攻防つづく入管法/週刊「外国人就労関連ニュースまとめ」(21.5.9-21.5.15)
入管法改正案の衆院採決に関して、5/15の朝日新聞に「自民党が野党側に歩み寄りの姿勢を見せた背景には、日増しに大きくなる、改正案への世論の反発があった。ある与党幹部の事務所には抗議のファクスが何十枚も届き、別の事務所には電話が相次いだ」って記述に、なるほど。……ファックス。
って私もなったんですけど、めまぐるしい1週間ではありましたね。まずそのあたりの整理から。
5/11 産経新聞(=改正賛成)
5/12 東洋経済(=改正で救われるひともいる、という珍しい見方)
5/12 Forbes(=関係ないと思っているかもだけど、日本人にも無縁じゃないよ入管の話、という切り口)
5/13 Friday(=入管の中を隠し撮りして構成した動画、間もなく公開)
だいたいこのあたりまでがユニークと呼べそうな記事群。
私個人はこうした毛色の変わったテキストがむしろ目に留まるのですが、世論を形成し、ファックスを送る力を生んでいるのはストレートな「改悪反対」の声ではあろうかと思います。
5/9
5/11
5/12
5/14
毎日毎日毎日朝日。みたいな割合で並びましたが、この件で毎日新聞が力を入れているのは質量ともにアウトプットを見れば明らかなので。
ところで上記、与野党攻防の記事を並べるに際して私がごっそり外した論点があります。
■ウィシュマ・サンダマリさん
5/11
5/12
5/13
入管法改正案の話と「名古屋入管で亡くなったウィシュマさんの生前の動画を開示しろ」って話の混ざり具合に、実はお尻がもぞもぞするんですよ。
ええとね、それはたとえば。
■かわいそうな外国人シリーズかよ、と言いたくなるほど、いろんな物語が私たちの目の前にやって来て、そして去っていく。
(上からふたつ目の連載とかことばを失うぐらいのもので、私が言いたいのは……個別の物語がたくさんある世の中で、ことさらウィシュマさんの悲劇「だけ」が特筆されるべきでしょうか。入管法改正阻止というお題目に彼女の死を利用する下心はありませんか。ということです)
■感情に訴えて自分たちの主張を通そうとしている・って思われたらイヤじゃないです? 私はイヤなんですけど。5/15の記事を読むと……
・与野党が法案の改正内容について駆け引きをしている
・与党案を10か所修正しろ、と野党が提示
・絶対飲めない条件があるから否決前提で野党は言ってみた
・ところが与党が提案を飲む空気
・あわてる野党、ウィシュマさん動画を出せ。話はそれからだ
・与党態度硬化。だったら元案で強行採決するわ
ここでいう「ウィシュマさん動画」は故意に彼女を殺害した罪状の証拠となるもの。名古屋入管を舞台にした組織ぐるみの犯罪、かつ、その隠蔽に法務省も手を貸したのでは。という一大スキャンダル。
ね、この分かりやすい要素のせいで、同記事にある「修正要求」の話がそっちのけになってる。
■立憲民主党が提示した入管法改正案の修正案概要
(1)難民認定手続き中の送還停止規定の適用外となる「3回目以降の申請」を削除
(2)送還妨害行為などに対する退去命令に違反した場合の罰則の削除
(3)「監理人」の監督のもと収容施設外で生活できる「監理措置」の基準明確化
(4)監理措置期間中を通じた就労許可
(5)監理措置対象者の生活状況などについて監理人に課せられている届け出義務などの削除
(6)施設収容にあたり司法審査の導入
(7)施設収容期間に上限の設定
(8)一時的に収容を解く仮放免の基準明確化
(9)本来なら強制送還となる外国人に対し、法相が特別に在留を許可する基準の明確化
(10)難民ではないが、難民に準じて保護すべき外国人と認める基準の明確化
与党が一瞬飲むフリをしたというのですが、(3)(8)(9)(10)に繰り返し出る「基準の明確化」なんて絶対に出来ない・はずなんですよね。
だって、それが出来るって認めたら入管業務のひとつ「不良ガイジンを追い返せ」というときの「誰が不良で/誰は不良じゃないか」の判断が、入管外部でも出来るってことになるから。
国の治安を支えているのは俺たちだ。という自負を持つ、入管の根幹にかかわるそんな話、現政権の閣僚レベルが安請け合いできる範疇を超えている、とみるのが順当では。
つまり、修正案を飲むから合意してね。って与党が野党に言ったとすれば、守る気なんてないけど。てへぺろ。って意味でしかないはずで……え、俺の考え過ぎ?
だからこそ、ウィシュマさん動画を持ち出したんだよ、戦術的に間違ってないだろ。
って反論されるかもしれませんけど、えー、だとしても追求すべきは「修正案を推していく」方角じゃないですか。が私見。
ウィシュマさんというひとりの女性を掲げることで集まる感情論なんて、ちょっとしたきっかけで牙をむいてこっち側に襲い掛かってくるものですよ。彼女が気の毒だから、ではなく、入管法はこうあるべきだから、という議論に戻らなくて本当にいいのでしょうか。
■それはそれとして、ウィシュマさんで注目された外国人パートナーへのDVについて、国はどう定めているか。を調べていたら
「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等のための施策に関する基本的な方針」>「第2 配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護のための施策の内容に関する事項」>「10 職務関係者による配慮・研修及び啓発」>「(1) 職務関係者による配慮」>「ウ 外国人等の人権の尊重」
って深いところに次の記述を発見。引用の太字化は私です。
外国人や障害者である被害者等の人権の尊重が必ずしも十分徹底されていないとの指摘があることを踏まえ、法においては、職務関係者は、被害者の国籍、障害の有無等を問わずその人権を尊重しなければならないことが確認されたところである。
法が対象としている被害者には、日本在住の外国人(在留資格の有無を問わない。)や障害のある者等も当然含まれていることに十分留意しつつ、それらの被害者の立場に配慮して職務を行うことが必要である。
出入国管理及び難民認定法においては、「正当な理由」がある場合を除き、所定の期間内に住居地の届出をしないことや、配偶者の身分を有する者としての活動を6月以上行っていないことが在留資格取消事由とされているが、外国人である被害者が配偶者からの暴力を理由として避難したり、又は保護を必要としている場合は、「正当な理由」がある典型的な事例として、在留資格の取消しを行わないこととされている。
なお、被害者が不法滞在外国人である場合には、関係機関は地方出入国在留管理局と十分な連携を図りつつ、加害者が在留期間の更新に必要な協力を行わないことから、被害者が不法滞在の状況にある事案も発生していることを踏まえ、事案に応じ、被害者に対し適切な対応を採ることが必要である。
また、国においては、被害者から在留期間の更新等の申請があった場合には、被害者の立場に十分配慮しながら、個々の事情を勘案して、人道上適切に対応するよう努める。
ウィシュマさんのDV訴えに警察も入管も法務省も耳を貸そうとしてこなかった理由のひとつが、国の定めを守るなら彼女の在留資格が無効になっていることよりも、DVの話を優先しなければならず、それはイヤ。って関係者が思ったからだろうな、と推測できました。
ちなみにこの基本方針は「外国人女性が日本人男性と関係、旦那に暴力をふるわれている」ケースを想定していると感じましたけど、そういえばウィシュマさんに暴力をふるっていたとかいうパートナーの在留資格がどうなっているのか、記事等で見かけた記憶はありません。
仮に外国人カップルの双方が不法滞在だとしたら、そんな不良どもには人権はないのでDVとかどうでもよく、とにかく強制送還させるべきだ。みたいなことはどこにも書かれていませんので念のため。
法が対象としている被害者には、日本在住の外国人(在留資格の有無を問わない。)や障害のある者等も当然含まれている
そう、法ってそういうものですからね。
■今週言いたかったことを言い尽くした抜け殻の私が以下、記事リンクのみをお送りします。
■あとねえ、コロナは容赦ないなあ、って話を最後に。
新型コロナウイルス感染症のクラスター(感染者集団)発生場所としては、病院や高齢者施設に加え、飲食店やカラオケ店などが指摘される。
一方、世に知られることなく、少なからずクラスターが起きていると思われる場所がある。外国人実習生や留学生の住居や就労先がそうだ。
新型コロナ感染者の国籍は、政府の方針で公表されていない。厚生労働省の「新型コロナウイルス感染症の国内発生動向」によれば、2021年5月5日時点で「日本国籍が確認されている者」が11万1539名に対し、「外国籍が確認されている者」は5001名とある。しかし、両者を合わせても累計感染者数の2割程度にすぎず、このデータだけでは在日外国人の感染実態はよくわからない。
また、実習生や留学生がクラスターに含まれていても「従業員」などとしか報じられず、会社名も企業側が同意しなければ、自治体は基本的には明らかにしない。
大村市在住で外国人技能実習生の20代男性が感染。県外を訪れた際に接触した陽性者から連絡を受け検査し、判明した。
(岐阜)県内では4月1~22日、コロナ感染者の約2割が外国人県民だった。
(中略)美濃加茂市では、3月1日~4月22日の新規感染者の3分の2を外国人が占めた。
茨城県は11日、大洗町居住者10人の感染を発表、このうち「職業・パート」の20~40歳代の男女5人は隣接するひたちなか市の同じ事業所で働いており、クラスターの可能性があると説明した。県は感染者の国籍を公表していないが、大洗町のNPO法人「茨城インドネシア協会」の坂本裕保代表は、複数の関係者への聴き取りに基づき、この5人を含む計8人がインドネシア人とみている。
最後の記事では不法滞在の外国人にもコロナウイルスは蔓延するよ、ウイルスは在留資格を気にしないからね、入管なんかよりよっぽど平等だよ。って書いてあるんですが(嘘です書いてありません)、みなさんの目に映らない、在留資格を持たないひとがひとりでも感染したままだと、集団免疫による疫病の根絶って実現しないかもしれないんですけど、そこ、分かってるのかね俺たち。