調律師 ーLAGBAG MUSICー
久しぶりに自分のピアノの鍵盤に手を置いてジャーンジャーンと和音を奏でた。音が出ない鍵盤もある、そして音がくもっているような・・・。アップライトタイプだから?いや、もしかしたらこれは重症なのかもしれない。最後に調律をしたのはいつだろうか?思い出せない。
そう思ったタイミングで、知り合いが眠っていたピアノを調律したことを知り、詳しく聞いたら
"すごく魅力的な方で、ピアノのメカニックなことに詳しく、とっつきやすい!"
その言葉だけで、申し訳ないと思いながらも 真反対の半島の鹿児島市内からわざわざ来ていただきました。
LAGBAG MUSIC の上山大輔さん
子供のころは毎年調律師さんには来てもらっていたのに、作業の流れを見るのは初めて。
ささっと調律道具一式を床に並べる上山さん。
いろんな道具がたくさん。
外装板 等が外されて内部が出てきた。ハッした。初めて自分のピアノの中を見た、申し訳ないやらはずかしいやらの気持ちになる、この今ごろ感。
ピアノの構造をきちん理解できていないのですが、
鍵盤を弾くと鍵盤奥がシーソーの原理で上がり、アクションという構造がハンマーに力を伝えて、ハンマーが弦を打つ 。
もう少し詳しくすると、弦の振動が響板に伝わって、空気の振動で、ピアノの音色が生まれまる。
という鍵盤楽器だってことをそこで改めて知りました・・・なさけない。
作業は始まった。
まず、
鍵盤の押さえ棒、弱音装置のマフラーバーも外し、
ロングミュートという赤いフェルトを弦のあいだに波状に挟み込んでいく。
文字通り調律の際に他の弦が鳴らない様に消音(ミュート)する為に。
高音では一音に対して3本もの弦がある。低音 2本。
(よく見るとたくさんの弦!
ピアノの弦は1本平均90キロ!!という強い力で張られているんだそう。だからピアノを弾かなくても、時間がたつにつれて弦が伸びていき、音程が乱れてくる。)
次に"音叉"という道具で"基準"の音を決める。
音叉を使い、ドレミファソラシドのラ、の音と同時に鳴らして音を合わせていく。
何か"儀式"が始まるような感じがしてワクワクする。
音叉を口にくわえる人もいるようだが(音が骨伝導で頭に響くのでしょうか?)、上山さんはやらないそうです。
「歯が悪くなるのでね(笑)」
ちなみに調べたら、この"ラ"の音は国際的に440Hzと決まっているのだが、演奏者によっては(おそらくプロとか?)442あるいは443Hzに設定することもあるようだ。
そして88鍵、一鍵盤ごとザッと叩きながら、全体の音や動きを確認。
音が響くたびに大丈夫かな?とドキドキ。
どうですか?
「動いてますね(鍵盤は)そんなに悪くはないですよ。」
ホッとしたけど、大丈夫ってことは、使い込んでいないことがバレバレ?とはずかしくなったけど上山さんはテキパキと作業を進めている。
「ではまず鍵盤の下のそうじから始めます。」
と、ガバ!っと鍵盤を持ち上げたんです!
え?!おわっ!?取れるの?ええ!?
掃除機をかけ、鍵盤を支えている?鍵盤の高さを保つ?ピンも丁寧に拭いていく。
「ピンを磨くだけでも鍵盤の動きがなめらかになります。88鍵あるから全体の弾き心地ってまったく変わってきますよ。」
そして鍵盤が戻される、ここまでの作業を動画でまとめました。
音なし、8倍速で。
映画「羊と鋼の森」では調律師がドラマティックに描かれていた。
主人公が"自分の美しい音色"を作りだすことに苦悩する。
目に見えない音 を作る仕事のストーリーなので、音の変化を映像で見せるために"色気”(変な意味ではなくて)を使っていたのだけど、
この映画を見て、調律師という職業にも少し色気を感じてしまった、と作業をしてる上山さんに声をかけてみた。
「僕も観ましたよ。あれは・・・描き方がね・・。」
少し歯切れの悪い返事が(笑)
「実際は調律は音を合わせることなので、作業内容としてはメカニカルなことが多いですよ。弾き心地だったり、鍵盤の高さをそろえるとか。
鍵盤の沈む量・運動量です。(ピアノアクション)
調整が弾き手の好みの調整があたったりして。
調整基準ってあるんです。
基本通りやることが大事だと思ってます。
僕はアレンジとかはないです。
調律には勝手はアレンジってないかなと。勝手な調整をすると独特のピアノになってしまうと思っているので。それが自分のピアノならいいんですけど。
調律は技術であって、弾く人がアーティストだから
ピアノの音を普通にすることが大事だと。」
追求するところは「基音」ということだろうか。
ドレミファソラシドのひとつひとつを純粋値に持っていき、88鍵が自然な響きになるように。
あとは弾き手の問題、なのかも。
調律師には絶対音感は必要ですか?
「絶対音感はあったことにこしたことはないですけど、
相対音感の方ですね、どちらかと言うと。
調律師が使うのは、この音に対して高いか低いか
同じラの音でも、音に"波"が"揺れ"が生じる
"音波"が生まれる それを利用して合わせて行く。」
相対音感とは誰にも本質的に持っているもの、と聞いたことがある。
「調律って訓練すれば誰でもできますよ(笑)」
あっけらかんと上山さん。
上山さんは元々は兵庫県西脇市のご出身。
ピアノとの付き合いは子供のころ。
ピアノは習っていた。隣の子がピアノ買って自慢された。
「その時聞いたピアノの音がすごいいいなと思って衝撃で。
二人兄弟だったが ピアノを買ってくれてって親に頼んだんです。
親からは
ずっと続けないさいよ。約束だよ。 」と念を押される。
でも、中学校では野球をやりたくなってピアノから離れるが、
家にはずっとピアノがあり、父親のご友人の調律師がずっと来ていた。
高校のときに進路の時に 父親に調律師を進められる。
「両親は教師だったんですけどね、大学とか行かんでいいと。
行っても遊ぶだけだから、手に職をつけなさいって。」
大工になるか、レコーディングの専門学校か。
結局大工ではなく、PAやレコーディングエンジニアの道へ進むが転機がくることになる。
「 PAは主にコンサートイベントなので時間は決まりありますが、
レコーディングエンジニアは納期のため徹夜とか不規則になりがちなので、長くは続けられないと思い。」
いろいろ思い直し、浜松のYAMAHA調律養成所(全寮制)に入ることに。
ちなみに、今でも上山さんは依頼があればPAのお仕事はされている。機材のことにとても詳しく安心感がある、という声を聞きます。
さらに調律の作業は続きます。
弦が巻き付いているチューニングピンにチューニングハンマーをはめて、左右に動かしながら音を調節していく。弦の張り具合を調節して音程を揃える、調律師になくてはならない道具である。
言葉で説明するよりも、まずこの動画を見てもらった方がわかりやすいかも。音出ます。
作業をしながらも、どうやって調整をしているのか上山さんは丁寧に説明してくださった。その言葉が普段聞かない言葉がたくさんで、少しおもしろかったのでそのまま掲載します。(いつもの記事なら、伝わりやすくまとめるのだが)
「ぴったり合わせ過ぎると 音がつまったように聞こえるので
ちょっとズラすというか ユニゾンの状態を
(ユニゾン=2つ以上の音をぴったり同じ高さに揃える。弦は3本だから、それぞれから基音を引っ張り出す)
まったくおなじところをみつけて
のびていくような音をめざす
チューニングハンマーで
チューニングピンをさわって
弦が低い方にズレちゃうんです
重要なのは
しっかり弦をたたいて 振動させて 強い音でそれ以上下がらないところで止める
しっかり打鍵をすることで
弦とかしっかり振動をさせてこういった鉄のすきまとか全部
もういろんなところに隙間があるんですよ
だーんと叩いて 音がさがるってことはどこかが たわんでたりして
しっかり調律のときに
わたしは打弦と言うんですが」
いろんな言葉が出てくるので、私はキレの悪い はあ〜・・・
という返事しか出てこない。でもなんとなくわかる。
「ピアノは弾いているうちに、叩いてるうちに音は変わってきますから。
真ん中の音にしておけば 1ヶ月もすれば 多少音が変わるんで。
一音で音楽は聴くことはないから、全体で聴くんですけど、
一音だけ落とした時 普通にトーンっていってるだけなんですよ
トーンと言ってくるだけだけど
人によっては四角い音っていう方もいますね。
かっちりした音というか。
これはちょっとチュワ〜ン。
(高音をたたいてる)
一番下にゴロゴロってなってるんです。
(今度はグッと下の低音の鍵盤を叩いてます)
地鳴りのような
あ、今あがりました」
もう宇宙との交信を説明されてるようにしか聞こえない!
というか何かが生まれる瞬間のような。
ピアノに新しい生命を吹き込む作業だと言っても過言では無い。
すべて人間の感覚で行われる作業。
動きが悪い鍵盤がいくつかあった。
上山さんは羊の毛で作られたハンマーを器用に取り出す。
(ちなみにピアノ1台になんと、羊3匹分もの羊毛!)
「関節が固まるわけです。丸々交換する人もいるけど、
僕は元あったパーツを使います。新しく変えた方が簡単なんだけど。
でも元パーツを使わないと、歯の噛み合わせのようにハンマーと弦のあたる角度が 弦が長年そこにあたっている癖がついている。
いい癖がついている。
弦が叩くハンマーの場所って決まってしまう。
弦跡はないといけないもので、
新しく変えてしまうと 微妙に角度がかわってしまう。
そうしたら、3本同時に当たっていたものが ほんのちょっと変わるだけど
同時に当たらなくなると音が変わってしまう。
その音だけ違和感が出てきてなじまない。
そういうことで同じパーツの使えるものはできるだけ使う。」
と、いとも簡単に?器用に?何か小さいピンを変えた。再生させた!
上山さん、宮大工みたい。。。
そう、先にも書いたけど彼は進路で大工も考えていたのだ。
このハンマーのところで使っている接着剤についても教えてくれた。
「膠(にかわ)といって動物系の皮を煮詰めたものをつかっているんです。
接着剤。熱で温めると取れるようになってます。
ボンドだとやり直しがきかないので。
何回も修理して使う為の楽器は、膠を使っています。」
ピアノって修理ができる楽器だったんだ・・・
そんなことを初めて知る。
「修理のほうが大事だと思います。楽器が再生されていくのが楽しい。
めずらしい楽器 音がなるところを自分でさわれませんよね。
ハープとかは自分でさわる
ピアノくらいかも 音がなっているところを自分では触れない楽器。
アコーディオンとかハーモニカは空気の楽器だし
ピアノくらいです 調律師っていう仕事があるのは」
ピアノ調律、知れば知るほど奥が深い。
調律ってなんだろうって思う。
「調律した音が、保持力というかちゃんと持つというか
すぐ崩れるようでは弱い調律。
僕もいろんな方法的に考えた時に
普通にするというか
一番の普通の状態ていうのが難しい。」
上山さんは最初から最後まで、基本・普通ということをおっしゃった。
仕事でいつも調律をやっていると、他に楽器を奏でたくならないものだろうか?
「やってますよ、コントラバスをやってます。」
長年、バンド活動もやられており、
他には「LAGBAG MUSIC」は音楽で暮らしを豊かにをコンセプトなので、小編成のバンド/オーケストラも持っていらっしゃいます。
これ、とても豊か♪子供たちがかっこいいです!思わずニンマリ。
コントラバスはその太く低い音が特徴的。ギター・バイオリンといった花形の楽器とは違って地味に思われがちだけど、オーケストラにはなくてはならない縁の下の力持ち。
そういえば、PA・レコーディングエンジニアもなくてはならない縁の下の力持ちだ。ミュージシャンたちがライブをする時・レコーディング時の心臓部。
そして、調律師もピアニストにとってなくてはならない存在。
上山さん・・・失礼な言い方かもしれないけど、
”裏方”的なことにまわることが多い?
「そういえば、バンドにしてもなんでも自分が荷物を持つことが多いですね(笑)」
単純だけどその言葉でこの方に調律を頼んでよかった、って思った。
あ、もちろんピアノは生き返り音もなめらかに出るようなりました!
濁りのない。
ただ、私の指がまったく動かなくなっており、ピアノの音色を彩れてない・・・。
楽器は日常的に楽しく、毎日触れることで本当の意味で命が吹き込まれるのだ。
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