を認めているようだ。上手な子と一緒に会話をしたり、悩みを共有したりすることが今まで無かったので、毎日が楽しい様子。
 『1年生がもっとレベルアップすれば、合奏はもっと良くなる』なんて会話をしているようで、
間髪入れずに『お前もな!』と言ってやった・・・

 いよいよ定期演奏会当日を迎え、私は中学時代の追っかけから続くいつもの儀式、カメラ・マイク・SDカード・三脚などのチェックを済ませて会場へ向かった。やはりテンションが上がってくる。
 開場は13時で開演は13時半。午前中はゲネプロというスケジュール。人が入るとマイクが雑音を拾ってしまうので、ゲネプロの様子を撮影しようと決め、会場入り口から入ろうと進んで行った。
 先生『どちら様ですか?開場は13時です』
 私『1年保護者の・・です。練習の様子を撮影したいと思いまして💦』
 先生『今は関係者以外の方は入れないんですよ』
 私『本日、都合で来れない保護者の方もいらっしゃるようで、撮影を頼まれたんです。』
 先生『少しお待ちください』

 まさかの展開で一気にピンチとなった・・。最後は口から出まかせで食い下がったものの、丸一日有給を取った意味が無くなるかもしれない・・・

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