【読書】『自閉症の僕が飛び跳ねる理由』
なんと繊細で、省察に満ちた文章なのだろう。
図書館の棚で見つけて手に取り、読み終えるまで、動くことができなかった。
障害に伴う様々な困難やそれに対する歯がゆさ、家族への感謝と愛情、それらを余すことなく伝える豊かな表現に、ページをめくりながら何度も胸が熱くなった。
既に世界的ベストセラーとなって久しい本書だが、自身の記録も兼ねて、書き留めておきたい。
『自閉症の僕が飛び跳ねる理由』
本書は、重度の自閉症者である東田直樹さんが、13歳の頃に自身の体験や思いを記した本である。
僕が望むのは、自分が居ても良い場所があることです。それは、自分の好きな物に囲まれた場所だとか、環境が整えられた場所だと思われているのかも知れませんが、僕が望む場所とは、特別なスペースのことではありません。
・・・
その人が、大切な家族を思うように接して下されば、きっとそこが僕にとって、最高に居心地のいい場所になると思います。
東田さんにとって最も耐えがたいのは、自分の存在によって、周囲が困ったり、辛そうにしている様子を感じ取った時だという。
東田さんは、周囲と違うことへの行き場のない歯がゆさを常に抱えて過ごしてこられた。
周囲の疲弊や困惑を感じ取ると、自責の念にも似た孤独感に苛まれるのかもしれない。
感じ方や傷つき方は、健常者のそれと何ら変わりがないこと、裏を返せば、それを取り立てて強調しなければならないほどに、自閉症者と健常者の間には大きな認識の隔たりがあることを痛感させられる。
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もう一つ、本書からひしひしと伝わってきたのは、自分を支えてくれる家族に対する深い感謝と思慕だ。
こんな風に自分の未来について考えることができるようになったのは、家族の愛があったからだ。家族は、自分がどんなに大変でも、僕のためにできることは何でもやってくれる。そして、いつも明るく楽しそうにしている。家族が僕のために頑張ってくれている姿を見て、僕も自分にできることを探して生きていかなければならない、と思うようになった。
東田さんは後書きの中で、本書の執筆に至った経緯をこのように振り返っている。
状態の良いときも悪いときもできるだけ起伏無く、一定の態度で接してくれる家族の存在が、東田さんに精神的な安全感をもたらしている。
援助者である家族が一貫した安定的な愛情を示し続けること。
それが、東田さんが一時的な混乱から回復する大きな助けになるとともに、将来への希望を見いだす原動力になっていることが伝わってくる。
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ところで、本書で述べられている接し方というのは、自閉症者と対峙する場面に限られないのではないだろうか。
障害を持つ方、支えを必要としている方と関わるあらゆる場面で、心に留めておくべきことのように思う。
さらに考えを進めれば、違いを当たり前のものとして受容し、安定した愛情を持って接することの大切さは、家族や身近な相手に対する基本的な姿勢にも当てはまるように思えてならない。
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