罪と罰日記 6月28日 まるで「デスノート」なポルフィーリーとの対決

フュードル・ミハイロヴィッチ・ドストエフスキーの「罪と罰」を少しずつ読む度に、少しずつ感想を書いていく日記(2008年に書いたものです)。

 漫画「デスノート」の、ある意味ハイライトであり、個人的には「なんぼなんでも」と思ってしまったのが、夜神月とLとの対決だった。みんなそうか。
 ほとんどキラ=夜神月と察しがついているにもかかわらず、確実な証拠を持っていないLは、あえて夜神月にキラ捜索の手助けを依頼する。
 しっぽを出すまいとする夜神月。心理的に追いつめていくL。

 
 「罪と罰」には、「デスノート」の夜神月とLとの対決を思わせる場面が出てくる。岩波文庫版中巻296ページから。主人公であり金貸し老婆殺人事件の犯人であるラスコーリニコフと、それに気付いた予審判事ポルフィーリーとのやり取りだ。

 警察署に呼び出され、よせばいいのにのこのこと出頭するラスコーリニコフ。
 彼は、異常に激しやすい自分の性格に打ち勝とうとしたときに、ちょうどポルフィーリーに呼び出される。
 一人で待っていたポルフィーリーは、両手を大げさにさし出してフランス語で「ようこそ」と挨拶しておきながら、結局、片手も握らずに手を引っ込める。
 ラスコーリニコフ、疑念を持つ。持たれてるんだけど、ほんとは。

 ラスコーリニコフ、緊張しながら「殺された老婆との関係を知りたがってましたね」などと尋ねる。
 猜疑心が爆発しそうになるのに気付く。
 気持ちが高ぶり、興奮し、「いけない、いけない、また口をすべらすぞ!」などと焦る。

 ところがラスコーリニコフ、やめておけばいいのに(の連続です)、「予審判事ってものは、安心させておいて、突然鋭い質問を脳天に突きつけるのが金科玉条だそうじゃないですか」などと挑発するんです。
 うかつです。相変わらず。

 ポルフィーリーはとにかく駄弁る。意味もないことをひたすらに喋る。
 「いやあ、私はあなたが来てくれて嬉しいんですが、ほら、高貴な人間ならすぐに共通の話題を見つけられるけれども、中流の私なんぞは30分も手探り状態だったりするんですよ…」などとひたすら喋る。

 さすがにラスコーリニコフもあきれて、「このままこんなくだらない話に付き合わせる気か?」と疑念を持ちます。当然だわな。

 そしてポルフィーリー、長々と冗長で寄り道だらけの口上を述べたて、「私は犯人とにらんだ人間をすぐこう留したりしない。ぼろを出し、確かな証拠をつかむmで泳がせる」と挑発します。

 さあ、ラスコーリニコフ、怒る。
 こいつ、わかってるくせに、そのことをひけらかし、俺の心を弄んでる、と激怒する。
 「許せない。嫌疑をかけてくるくせに、おれを馬鹿にしてる、許せない」と激昂する。
 やばい。ばれるじゃん。まだ中巻だぜ。どうすんだよ。私も焦る。

 スリリングですよ。
 ラスコーリニコフにとっても、ポルフィーリーにとっても、薄氷を歩むがごとき、綱渡りの会話。
 それが延々と続きます。
 怒りを抑え、ぎりぎりのところでぼろを出すまいとするラスコーリニコフ。
 はぐらかし、挑発し、からかって混乱させるポルフィーリー。その話術に、読む者も幻惑されます。

 そして、あわやラスコーリニコフ、最大の危機!というときに、意外な客が訪れます。

 「老婆殺害の真犯人は私だ」と自白したニコライです。
 ポルフィーリーも、ラスコーリニコフも、わなわなと震えながら煙に巻かれてしまうトラブル。
 ともあれ、引き上げるポルフィーリー。
 しかし、彼はあきらめません。その真実を追究する姿勢は下巻に引き継がれます。
 
 さあ、どうなる「罪と罰。下巻を前にして、面白くなってきたぞ。

 ついに次回、岩波文庫版、下巻に突入します。

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