公立病院改革3-10【診療圏4 ハフモデル分析】〈2006年〉東北170床 公立F病院
ハフモデル分析とは、D.H.Huffが開発した商圏分析モデルで、日本でも、主として商業施設の商圏分析に適用され確立した。
この分析手法は、病院をはじめとする医療機関を含む、有店舗型事業に対して有効である。
有店舗事業には、必ず「商圏(その商品やサービスを提供できる物理的な圏域)」が発生する。
通常は商圏が半径500メートルとか半径30キロメートルという形で表現するが、実際の商圏が、一定の半径の同心円になることはない。
ハフモデル分析は、その商圏内の競合施設間の顧客吸引力を算出し、商圏人口に乗じて獲得来客数を計算し、地域の購買力を乗じて売上高を予測する手法である。
このハフモデル分析の論理は、GoogleMAP、ビッグデータの飛躍的発展により汎用化され、現在では各所のエリアマーケティングで必須ツールとなっている。
医療機関の診療圏分析への応用も、古くから細々と行われていたが、当時はまだ普及途上の手法であった。
しかし実は、医療は価格、診療圏、診療科、患者人口など、測定しやすい客観データが揃う業界で、本来的にはハフモデル分析が適合しやすい業種であると思う。
ところで、当時の公立F病院は、赤字の累積、市町村合併の影響による政治問題に加えて、近隣への三次救急N病院移転が控えており、まさに「泣きっ面にハチ」状態であった。
(業務中の5月に、N病院移転は完了した)
そのため、診療圏分析は「N病院移転前と移転後のハフモデル結果」に重点がおかれ、レポートは次のように締めている。
『ハフモデル分析をN病院の移転前後で、それぞれ実施した。
公立F病院の外来患者数は、N病院の移転により、理論上、1日あたり48人減少することになる。
入院患者数も、移転前と移転後では、1日あたり14人減少することになる。
現状の公立F病院の外来患者数は、300人台をキープしており、ハフモデル分析の結果と大きな違いはない。
他方、入院については、現状、ハフモデル分析の結果よりも少ない実績数字となっている。』
この結論は、とても明快で分かりやすい。
当然、結論に至るまでには厚い分析過程があり、その中には僕がY氏と回った各病院の観察結果も「顧客吸引力」形成の一材料として盛り込まれている。
仮に、分析が仮定の積み重ねに基づいていても、多少の不安定性を有していても、意思決定に資する情報提供が行われる事実が大きい。
この診療圏分析に参加して以降、僕は、既存の分析結果や自らのマッピングに複数の仮定を付加して、クライアントに動態的な判断材料を提供するようにしている。
こうしてワークショップ、診療圏分析、僕の拙い財務分析など、コンサルメニューが着々とこなされていく。
しかしこの後、忘れもしない2006年8月、この業務と全く無関係の地域で、日本の地方自治を揺るがす大事件が起こる。
そして我々の公立F病院業務は、この事件の影響を受ける形で、思わぬ方向に急展開していくことになる。