日高ショーコ新刊「アノマリーライフ」〜過去や未来が見えたとて
日高ショーコ先生の新作は、これまでの作風とはまたガラリと変わった一作。大変面白かったです!!
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(※当エントリは「アノマリーライフ」のストーリー等に触れております。結末など核心に具体的に触れるようなことはないと思うのですがしかし、この作品の内容についての一切の情報に触れたくないという方はここでお別れしたほうがよいかとおもいます、すみません!)
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改めまして、1月6日発売・日高ショーコ「アノマリーライフ」上下巻について。
一応ジャンル的にはBLとなるので、メイン購買層に向けてこのような感じのあらすじになっているのだと想像しますが、(BL要素はさほどではなく)前述の通り、サスペンスとミステリーこそがこの話のメイン。主人公ふたりの「未来を見る力」「過去を見る力」というのが、思ったより複雑…いや力自体はその言葉通りなんだが2つ合わさると複雑に綾をなしていくのが、このお話の面白いところ。サスペンスとミステリーと言いましたが、かいつまんでいうとこの物語は、二人いる主人公のうち、未来を見ることのできる晶(あきら)側のストーリーはミステリー、過去が見える蛍側からのストーリーはサスペンスとして描かれ、この2本のタイムラインが同時にお互いに向かって進行する、という構造になっているのです。なんて面白いことを思いつくんだ!
ある日突然、幽霊みたいに部屋にふらふら浮かんだ幼馴染・蛍に「助けてくれ」と言われて、彼を探し始める晶視点から物語は始まるので、「今、蛍はどこにいてどういう状況なのか?助けてくれとは?」という謎を解くのがまず与えられたミッション。直後、血まみれになって倒れている蛍の残像も見てしまい、とにかく蛍に関する最悪なエンドを回避するために、晶は奔走する。が。
読者もこの晶視点の、どこかに行ってしまって困難に遭遇してる幼馴染を不思議パワーを駆使して探す話、を読んでいくわけですが、これが「晶側の話でしかない」ということにそのうち気付かされ、一気に裏返るのが気持ちいい。
晶は「未来を見ることができる力」があるので、彼に訴えてきている蛍というのは、未来にいる彼。その、未来にいる蛍は「過去が見える力」がある。つまり、未来にいる蛍からみた現在の晶というのは、蛍(のいる現在)からしたら過去の晶であるという、このよく考えたら当たり前にある可能性だったのに、気付いたときには「あ、そうか!」となってしまいました。
とにかく、晶は「これから起きようとしていること」、蛍は「すでに起きてしまっていること」を回避しようとしているという二重のドラマが、複雑で読みながらこんがらがりつつ、読み応え抜群で最高でした。
過去はすでに起きてしまっているので変えられないが、未来は見えた時点でまだ変更可能であるわけで、それは物事が確定するごと失われた世界線がある、ということでもあって。大変な修羅場を経たふたりもいれば、事が起きる前に回避できたふたりもいる。そんな、言ってしまえばマルチバースあるあるについて、不安を覚える蛍に、晶が「結局同じところにたどり着く」と言い切っていたのが良かったです。
結局、自分を、そして互いを信じることが重要なのであり、過去や未来を見る力とかはそこに関係ないんだというメッセージはストレートに力強く美しいなと感じました。