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「グローバルキャリア」について考えるー優れた起業家の原則:エフェクチュエーションの視点から

首都大学東京(4月から都立大学)国際副専攻コース設立5周年記念セミナーの、ゲストスピーカー&パネリストにお招きいただきました。テーマは「国際キャリアを考える」。私のほかには、JICAの方も登壇されました。

学生のみなさんには、聞きながら自分について考えてもらいたいので、講義メモとしてnoteにしておきます。

グローバルキャリアの選択肢

私は高校から大学まで、国際系のコースに所属していました。unicefでインターンしたり、ジュネーブの国連人権委員会インターンに合格したり、インドネシアの孤児院ボランティアをしたりしましたが、就職ではあえて国内のキャリアを選択。その後起業して、今はミャンマーやベラルーシ、イギリスなどでも仕事をしています。

海外での仕事を志すなら、次のような選択肢があります。

①日本法人から海外赴任する
②海外の現地法人に勤務する
③海外で起業する
④日本で起業して、海外に出る

国際公務員や国際的NGOなどへの就職も、国内いずれかに所属がありますね。私は④なので、講演ではこのストーリーをご紹介することにしました。

ロールモデルは持たなくてもいい

一歩学生に寄り添って話を聞けば、将来の選択に「よりどころ」が欲しいことがわかります。急速なテクノロジーの進化。10年前にはあった職業に寿命がきて、代わりに新しい職業が生まれている。親や先生が言うことと、ネットで流れる著名人が言うことの大きな開き。アジアの同世代のアグレッシブな活躍。

キャリアにおける「よりどころ」の定番は「ロールモデル」を持つこと。「私はどう生きるのか」の例を、外から見つけてくる手法です。

私には多くの尊敬する人がいますが、ロールモデルはいません。それはなぜかと問うてみると、私が「起業家だから」だと思います。

起業家はそれぞれ持ちうる能力も違う。企業規模も違う。ビジョンが似ていることはあっても原体験は違う。ビジネスモデルは真似られても、個人の進み方やあり方は完コピできない。「人」と「人による意思決定」が大きな差異を生む起業や経営の領域では、ロールモデルはあまり機能しません。

でもこれは起業家のみならず、予測のききづらい現代キャリアを歩む学生たちも同じではないか、と考えました。そこで、起業家教育の最新理論をご紹介しながらキャリアについて考察してみることにします。

優れた起業家の意思決定の原則

①私は誰か(手中の鳥の原則)

優れた起業家は、「私は誰か」「私は何を知っているか」「私は誰を知っているか」からスタートして考えます。成功可能性がありそうなことではなく、今できることを実行します。アイデンティティとリソースを明らかにするということです。

→キャリアなら、働く原動力となる体験や理由を振り返ること。また、Social Capital(社会関係資本)を増やし、信頼関係や協力関係を築くことは、学生でもすぐに着手できますね。

②どこまでなら失敗できるか(許容可能な損失の原則)

どうしたら最大の利益を得られるかではなく「どの程度の失敗なら許容できるか」を考え、その範囲内で挑戦します。失敗の予防にリソースを割くのではなく、挑戦に集中できる状態を整えます。これは、自分だけの成功/失敗の基準を持つこととも言えます。「失敗しないように」の思考は、ブレーキとエンジンを同時に踏むことと同じ。

→最近の研究*では、キャリア早期の挫折感がある人の方が、将来成功する可能性が高いことがわかりました。

③共につくっていく(クレイジーキルトの原則)

目的地を決めてスタートしていないので、関わってくれた人を次々にパートナーにしていきます。競わず創造活動に人を巻き込み、皆で行動から学びます。①の「得意」や「好き」がはっきりすればするほど、周囲とも組みやすくなります。社会人に「オール5」はないので、偏愛上等。

→私は「こんなことしてみたいけど…」と悩む大学生を、タイミングがあえばインターンとして受け入れ、プロジェクト化して一緒に取り組むことがあります。ある大学生はミャンマーでのワークショップ開催という実績を手に入れました。

④不測の事態から学ぶ(レモネードの原則)

予測できなかったことを新たな機会ととらえ、そこから学びます。失敗しても、それを新たな学びの機会に変えていきます。これは、プロトタイピングで試し、その結果から改善をはかる方法にも適用できます。

→Planned happenstance theory(計画的された偶発性理論)では、キャリアの8割は偶然の出来事であるという結論に至っています。その偶然を主体的に迎えるスタンスを持つことが大切です。

⑤未来は予測不可能(飛行機の中のパイロットの原則)

予想できない未来の中で「コントロール可能な側面」に焦点を当てて考えます。社会は予測不可能であるという前提に立ち、「今できることはなにか」を常に考えます。

目標の奴隷になってはいないか、常に問い直すことが必要です。この時のコツは、始めるときに複数の選択肢を持つこと。変えてもいいし、やめてもいい。挑戦ではなく「試す」のです。

以上が、エフェクチュエーションの理論から学べる「優れた起業家に見られる意思決定の原則」(+私見)です。これは特別な起業家だけのものではなく、不確実性が高い社会で歩むなら誰にでも役立つ力です。グローバルキャリアでも同様に、アイデンティティの確立と想定外を面白がる力、失敗を視野に入れて思いきり取り組んでみること、現地のことは現地の人に頼るなど、さまざまに応用できます。

そして、幸いなことにこの理論では「優れた起業家の特性は育てることができる」と結論しています。大人になっても人は成長できるし(脳の可塑性)、成人の学びは実践によって深まります(成人発達理論)。毎日の出来事が実験のチャンス。「起業家脳」を鍛えられる場を見つけ出し、仲間と少しずつスタンスを移行しましょう。

「インターナショナリスト」であろう!

私の大学時代のアイドルで、尊敬するお一人、JICAの元理事長・緒方貞子さんのお言葉に次のようなものがあります。

本当のナショナリストは、インターナショナリストである

「国際的なキャリア」は、あくまでも手段のひとつです。

国内で生涯働くなら、今のところ英語も必要ないし、文化や歴史、宗教観の違いに悩むこともほぼないでしょう。それでも私たちは「世界の中の日本」に暮らしています。私たちの選択が他国へ与える影響を自覚する必要があるし、国家間でいつ何が起こるかは予測できません。あえて言うまでもなく、日本の労働人口は減少の一途です。国際的な視点をまったく持たずに生きることもまた困難なのです。

複雑化した社会で予測不可能な未来に向かうには、今ある職業や社会がある前提で未来に備えるのではなく、今できることや常に広い世界を見て、思わぬ出来事すら学びの機会に変え、試行や創造を楽しむ。その先に、自分らしさを感じられる未来が象られていくのではないかと思います。その結果として、グローバルキャリアがあるかもしれないし、ないかもしれない。それでいいと思います。

いまキャリアに悩む学生さんたちと、いつかどこかでお仕事できるのを楽しみにしています。私もがんばります。

*ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院「Kellogg Insight」より

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五島 希里|港屋 株式会社
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