![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/64669352/rectangle_large_type_2_bc694cbd920109e3f9712e99370b6646.jpeg?width=1200)
裏:京都異界案内 降龍編
京都タワーのてっぺんから見る京都の町は、とても美しかった。食い込むロープと、身を切る風が無ければもっと素敵に見えたと思う。
「……で、なんで私は京都タワーのてっぺんに縛り付けられてるんですか」
私の横に座って暢気に煙草を吹かしているスーツ姿の男に向けて言う。
「言ったろ、龍を降ろす為だって」
「はあ」
意味が全く分からないし今の状況も分からない。就職面接の為に京都駅に降り立ち、会社から迎えにきたというこの男に従ってのこのこと京都タワーに上ったと思ったら、立入禁止の展望台の上のエリアに案内され、気がついたら縛られていた。
「まさかここまで素直に従うとは思ってなかったわ。お前バカなんじゃねえの」
「それは必死で就活している全就活生への侮辱と受け取りますよ」
「好きにしろ、時間だ」
そう言うと男は立ち上がり、私の正面の祭壇の前に立つ。咥えていた煙草の火を祭壇に山と積まれた線香へ移す。線香は瞬く間に燃え上がり、大量の紫煙が空へと上っていく。
煙に導かれるようにして、京の空に暗雲が立ちこめる。轟く雷鳴、降り注ぐ豪雨。リクルートスーツが駄目になっちゃうと心配する私の頭上で、天を切り裂く雄叫びが響く。
るううううぁぁぁぁっっ!
鼓膜が破れるかと思ったのもつかの間、雲を切り裂き一つの存在が顕現する。
「あれは……」
私の言葉に、男が呟きを返す。
「あれが龍だ。角は鹿に似、頭は駝に似、眼は鬼に似、頸は蛇に似、腹は蜃に似、鱗は鯉に似、爪は鷹に似、掌は虎に似、耳は牛に似るという伝説の霊獣だ」
だけど男の言葉の半分も私は聞いていなかった。顕現した龍が私へと『降りて』きたからだ。ようやく男の言葉の意味を理解した私の中で龍が跳ね回る。自分のものではないかのように暴れる身体は、男が私の額に謎の札を貼った瞬間に収まった。
「無事に『降りた』みたいだな。それじゃあ今から、百鬼夜行の征伐といくぞ」
にやりと笑って、男が言う。
【続く】
いいなと思ったら応援しよう!
![きさらぎみやび](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/24509234/profile_fb088d3c6f7819153f0e305639740e38.jpg?width=600&crop=1:1,smart)