海外オーダーギターの基礎知識
まず最初にオーダーギターに至った流れだが国内にあるギターは正直高いし売れることを考えて冒険したギターは少ない。
実際、楽器屋に行くと前まで30万で買えたギターが50万なんてのはざらにある。しかも木目やピックアップまでこだわり始めるとキリがない。
そういうわけでギターをオーダーしたのだが手元にギターが届くまで大変苦労したことをここに忘備録として記しておく。
1 奴らは納期を守らない
題名の通りである。我々、日本人は常に納期を守り勤勉し常に少ない時間で成果を上げる民族である。
これは社会人として当たり前のことだとお父さんやお母さん、尊敬するべき上司に常々言われたことであろう。
だが、ホモサピエンスの中でも自由に仕事をして限りある時間を何に使ったか分からないような人種もいる。もちろん人種差別はしないが日本人であるあなたたちはこれを反面教師に捉えるかうらやむかは自由である。
さて、こと納期を守らない人間たち、それは欧州人である。
まず最初にオーダーフォームとともにどれくらいの期間で出来上がるか?という文面を入れる。
そうすると彼らは必ず6か月から12か月と答える。その中でできた仕事を写真にして送ってくれる。
なるほど、ここまで出来上がったのか、と満足すると思うが事態はこれをさかのぼらねばならない。
まず、オーダーの前知識として彼らが計算してくれた金額が送られてくる。
それはドルだったりユーロだったりする。私はイタリアとポーランド、二つの某カスタムギター会社に依頼したがユーロで合計を伝えてきた。
オーダーギターはその合計金額から前金で40~50%の支払いをする。
おおよそ2年半前だったのでユーロと円の価値はおよそ1ユーロに対して125円ほどだったのは覚えている。
それを銀行経由で送金するが送金には手数料で5000円ほどする。
お金を払うとしばらくして(2~3日ほど)メールが返ってくる。
「入金を確認した。これから着工する」と。
無論、ワクワクした。初のオーダー、海外送金、これから出来上がるギターのことに思いをはせて。
異変を感じたのは4か月ほど経ってからである。
進捗状況のメールが送られない。
普通に考えておかしいな?と思うだろう。私も思った。
とりあえずメールを送ってみると1週間ほどして2社ともメールが返ってきた。
まだ木材の選定をしていた。まったく着工していない。
驚いた。仮定していた納期まであと早くて2か月だぞと。
それから2か月後、某イタリアのメーカーからボディを削ったと報告があった。ようやく仕事を始めたんだなと思い安心したが某ポーランドからはなにも連絡がない。
メールを送るが返信もない。
さすがにふざけるなと思って返金しろとメールすると焦ったかのようにメールが返ってきた。
「木材屋が夜逃げして木が見つからない」
そんなことある????
と思うが某国産ギター会社が取引していた大手の木材屋が潰れたという情報を持っていた私はまぁ世界情勢もあれだし夜逃げもあるか、と考えた。
なので「おう、急いでないから頑張れ」と送って彼らの仕事が始まることを願った。ここまで半年以上は経っている。
実際木の板を見せられるまで8か月以上はかかった。ほかの作業はしていなかったようだ。
完成までの道のりと世界情勢
まぁ待てど暮らせどギターは届かない。とうとう1年が過ぎ、彼らの言っていた納期は順守できなかったことが確定した。
もちろん逐一メールは送った。進捗いかが?と。
陽気なパスタ野郎はちょくちょくメールを送ってくれた。
写真に写っているのは私が理想としていたギターそのものだった。正直、嬉しさがこみあげて彼らの仕事の丁寧さ、そしてうれし気に送ってくれるメールは心の支えになっていた。ここまで1年と4か月。
私は忘れていた。こいつは円じゃなくユーロであることに。
これを見てる人たちもドルの上り幅にはびっくりしたことだろう。国内の物価も上がり続け生活の負担が大きくなったという世論調査も上がっているほどに。円はどんどんとゴミと化していったのか。私は経済学もなにも分からないし、算数は苦手だ。よしだくんはさんすうがにがてなので3よりおおきなかずはかぞえられません。
だが、ドルが上がっている一方でユーロもとんでもない跳ね方をした。
最初にオーダーした時のユーロは125円。最終工程が終わったとイタリアの会社に言われたときはおよそ140円になっていた。
馬鹿野郎が、とも思ったが初めて、お金というものは生き物なんだという恐怖も味わった。
某イタリアに払った金額は合計で40万を少し超えるくらい。
これでも楽器屋で買うよりずっと安かった。手元に来たのは1年半を少し超えるくらいだった。
さて、問題は某ポーランドである。1年と半年が経って送られてきたのはネックの作業過程であった。
まだそこかい。
でもとりあえず手元にはイタリアから来たナイスガイがいたので安堵して作曲をしつつ上がっていくユーロに顔を曇らした。
2 ピックアップを選ぶときは慎重であれ
オーダーギターを称する工場は自社お抱えのピックアップ会社を持っている。
有名なBare knuckleなどはお抱えでないので追加料金で結構な額になる。
某イタリアのメーカーには最初bare knuckleで頼んでいた。だが、向こうはそっちよりこっちのほうが追加料金がかからなくていいよと聞いたこともないメーカーのピックアップを提案してきた。Youtubeで調べてもほとんど出てこない。
だが、こだわりはあるのか、なぜかピックアップ会社の社長とメールをすることに。
彼にはやるジャンルとチューニングを伝えるとすぐにこのモデルがいいと送ってくれた。
調べてもほとんど出てこない。もう博打だと思って頼むと返した。
結果はかなりよかった。
しっかりとした芯のある音と適度な重圧。
私のやるジャンルにもってこいだった。
彼らには感謝しかない。本当にいいギターを作ってくれた。おそらく海外オーダーじゃないとこの出会いはなかったと思う。
ポーランドは自社お抱えのメーカーだったがやるジャンルなどは聞いてこなかった。これが結構痛い目に合う。
3 一番大事なのはペグ
あまり気にする人はいなかっただろうがペグというのはかなりチューニングに影響を与える。
ロック式、そうでないもの。今はいろいろあるがこだわりがなければカスタムギター工場はHIP SHOTを選択する。
これが妙にチューニングが安定しない。
そこで私が選んだのは群馬県にある工房GOTOH。
世界のGOTOHである。
元国内ギターメーカーで働いていた従弟に換装を頼むついでに見てもらったがもともと付けていたペグがユルユルだったのである。考えられるのがやはりペグはヘッドの木を破壊する恐れがあるから怖くて締められなかったか、ということ。
メンテナンスにも出したがこの事態はペグを交換するにいたって初めて出てきた問題であった。
それからGOTOHを付けたがかなり安定感が増してよくなった。
GOTOHのロック式ペグは弦にかける負担が少ないようで弦が切れる心配もあまりないと教えてくれた。
あなたのギター、ペグに気を使ったことありますか?
4 やっぱり欧州は楽器の国
ここまでつらつらと書きなぐったが、要は自分への戒めともし読んでくれている人がオーダーを考えているのならばそれなりに覚悟を持ってほしいということ。
メールは全部英語だが今は高機能翻訳ツールのおかげで意思の疎通は簡単にできる。
怒りも感謝も伝えられる。
私は欧州人は恨んでいない。
むしろ手元に届いたとき、ここまで美しいギターを作れるのかと感動したほどだ。
木目も美しく際立たせるところはしっかり立てて。
納期を守らない以外はとてもいい仕事をしてくれている。
さすが音楽が生まれた土地である。
某ポーランドは2年と8か月かかって手元に届いた。
最後に
国内のカスタムギターショップより海外のカスタムギターショップのほうが遥かにカスタマイズが豊富である。
形状から木目、のせるハードウェアまで自分の好きなように選べる。
ただしこれには忍耐が必要だし、円の価値によってはとんでもない買い物になることもあり得る。それを注意して頼んでみてほしい。
新進気鋭のビルダーが増えてきて選択肢もある。
是非、自分にあったギターを見つけてほしい。
最後に某イタリアことOVERLOADとピックアップ会社のGorillaに特別な敬意を。
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