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【こんな映画でした】843.[愛人/ラマン]

2023年 8月30日(水曜) [愛人/ラマン](1992年 L'AMANT THE LOVER フランス/イギリス 116分)

 ジャン・ジャック・アノー監督作品。1995年4月21日におそらくテレビ放映で観ている。二回目となるが、初めてと同様だろう。そしてこの映画の描くラブシーンなどが話題となったことだろう。ただその奥にある「愛」というものを考えるには、表面的なものに惑わされずにじっくり観ていく必要がある。

 主役のジェーン・マーチは撮影当時18歳か。何ともいえない魅力がある。相手役の中国人はレオン・カーフェイで撮影当時33歳、役柄が32歳だと言っていた。やはりキャスティングは大変だったようだ。

 男女間の愛情が始まるきっかけは様々である。そしてさらに様々な条件が絡み合って、それらは成就したりしなかったり、と。たいていは結ばれないのが常であるが。そして何よりもその間柄が「愛情」といえるもので結びついているのか、それともここでのようにお金目当てということでなのか。そんなこともあって人は素直に愛だと信じることができないのだ。

 フランスへ戻る船の中で、彼女は流れてきたショパンのワルツをきっかけに泣き笑いとなり、愛していたのかもしれないと気がつくのだった。この泣き笑いのアップのシーンは、美しいものではないかもしれないが、見事である。共感できる。

 1920年代の後半のフランス領インドシナ、今のベトナム、そしてサイゴンを舞台にしたラブ・アフェアであった。ラストシーンは彼女が作家となり、何度かの結婚と離婚、出産の後の「戦後」とされる時期のパリでのモノクロのシーン。おそらくあの時から20年以上経っているであろう。彼女の元に電話が掛かってくる。「あの中国人」からである。彼女の弟が亡くなったことに対するお悔やみを言った後は、もう言葉が続かず、最後に「死ぬまで愛し続けている」とつぶやいて電話は切れたようだ。

 もう永遠に会うことはない人との最後の電話での会話というのは、こんなものなのだろう。もう、もはやお互いに話すことは何もない。悲しいことだが、これが現実だろう。

(ラストシーン、彼女の独白) 彼の声はオドオドして震えていた。懐かしい中国なまりのあの声。私が作家になった事や、下の兄の死を知っており、彼はお悔やみを言い、後は言うことがなくなった。それから、昔と同じようにあなたを愛している、と言った。死ぬまでずっと愛し続けるだろう、と。

 メイキングで監督が、この女優ジェーン・マーチにようやくたどり着いたとき・出会ったとき、彼は鳥肌が立った、と表現していた。容姿では何といっても「眼」であり、眼を見れば分かる、と。私も感動のあまり、鳥肌が立つことがある。それは音楽であったり、そしてこのような映画のラストシーンであったり。身体は正直なのだ。頭でどのように考えようと、自然に反応する。私はこのことをうれしく思っている。そしてこの先もずっと、それを大事にしていきたいと思う。

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