ぼくの名前は茜5
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この時からぼくたちは、毎年春と秋にある競技会をめざして、毎日練習した。
朝夕2回のおさんぽの時も、ご主人様の横について歩く。歩きながら道端で、クンクンしないで、公園につくまでまっすぐに歩く。「止まれ」と言われたら「ピッ」と止まる。「走れ」と言われたら走る。合図通りにしないと叱られる。出来ると、ごほうびのおやつをもらった。叱られもしたけど、競技会の練習は、楽しく充実していた。
黒太も競技会の練習が好きだった。号令をきいて、止まったり走ったりするのが楽しいらしい。ゲーム感覚で時間を忘れるみたいだ。とりわけ「止まれ」と言われて、ピタリと止まれた時が好きで、ご主人様と目が合う瞬間がこの上なくうれしい。そうしてワクワクしながら次の号令を待っている。まったく、黒太は素直でいい子だとぼくは思う。ぼくの自慢の弟だ。
ぼくは、訓練は楽しくて嫌じゃないけれど、黒太と違って時々めんどくさくて練習したくないときがある。
はじめての競技会から5回めの春がきた。
ご主人様はこの頃、バタバタと忙しくて仕事からの帰りも遅いし、週1回の先生のところへ通う訓練も休みがちだった。
またもや桜が咲き、そして散って、若葉がまぶしい五月になった。
ご主人様は、ぼくたちの知らないところにお嫁に行ってしまった。
ぼくと黒太は、その日から毎日ベランダに出て、ご主人様の帰りを待つようになった。
「訓練楽しかったなぁ」
この時からは、ご主人様のお父さんとお母さんがぼくたちの、お世話をしてくれている。
心配はいらない。毎日おさんぽに行って、公園で遊んでいる。おいしいごはんもたべている。「おりこう」と言って頭もなでてくれる。
ぼくは、黒太とも相変わらず仲良くしている。時々は、黒太がひなたぼつこしているところに横はいりするけど、黒太はおこったりしない。
食欲も満点で、なんでも食べる。といってもドッグフードの他は、少しの野菜だ。
にんじんやキャベツの芯は、コリコリして大好きだからたくさんねだって食べた。ねだられると、ご主人様のお母さんも、野菜だからいいと思って、どんどんくれたんだと思う。
ところがぼくたち兄弟犬の体質には、ちょっと食べすぎてしまったようで、おしっこがたまるところに石ができてしまった。ある日石がつまって、おしっこが出なくなった。
ぼくも黒太も仲良く同じようにつまった。今は医学が進んでいて、腹腔鏡手術というもので、石をとり出してもらい、助かることができた。
助けてもらってありがたいはずの病院だが、ぼくたちは、ますます病院ぎらいになってしまった。
それからは、ごはんやおやつの食べ方を、とても気をつけている。
そして、元気でいられる事を大切にするようになった。
ご主人様のお母さんは、ぼくたちがごはんをたべるとそれだけで、「おりこう」と言う。うんこやおしっこが出ると、「おりこう」、「よかったね」と言う。
おさんぽして、ピョンピョン歩いたり、走ったりするたびに「おりこう」、「よかったね。よかったね」という。
だからとくべつにがんばることはしていないけど、いつもいい気分でホクホクして過ごしている。
おさんぽも、時々めんどくさくて「ひなたぼっこしてたいなぁ」と思うけど、おさんぽに行くようにしている。
ぼくは、このうちが好きだから、黒太といっしょにずっとこれからも、長生きしようと思う。
それから今だって、お嫁に行ったご主人様の帰りを待っている。
おしまい
「ぼくの名前は茜」1〜5まで
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