艶猫娘の七変化(2)
「災難でしたねえ……」
「ええ、知っているんですね」
アパートの大家は、すべて聞いていますと言った。
(根回しだけはいいな……)
高校三年生の白龍宗助は、好々爺の大家に頭をさげる。
「三ヶ月と聞いています」
「はあ……」
「敷金、礼金、家賃、修繕積立金は先払いでしたから、安心してください」
好々爺の大家はホクホクして手を揉んでいた。
(金払いもいいな……)
引っ越し先の二〇一号室に、荷物を運んだ後、大家に挨拶していたのだ。先方が事情をすべて知っているなら、来るべきではなかったと、宗助は思ってしまう。
「お金のことは心配するな、と佐伯さんが言われていました」
「そうですか……」
(伝言まで……)
幼くして両親を亡くした宗助は、親戚の佐伯家でお世話になっている。代々、医者だという名家の主は、家の建て替えの際も、別々の転居を提案してきた。
「短い間になりますが、よろしくお願いいたします」
「いえ、こちらこそ」
好々爺の大家は猫田と名乗った。
(そんな親戚がいたとは……)
何はともあれ、佐伯の主に感謝しなくてはならない。これで、一件落着したのだ。あとは、荷ほどきをすれば落ち着ける。
「ひとつ、お願いがありまして」
「はあ。どんなことでしょうか?」
四畳半の和室から出ようとすると、猫田が唐突に言った。
「宗助さんは、猫は嫌いですか?」
「猫? あのペットの猫ですよね。いえ、大好きですよ」
「ああ、まあ、猫はペットか……」
「猫がどうかしましたか?」
「あの部屋には一匹、猫が住み着いてしまいまして。いつからか忘れてしまったのですけど、追い払う訳にもいかないので……」
「つまり、わたしに猫の面倒を見て欲しいということですか……」
宗助は首をかしげた。
(あの部屋に猫の匂いはなかったが……)
運送屋と荷物を搬入したとき、ペットの気配はなかった。六畳ワンルームのユニットバスの部屋。見逃すことはないだろう。
「大家さんが飼っているのですか?」
「いえ。猫は嫌いなのです」
何やら面倒くさそうな匂いがした。
だが、猫一匹で大家との信頼関係にヒビを入れたくない。
「いいですよ。わたしがアパートを借りている間なら」
「それはありがたい。ちょっと、気難しい猫ですから」
猫田の爺さんは、猫が嫌いな癖に、猫の性格は知っていた。
「猫と会ったら、一度、また来てください」
分かりましたと返事をして、宗助は部屋を出た。
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