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艶猫娘の七変化(1)

艶猫娘の七変化

  

あらすじ

 白龍宗助と猫田榊のはなし。

 第〇章     艶猫娘の夜這い(プロローグ)

 ボロアパートの二〇一号室。

 九月の満月の夜。

 ベッドに仰向けになる白龍宗助。その上に騎乗位となる艶猫娘は、名前を榊と言った。両手で宗助の頭をつかんでいる。

「震えていないな……」

 ポツリと少女は言った。

「お前は、あの猫か?」

 カラカラと榊は笑う。少女の身体は、満月の光に劣らないほど、艶めかしくきらめいた。みずみずしいなめらかな乳房が、ゆらりと動く。

「他に思い当たる奴がいないらしい。恋人も、女の子の友達も、セフレもいないのか?」

「うるさい! 俺の話はしなくていい」

「どうしてだ?」

「お前は俺のことが分かっているだろ」

「まあ、大体な……」

 コクリと少女はうなずいた。水のごとき流麗な黒髪が肩口までかかっている。艶々とした毛並みから、キンモクセイの匂いがする。

「俺を殺すつもりだったのか?」

「そうだ。ただ、命は奪わない。ここに来た記憶を、わたしの存在ごと消す。それだけだ」

「それだけ? 俺はどうなる?」

「ここから出て行けばいい。ここであった出来事をすべて忘れて、立ち去ればいい。たった一日の時間ではないか……」

 不思議そうに猫娘は首をかしげる。

 その時、宗助は何も知らなかった。自分の告白がどういう結果になるか。

「俺には行く場所なんてない。毎日、記憶を消されても俺はここにいる」

 相当の剣幕で言ったせいか、榊は猫目を大きくする。切り揃えた前髪の下にある黒い瞳は、切れ長の眼の中に大きく陣取っていた。

「ほお。そこまでわたしと一緒にいたいのか?」

 居場所を失うよりはマシだ。

「ああ。何があっても離れないさ」

「ふうむ……そこまで言われたら、断るわけにもいかないな」

 くっきりとした目鼻立ちの顔が、幾分赤くなる。残暑の空気はよどんで、榊の頬に汗がつたう。

(あれ、俺、何かイキっているかな……)

 少女相手にアパートを追い出されるのが、癪にさわっただけだった。ようやく引っ越し作業を終えた夜に、荷物ごと放り出されたくないだけだ。

 どうやら、相手は「すごい勘違い」をしているらしい。

「安心して。なにも勘違いはしていないわ」

 榊の口調が急に女の子っぽくなった。

「いや、すごい気になる。ひょっとして、俺はヤバい道に片足を突っこんだような気がする……」

「安心して。もう、両脚突っこんでいるから……」

 安らかな微笑みを浮かべて、榊は顔を近づけてきた。

「わたしの最初を受け取って。この世の契りだから」

 とんでもない重圧が、宗助の心臓に迫ってきた。

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