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今、「貧しさと欠損家族が足りない」と気づかせてくれた「極悪女王」

いやあ、まずこんな生々しい物語を全部実名で映像化してるのに驚いちゃったわけですが。

それはそれとして。

つくづく「貧しさ」と「欠損家族」が足りなかったんだなと思ったわけです。

みんな大好きな物語の多くはかつて、貧困に喘ぎ、父親がいなかったり、母親がいなかったり、最悪の場合みなしごだったりしたわけじゃないですか。

星飛雄馬には母親がなく、父親は今で言えばほぼ毒親で。
自分の夢を実現するために、どう考えてもスプリングに皮膚が挟まれて激痛が走ること間違いなしの大リーグボール養成ギブスなんかを息子にはめたりしてたわけです。

矢吹丈や伊達直人に家族はなく。

上杉鉄平の父親は少年革命家の父親先駆者みたいなもんだし。
堀口元気は目の前で父親を亡くし。
ああ、幕ノ内一歩だって母子家庭か。

まあ何を言いたいかっていったら、恵まれた青少年の順調な人生なんて誰にとっても面白くないわけで。

赤貧洗うがごとしの厳しい環境から、這いつくばって、危機に直面して、競合相手に蹴飛ばされても、迷いを振り切り、挫折しかかった主人公の流した汗と涙が多ければ多いほど、泥に塗れれば塗れるほど、その末にやっと掴んだ栄光や幸福や愛が美しく輝いて見えるのかなと。

「極楽女王」でダンプ松本こと松本香が、妹と拾った空き瓶を酒屋に持ち込んで小遣い銭を稼ぐ冒頭から、半分このドラマは成功したようなものだったのかなと。

人として最低レベルの父親から逃れるようにして、好きなプロレスの世界へ飛び込む少女の姿には、ジョン・ヒューズ監督の「恋しくて」で主人公のワッツが父親に「いつ人生は僕のものになるの?」と疑問をぶつける場面を思い出しました。

好きに生きようよ。

貧しさと欠損家族(ダンプ松本の場合、父親は生きてはいたんですが)の中で生きる弱者の尊厳を描けば、面白くなる条件は揃ったようなもので。
さらに期せずして「虎に翼」と同様に少女たちが自立する姿(と既得権者である男の弱さ)を描いているわけで。

焼きそばの屋台に座る社長の姿を描いたラストシーンに、心打たれずにいるのは難しいでしょう。

ちなみにダンプ松本の素顔が、少年革命家のゆたぽんにしか見えないのは私だけ?

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