【こんな映画でした】3.[スタンドアップ]
2021年 3月17日 (水曜) [スタンドアップ](2005年 NORTH COUNTRY アメリカ 124分)
『ジェンダーで読む映画評/書評』(杉本貴代栄 学文社 2020年 2200円)の映画評で紹介されていた一作。
辛い映画であった。人間としてという前に、私は同じ男性として恥ずかしく情けなく悲しく思った。攻撃される側の女性からしたら、そんな甘い感傷を、と指弾されるだろうが。
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ニキ・カーロ監督作品。初めて観る。ニュージーランド出身とのこと。名前からでは分からないが女性で、撮影当時38歳くらい。主役ジョージーはシャーリーズ・セロン、撮影当時29歳、南アフリカ出身。細身だが強靱な精神力を持つ主人公を演じている。初めて観る。ハリウッドでは美人女優ということで有名なのだそうだ。
主人公とともに戦う弁護士役は、ウディ・ハレルソン、撮影当時43歳、初めて。なかなか渋い。あと男優ではショーン・ビーンがカッコいい。女優ではグローリー役のフランシス・マクドーマンド、母親役のシシー・スペイセク。
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原題は、まさしくアメリカ合衆国の「北の国」「北の地域」なのだろう。主産業は石炭産業。鉱山である。ほとんど男だけの職場と思われているが、1975年から法的に女性も雇用しなければならなくなった。
つまり男の職場に女が、ということで強烈なセクハラや差別が行われることに。自分たち男にしかできない仕事という誤ったプライドが、女性への攻撃に転化する。自信のなさや職を奪われるという恐怖もその根底にあるのだろう。
しかし根本的には女性蔑視・女性差別が、つまり非民主的な・封建的な遺風が厳然と存在しているということだ。このことに地域の違いはない。根源的に人間としての問題だ。
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その執拗な嫌がらせは、常識ある人間の取るべき行動の真逆のもの。それが集団心理もあって平然とやってしまう。悲しいことだが、人間というのはいくらでも人間として崩壊し、堕落し、醜悪になるものだ。
これが現実である。しかし攻撃される側の女性からすれば、そんなことでは済まない。それらは彼女たちの自尊心やアイデンティティを侵襲し、その人権を侵害する、悪行であり悪事なのである。しかし生活が掛かっている彼女たちには、仕事を確保するために泣き寝入りするしかなかったのであった。
そんな中で1984年に集団訴訟に立ち上がった女性たちがいたという、歴史的事実に基づいてこの映画は作られている。結論から言うと、裁判は和解の形を取ることに。それも1998年に。何と長い時間が掛かっていることか。
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アメリカ合衆国の本質、いや男が支配する世の中の本質を抉るものだろう。これが公開された当時、私はまったく知らなかった。少なくとも記憶に残っていない。まだまだこのような現実が世界のあちこちにあることだろう。それを人々に訴えていく映画が作られているということは重要なことだ。
このコラム「【こんな映画でした】」は。――映画を観たら、何かを感じ、何かを考えます。そんなことのメモ、――それがこのコラムです。2022年 2月