ジンができるまで -GIN- 大山甚七商店
お酒にはまつわる物語はたくさんあり、ビール、カクテル、ウィスキー、ブランデー、日本酒 ワイン などなど
小説の物語の重要なキーになっていたり、さらには物語にあるお酒を飲みながら読んだりなんかすると気分も高まります。
今、すぐに思い出せるだけで
・映画「カクテル」トム・クルーズ主演 ビーチボーイズの歌でトロピカル
・高畑勲監督「じゃりん子チエ」安い日本酒なんだろうけどおいしそう
・村上春樹「風の歌を聴け」ビール
・開高 健「ロマネ・コンティ・一九三五年」ヴィンテージワイン
その他、いろんなお酒の物語があると思いますが、
日本には「とりあえずビール」という習慣があり、この世の中にはいろんな種類のお酒があるのに「お酒は何を飲みますか?」と聞かれたらビール・ワイン・日本酒など限られたものしか出てこないことが多いです。
「カクテル」をよく飲みます、好きです、という答えは控えめ。
今回は、そのカクテルのベースとして欠かせない”ジン”
しかも近年よく聞かれるようになった”クラフト・ジン”を新しく打ち出す蔵元さんを紹介させてください。
鹿児島県指宿市にある、焼酎の蔵元大山甚七商店さん
(大山甚七商店さんのFacebookより転載)
以前、ここで紹介した 同じく指宿市にある、開聞山麓香料園さんの宮崎さんから教えていただいた まったく知らない蔵元名でした。なんせ鹿児島県内でも113の蔵元、2000を超える銘柄があるので・・・!
(大山さんの黒焼酎を初めて飲みましたが、口の中で味のとろみがはっきりわかるほど濃厚な味わいになっています。炭酸割りがとてもおいしいです)
大山甚七商店さんが今度、香料園さんの”芳樟”を使ったジンをつくる!という話を聞き、連絡をとったところ今年最後のジンの蒸留があるとのことで立ち合わせていただきました。
ご案内くれたのは大山陽平さん。
大山さんは東京農大を出られ、東京の酒屋で営業をされてましたが2017年より実家である大山甚七商店に入り、普段は東京で営業の日々。月に一度指宿の蔵元に戻られます。
「ジンを作るきっかけは、お客様が自分の飲食店の中に蒸留機をおいて、
そこで自分なりのクラフトスピリッツを作ってそこで販売をしたいとおもったそうなんです。
でも、酒税免許の問題などでクリアができないことが多かったので
大山さんの方でできないか?って。
今、焼酎業界は全体的に爆発的に売上があるというわけではないので、
オフシーズンに何かできることを考えていたところでした。
そこでジンを作るなら地元の香りがいいなと思って探したんです。そこで香料園さんを見つけた。恥ずかしながら、とても近いのにそれまで知らなかったんです(苦笑) 」
焼酎の免許ではジンは作れないため(アルコール度数etcで税金も変わるし免許も変わる。さらに加えるとウィスキー製造免許、ブランデー製造免許、
スピリッツ製造免許と素人では分からない細かい枝分かれ)、
ジン枠のスピリッツ免許を取るところから始まり、
香料園のハーブも多種多様なので単品ごとにいろんなパターンを出して味と香りのブレンド、なかなか思うようにいかないことが多かったそうです。
それでも、フレッシュなハーブを届けてくれる香料園さんが車で30分くらいの距離だったのは幸運ではないでしょうか、味と香りが大きく変わるはず。
このマガジンでも紹介した、mitosayaさんの江口さんが書かれたドイツ修行日記を読んでいると(フルーツブランデーを作られていました)、とにかく新鮮なうちに仕込みをすることがポイントになっていたのでジンもそれは同じなのだと思います。
(今、他の蔵でもクラフトジンを作るところが徐々に増えてはきているが、だいたいがドライハーブなんだそうです。)
何より、芳樟は香料園さんにしかないです。鹿児島にしかないというより、国内では香料園さんしか栽培してないので商品を語る上での、付加価値というか、ここだけの大山さんで作るジンの物語が語りやすい。
芳樟でお酒なんて聞いたことがない、
そもそも芳樟を知っている人なんでそんなにいない。
「京都に芳樟を気に入ってくれたお店があって、
そこでしか買えない、お店オリジナルのジンが欲しいということで、
芳樟を強めにしたブレンドのものを別銘柄で作りました。
お互い芳樟のことやいろんなことを知らないなかに、一本線につながってかたちになってきています」
私は芳樟が強めの方がものすごく気になります!
大山甚七商店
蔵元なのに変わった名前です。初代の甚七さんが大山甚七商店の前進である大山呉服店を営む傍らで、焼酎づくりもされていたという経緯があります。その想いを引き継ぐ形で、明治8年に芋焼酎の蔵元「大山甚七商店」として創業することになります。
この歴史が今回の大山さんのジンボトルデザインに大きな意味があります。
(ボトルの写真がどれもブレていたので、またFacebookより転載)
ジンの名前は「JIN7 series 00 」
オフィシャルInstagramでは
「明治8年(1875年)より創業した初代甚七の名を頂きました。屋号に『甚』GINを冠しているのも何か運命を感じます。」
とあります。
そして、洋服には必ず付いている「TAG」
サイズや材質の詳細の代わりに原酒ブレンド比率やボタニカルマークを記載。
封印は蝋で固めてあり高級感があります。
そして中身のジンです。
どうやって作られているのか?蒸留の様子は?
ざっと行きます!
まずベーススピリッツとなる焼酎(薩摩の誉・白麹 この時点ではかなり度数が高い)に柑橘・ハーブ類等を数日漬け込んで香りをつけます。
・ジュニパーベリー
・ユズ
・スパイス(唐辛子 黒胡椒)
・ハーブ類(芳樟 メキシカンマリーゴールド 知覧紅茶etc)
その漬け込んだものを各種ごと再蒸留します。写真右は蒸留機(釜)に流し込んでいるところです。↓↓
これはユズ
(同じく指宿市にある、そうめん流しで有名な唐船峡さんがドレッシングの材料として絞ったあとのユズです。捨てることなく再利用)
ジン作りには欠かせないジュニパーベリー
(こちらは乾燥のもの)
私はおじゃました日はハーブ類の蒸留でした。
1階にある蒸留器でゴーゴーと蒸留が始まりました。
圧力計だと思いますが、片時も離れることなくじっと見つめていたのでこちらも思わず力が入ります。
2階にあがると大きな冷却器。
アルコール(正確にはエタノール?)と水の沸点の違いで蒸留酒はできあがります。アルコールの沸点が78.3℃で水が100℃。先にアルコールが蒸気になるので、この蒸気を集めて冷却してできる液体が蒸留酒ってわけです。
(説明が合っているか不安なので、もしかしたら後日訂正をしているかもしれません)
写真は工場長の西村さんと芝さん
(息が合った様子でテキパキと作業されてとてもかっこよかったです!)
冷却されたお酒はアルコール度数が高いため、温度の補正を行い、決められたカット(蒸留を止める度数)で、蒸留を終えます。
この機械、酒精計っていうんですが原理がまったくわかりません・・・
この酒精計をじっと見つめ度数の目安が計られていました。
(この説明まちがっていないでしょうか?大山さん!)
出てきました!
よく見てください、透明です!
蒸留って本当に不思議です なぜ透明?(蒸気だからかもしれませんが それでも不思議)
ボタニカルごとに蒸留するため、貯蔵タンクの種類もそれぞれ。
単品ごとの香りを体験させていただきました。このシートを取っただけでアルコールを含んだ強い香りが一気に広がり、香りだけで酔いそうです。これらをオリジナルの割合でブレンドしてジンになります。
「蒸留って止めるがタイミングがあるんです
あまり最後までやりすぎると えぐみがでる
余計なものがあがってくる
もったいないけど途中でとめる
最初はもうちょっともうちょっとってやっていたけど、
結果 そのもうちょっとが入ったことで全体がだめになる」
印象的な陽平さんの言葉、残しておきます。
この日はジンのボトリングは見れなかったのですが、別の商品のボトリング作業をされており、この流れ作業がなんだか美しかったので映像でまとめてみました。
と、ザッと簡単なジンができるまでの説明ですが、なんとなくご理解いただけたでしょうか。
話題は変わり、
みなさんは日常的にどれくらい蒸留酒を飲まれますか?(もちろんアルコールが全く飲めない方もいらっしゃると思いますが)
・焼酎
・泡盛
・ウィスキー
・ブランデー
等
(お酒はおおまかに分類すると、発酵したものをそのまま飲む「醸造酒」と、それらを加熱し蒸留してつくる「蒸留酒」があります)
私はビールが多く、時々焼酎なのでゼロではないです。鹿児島の人は焼酎を飲むので蒸留酒をひんぱんに飲んでいると言えますね。
ジンはどうでしょう? 飲み方ご存じですか?
カクテルのジントニックは有名
青い瓶のボンベイサファイアは王道
アイラ島のクラフトジン、THE BOTANISTはおすすめ
けっこう値段高めですがモンキー47はジン好きの方なら一度は試してほしい
ですが なかなか ”定番” にはなりづらいのが蒸留酒。
私は最近”蒸留”と”植物”の可能性を感じていて、興味が深まっていっています。
陽平さんに聞いてみました。
「大量生産ができないので、まずはバーやレストランなどで知ってもらってから・・・と思ってます。
本当は焼酎だけ作っていればいいのかもしれませんが、
新たなこともやっていきたいと思っているんです。
やっぱり 20代30代の人は 焼酎よりチューハイやサワー系の傾向があります。このジンを知って、お店を知り 焼酎に興味を持ってもらえたらという希望も。」
近年、お酒を飲まない人も増えてきており、お酒の消費量は落ち込んでいるとよく聞きます。それとは別に大山甚七商店さんは焼酎を作っていない時期もありました。
「売れなさすぎて休蔵に入った時がありました。焼酎は誰でも作れるものではないので、大手から”酒造免許だけください、、”ということがあったんですけど(苦笑)
今の社長(大山修一さん 24歳という若さで社長に)が頑なに断り・・・なんとか今にいたっています。」
大山さんの工場の表には、というか敷地内にローソンがあります。まあ、便利と言えばそうなんですが少し疑問でした。
「焼酎が売れなくなった時にローソン経営を始めました。父親は焼酎づくりが好きなのか?コンビニが好きなのか?って疑問でした。
私は幼かったので理由がわからないじゃないですか(笑)
大人になってからいろんなことがわかるようになり、家が・工場が大変だったんだということを知りました。」
でも修一さんが一念発起をされます、もう一回焼酎を作りたい。
コンビニがなんとかうまくまわっていたこともあり、設備投資もできた。
そして15年前には焼酎ブームもきた。
とは言え、鹿児島全体の焼酎の売り上げは落ちてきているそうです。
売り上げばかりを見るより、時代は令和になり、ここから蔵元のステップアップとして新たなチャレンジをすることを選んだ陽平さん。
大山甚七さんの新しいストーリーが作られます。
(焼酎の貯蔵庫です。天井の梁は釘を使用していないそうです。伝承蔵もあり、呉服店時代の糸巻き機やこれって文化遺産じゃないの?って驚くものが展示されています。展示品はどなたでも見ることができます。
これ↓)
(江戸時代から明治時代で野弁当箱っていう名前が付いてますが、錫でできている四角い容器は酒器だそうです。お皿も付いてます。これで花見に出かけたら粋ですね!重そうだけど・・・)
ここでちょっとジンに話を戻すと、ジンの歴史を少し調べたところルーツの神話から始まり、錬金術の発展のおかげで薬にもなったりブームやバッシングがあり、時代や戦争に翻弄され、貧困層のお酒から高級ホテルへ大出世したり、ジン回帰の流れが今やってきたり・・・と
かなり波乱万丈の歴史があります。
冒頭の内容に無理やりこぎつけますが
やはり、お酒があるところ物語があるのかも。
できあがったジンの味。まだ発売前ということで商品がなくて、
この日は残念ながら試飲はできなかったのですが
「初香は柑橘の爽やかさがあり
口に含むとハーブの芳醇な香りが鼻から抜けます。
味わいはどちらかと言うとハーブが強く最後に微かに芋の味わいが感じられます。 」
芋焼酎はベースのジンはまだ飲んだ事がないので楽しみです!
唐船峡さんで捨てられるはずだったユズ、精油以外の新しい利用方法として価値を見出された香料園さんの芳樟。地元のネットワークで作り出される前向きな物語。いろんなことをぐるっとめぐりめぐって循環されてできあがる無色透明のジンは、豊潤な実りの秋の風を感じさせる9月上旬の発売です。
ネット販売はないので直接大山甚七商店さんで購入ということになります。よろしくお願いいたします!
いただいたサポートはこれからも来双船がよい出会いができるよう、心から感謝しながら使わせていただきます!