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書評:あおきまみ「つきあったら、クリスチャン」
友人のあおきまみさんが近頃作家になりました。「つきあったら、クリスチャン」というわかりやすいタイトル(笑)の自伝的な短編を出しています。
生活綴方出版部より「つきあったら、クリスチャン」というタイトルの本を本日発売いたします🌬
— あおき まみ (@mamii_web) September 28, 2024
誰の手に届くのかな〜なんて考えながら昨日まで製本作業してました🎈#本のまち八戸ブックフェス にて初売りです📚️生活綴方のブースにも立つ予定です〜お待ちしております🐈️#生活綴方出版部 pic.twitter.com/A9IeVnY4UO
僕の独断あらすじ。
地方から上京してきた女子大生(まみ)が、クリスチャンの彼氏(T君)によってわりと原理主義的なプロテスタントの教会に連れていかれます。主人公の女の子は知的で合理的で主張する人物です。やはり考え方や信仰や行動様式の面で教会を受け入れられない。それで挫折したり失恋したりします。T君の教会からも出ていきます。
しかしなぜか別のプロテスタントの教会に行くことを決めて、今度はそこで少し違った出会いがあります。キリスト教徒を自称している人々にも、ホンネとタテマエがあり、いろいろな考え方の人がいて、身も蓋もない話で場を凍らせる人物もいる。新しい教会で出会った人たちとの交流やキリスト教徒たちの言葉から、主人公の女の子は何かを得て、勝手に納得して、勝手に成長して、勝手に立ち直っていく。しかも、いわゆる「敬虔なキリスト教徒」にはならないまま。
考察
実は僕自身、プロテスタントの教会に通っていたし、「つきあったら、クリスチャン」の時期のあおきさんと少し関わっているので、あまり客観的に読めません。なので、2度読みました。
筋としては主人公が、恋愛して、異質な社会と出会って、挫折して、成長する「青春もの」なのだと思います。「ロミオとジュリエット」が信仰的に相いれなかったらこんな感じになるのでしょうか。「あなただけ見つめてる」から資本主義批判へ、依存から解毒へ。どこへ向かっとるんや?
一般の読者たちとも少し話したのですが、彼らがこの本を読んで「2度泣ける」と言っているのは、「つきあったら、クリスチャン」みたいな経験は、多種多様な日本語人の読者たちにとってありふれている、あるいは追体験しやすい哲学的瞬間だからだと思います。同調圧力の強い日本社会では、マイノリティーの社会も同調圧力の強いものなのです。家族や恋人や友人にマイノリティの人々がいれば、「自分は普通の日本人」と思っていても、異質な集団からの同調圧力を感じる経験をすることはある。だから、自分がアウェーとなるコミュニティで生活する苦しさやぎこちなさというのは、マイノリティでもマジョリティでも、ある程度共通の経験なのでしょう。筋肉少女帯で言うところの「アウェー・イン・ザライフ」です。
僕はこの本を読みながら、「文体はすっきりしているのに、感覚は大槻ケンヂっぽいな」と思いました。主人公の女の子は、別にキリスト教的な意味での「救い」を求めて教会に行き始めたわけではないので、教会側が想定している「愛のマニュアル」が通用しないわけですね(笑) そして、この本は、キリスト教的背景の無い普通の日本人の読者に向けて、日本人クリスチャン社会に関する参加型の(しかも恋愛感情などがじめじめと絡み合った)エスノグラフィーを提供している点で、面白いです。
この物語の中の社会を読み込もうとすると、万人への愛という方向性と、教会内の規律を守ろうとする教会の人たちの在り方の緊張感とかを窺うことができます。キリスト教の教えと日本社会の現実の齟齬や乖離をうまく埋める器用さが無く、既存の秩序を保とうとした結果、より排他的な社会を作ってしまう。主人公の挫折と復活の物語は、教会側から見ると「教会で育ってきたT君がノンクリスチャンの女の子連れてきちゃった!」「すごい直球のノンクリスチャンの女子大生が教会来て空気読まないからどう対応したらいいのかわからない!」という事件です。日本のクリスチャン社会あるあるです。最後の方になんかすごいイケメン風の人が出てきてびっくり仰天の自己開示やら不思議なキリスト教論を展開していくのですが、彼の発言も教会員としてはやはり逸脱しているのかもしれません。
あおきさんは、私小説という形式を用いて、日本のキリスト教社会の不思議さや面白さを文字にしている。ただ短編だから、個々の出来事の詳細や人物像の掘り下げは最小限に制限されている。僕は著者を知っているので、この物語は中編としてもっと日常的なおかしさを書き込んでもいいのかなと思ったりはしました。
物語としても体験談としても面白いし、1-2時間くらいで読める本です。あんまり難しく考えないで手に取って読んであげてください。
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