君は全く成長していないね
『君は全く成長していないね』と、ある人に言われたことがある。なんとまあ無粋な言葉だろう、とその瞬間、僕の心はかき乱された。まるで街角の喫茶店で頼んだホットケーキに、謎のクリームが載っていた時のような気まずさだ。誰が望んだ?そんなクリームを。だが、言葉は一度発せられれば戻らない。それを受け止めた僕は、内心ひどく反発しながらも、数日はその言葉を反芻してしまった。 だが、どう考えても納得がいかない。僕は確かに成長しているはずだし、それは写真を見てくれる人たちが教えてくれたことでもある。『すごくいいね』『以前より構図が面白くなった』『色使いが印象的』といった声をもらうたびに、僕は確かに一歩一歩進んでいる実感がある。写真とはつまり旅路だ。シャッターを切るたびに、新しい風景や思考の広がりを見つけ、僕は前へ進んでいる。なのに、『全く成長していない』とは何事か。 少し時間を置いて考えてみた結果、僕はある結論に達した。それは、『あの人の目が成長していなかっただけ』ということである。成長していないのは僕ではなく、その人の視点や価値観の方だった。僕の写真を好きな人もいれば、そうでない人もいる。それは自然なことだ。それぞれの目にはそれぞれの世界が映る。しかし、自分の感覚が絶対正しいと信じて疑わないのは、ある意味で不幸なことだ。いやはや、それこそ成長していないではないか。 写真を撮ることは、僕にとって自分を知る旅であり、表現の挑戦だ。そしてそれを見てくれる人が、『面白い』『好きだ』と言ってくれることが、僕の何よりの支えになっている。だからこそ、僕はあの日の一言を、今では心の中で笑い飛ばせるようになった。 そうだ、僕は僕の写真を撮る。そして、それを好きになってくれる人がいる限り、僕はその人たちのために進み続ける。あの一言は、ただの通り雨だ。冷たい雨に打たれるのも悪くない。その後には、僕のシャッターが切り取る新しい光景が広がるのだから。
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