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【幻】元祖ハードボイルドな中華、北新宿「広楽」の餃子250円、ラーメン400円(06年07月31日)

2006年07月31日にmixiに書いた日記を再録
個人的には町中華(当時は「町の中華」とか「大衆中華」などと表記してました)の虜になったきっかけのお店です。残念ながら現在は幻に。

 相方がつくった心地よい朝食の後、ストレッチも済ませ、『ナボコフ自伝』に目を通した僕は、自転車で高円寺まで走り、その帰り道、北新宿の中華料理屋、「広楽」の暖簾をくぐった。

 果たしてここはハードボイルドか?

 そもそも店構えがすさまじい。
 暖簾がかかっていても、それを感じさせないほどの存在感のなさ。
 暖簾を確認して、料理の写真(よく見ると全部調理前で肉なんか生だ。ちゃんと利用したんだろうな)を目にしてなお、そこにあることを感じさせない。
 自然過ぎる。
 そこにあることが当たり前過ぎる。

 飲食店としては致命的じゃないか?

 暖簾をくぐってさらに驚くそっけなさ。
 お父さんもお母さんもうなだれて坐ってる。
 お母さ

んなんか死んでるのかと思った。

 コンクリートむき出しの床に無造作に置かれた雑誌類(あくまで類。何か確認しなかったし、したくもなかった)。割り箸はきっちきちにつめられてない。
 箸入れにすかすかの状態で入れられてる。
 客が少ないことを見越していて、隠そうともしていない。

  メニューを見よ。
 餃子250円、ラーメン400円。
 ビールは小瓶300円、中瓶420円、大瓶480円。

 儲けようという気迫も感じられない。
 この僅かな値段差ならみんな大瓶頼むだろう。

 餃子はその値段から想像できないジューシーさ。
 ちゃんと肉入ってんじゃん。
 焼き方絶妙のぷーりぷり。

 ビール飲みながらお母さんと話したら、開店は東京オリンピックのあった昭和39年。
 無一文から始めた中華料理屋は、近所に薬科大学があったこともあって(現在は八王子に移転。公園になってる)、開店と同時に夜まで客足の絶えない繁盛ぶりだったとか。
 コンビニができるまでは出前もしていて、お母さんが急な階段もなんのその、配達に回った(「よくこんな仕事奥さんにやらせるよ、と思ってた」と不満を吐露)。

 しかし神田川の治水が完了し、川沿いにマンションができて近隣から学生が姿を消し、薬科大学が移転し、コンビニができてからは人の流れが変わって暇なんだそうな。

 時良しく、子どもも育て終わり、年老いた二人にはちょうどよくなったとか。
 で、僕は調子にのって餃子を二皿平らげ、ラーメン400円を注文した。

 うまい。

 これ400円か?
 聞けばスープはとんこつ。
 頑固な親父が今もって手を抜かず、朝から晩まで煮込んでいて家は暑くてしょうがないとおかあさんはぼやいていた(「いろいろあったよ。過ぎちゃえばねえ、まあねえ」って夫婦仲悪かったんか?)。
 とんこつながら脂ぎっていなくて良くも悪くも臭みがない。
 チャーシューもさっぱり、歯ごたえあり。
 しなちく、ナルト、ほうれん草に長ネギ。
 これが程よく濃厚、ほどよく旨味のあるスープによくなじむ。

 俺が食べたラーメン史上最もコストパフォーマンスが高い。
 中井は三幸のラーメン300円は安いがここまでうまくない。
 野方はホームラン軒のラーメン380円は懐かしいがスープが淡白過ぎる気がした。
 西八王子の100円ラーメンに味は求めない。

 広楽。あんたに座布団10枚だ。

 餃子+ビール中瓶+ラーメンの3点セットで、驚くなかれ1080円だ。ハードボイルド中のハードボイルド。しかもうまいときてる。

 黄金の味付け卵も伝説の叉焼も魂のスープもいらない。
 これでいいじゃん。
 そう思わせる研ぎすまされた味と値段。

 広楽。あんたはハードボイルドだぜ!


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