シェア
何処とも知れぬ場所に在る"キャバレー・ヘル・パラダイス" 広いホールには大きな丸テーブルが並び、高い天井からはきらびやかな巨大なシャンデリアが下がっている。 そこに寛ぐタキシードやイブニングドレスに身を包んだ紳士と淑女。 流麗なストリングスを奏でるオーケストラをバックに妖艶な歌姫が気だるげに歌うジャズナンバーの数々。 ハスキーな声が歌うのは誰も聴いたことのないナンバーだった。
Ⅰ 電話が切れたあとは、せっかくのひとりきりの時間を楽しむ気が失せてしまった。会計を済ませ、バーを出る。 結局、友人には電話できなかった。時間が遅くなってしまったせいもある。何を話そうかと余計なことを考えてしまい、気後れしてしまったのもある。 大通りまで戻り、タクシーを捕まえて自宅のあるマンションに帰ってきた。 麻里恵には部屋の鍵を渡してあった。そのマリエは電話で言っていたとおり、わたしを待っていた。ベッドの上に横たわり、一糸纏わぬ熱い体と燃える心を抱えて…。