フリークスVSキャメロン・ディアス! 境界線ギリギリの怪作『メリーに首ったけ』
これにはたまげた!今や大スター、キャメロン・ディアスの出世作っていうから、それなりに面白いんだろうと思って観たのだが、これがフリークスだらけ、タブーを犯すギリギリまで迫った怪作だった。キャメロン・ディアスのチャーミングなイメージだけで判断すると、良くも悪くも裏切られるに違いない。
なんせオープニングから凄い。脱力系米国ロックスター、相当マイナーなジョナサン・リッチマンが木の上で歌ってる場面から始まる(実は音楽を担当。ラストシーンまで重要な役割を演じてる)。
で、時代遅れの中途半端な長髪に歯を矯正中と、絶対にもてそうもない主人公テッドのモノローグが重なる。
なんと彼は、学校きってのセクシー美女、メリー(もちろんキャメロン・ディアス)に恋してしまう。あろうことか、メリーは、精薄の弟ウォーレンを助けたテッドをプロムに誘う。70年代以降、米国青春映画最大のテーマ「プロム」。男女ペアで出席する卒業式だ。誰とペアになるかで、学校での地位が決まるのだ。さて、プロム当日、メリーの家のトイレで、テッドは“ナニ”をジッパーに挟んで病院に担ぎ込まれ、メリーとのプロム出席という晴れ舞台は幻と化す。
メリーの父親の転勤で、その後会うこともなく別れたテッドは、しかし13年間もメリーを愛し続ける。そして、いかれた探偵(マット・ディロン!)を雇うのだが、こいつがメリーに恋してしまう。テッドには、メリーが激太りし、車椅子生活を余儀なくされ、文通交際相手の日本人と結婚したなどと滅茶苦茶な嘘をつき、メリーに接近する探偵なのだが…。
物語は他愛ない。しかし、ジョナサン・リッチマン以外にも、小児まひ患者の動きをからかったギャグや、ゲイにサイコキラーにオナニーにアレルギーに精薄に靴フェチのストーカーにと、人権無視ギリギリのブラックジョークがテンコ盛り。なんとメリーの継父は黒人と、米国最大のタブーの1つである黒人と白人の夫婦(しかも夫が黒人)も盛り込んで、恐らく保守層の逆鱗に触れたことだろう。
徹底したバカ。でもこれが逆に面白い。アメリカ人があえて避けてきた、しかしアメリカ人でなきゃできないネタを、さらりとギャグにした結構グロいコメディだ。ジョー・ウォーターズの『シリアル・ママ』あたりが、雰囲気近いかな。ヘロインでぶっ飛んだ犬にテッドが襲われる場面は、『裸の銃を持つ男』の次々災難に襲われる黒人のギャグを思い出させてくれたよ。
些細なことだが、メリーが最も好きな映画と言ってる『ハロルドとモード』は邦題『少年は虹を渡る』。自殺癖のある少年と老女の愛を描いたこれまた怪作だが、偶然かその老女を演じたルース・ゴードンは、探偵役マット・ディロンのデビュー作『マイボディガード』に出演していた。偶然かなあ?
意味のない映画は嫌い?汚いもの、グロテスクなものは口にするのもイヤ?じゃあ見ない方がいい。爽やかなだけじゃ納得できない、ぎりぎりの危ういネタが大好き?じゃあお薦め。
そうそう、キャメロン・ディアスはめっちゃかわいい。確かに、出世作っていうのもうなずける魅力がありました。