生徒にとって音読とは?生徒の学習観に寄り添う

これまで数回の投稿に渡って音読について書いてきました。多くの英語教育に携わる方々(そして学習者)と共有したいこととして、

  • 音読は「ものまね」

  • 読み聞かせをするように音読をする

  • 音読中に身振り手振りを(gesture reading)

  • 音読教材としてはスピーチがお薦め

といったことを書いてきました。

今回の投稿では、前回の投稿に引き続いて、「どうして生徒は音読学習のときにモデル音声を使いたがらないのか」を考えます。そこから見えてきたのは、生徒の学習履歴や学習観を考慮すること、そしてそのための他教科・他分野との連携の必要性でした。

生徒にとって音読とは

一旦立ち止まって想像してみてください。生徒にとって「音読」とはどのような活動でしょう。

音読学習のあり方①で書いたように、小中の初期学習では短文・会話文の音読練習を行います。中学後期から高校に差し掛かると、教材が長文化し、Repeat after me的な音読指導が難しくなります。一言で言うと、初期学習の短文・会話文の音読練習を適応しづらくなります。

そのような背景を考えながら、考えてみてください。目の前の長文を「音読してごらん」と言われた生徒は、どんな「音読」を最初にイメージするでしょうか。

小中英語のような音読でしょうか。私は違うと思います。それよりももっと前から馴染みのある音読活動の方をイメージするのではないでしょうか。すなわち、国語での音読、母語での音読です。

英語の学習を始めるずっと前から、子どもたちは小学校の国語の授業で「音読」という活動を経験します。私は初等教育や国語教育の専門ではないので詳しいことはわかりませんが、小学校の国語で「間の取り方」だとか「登場人物になりきって読む」など、それこそこれまでの投稿で書いてきた「読み聞かせを意識した音読」に通ずる指導がなされていることと思います。

しかし、おそらく国語の音読指導において、CDなどの音声教材(モデル音声)を使った指導はないでしょう。学校の授業で、数回教師の範読にならって音読しますが(教師の音読が「モデル音声」だと言えますが)、家庭での宿題で音読する際にCDなどのモデル音声を使って音読する、なんて話は聞いたことがありません。

国語の音読練習では、なぜモデル音声を使わないのでしょうか。

答えはもちろん、母語だからです。母語であるが故、モデルの音声がなくとも「正しい」イントネーションや間の取り方などはある程度の精度で勘が働きます。気を付けるべきポイントを絞って教師がモデルになって読み聞かせをしてやれば、その後の家庭学習では特にCDなどを使わずとも、そうしたポイントに気を付けて自分で音読練習をすることが(ある程度)可能です。

子どもたちは、小学校での6年間、国語の学習においてそうした「モデル音声なしの音読」に慣れ親しんでいます。中学後期から高校の英語授業で扱う文章は、おそらく長さや語彙レベルの観点から言えば小学校の中高学年のものにあたると思います。このような分量、スタイルの文章を「音読」するとなったとき、おそらくは小学校国語の音読と同じようなイメージが生徒にはあるのではないでしょうか。中高の英語教員は、段落単位の文章を指導する際に、そうした生徒の「音読観」に働きかける必要があります

生徒の学習歴と学習観を理解する

もちろん私は、国語における音読指導が英語での音読に弊害を与えているなどと言いたいわけではありません。私が言いたいのは、教師は生徒の学習歴と学習観を理解しておく必要があるということです。英語教師が当たり前に使っている「音読」という言葉と、生徒にとっての「音読」は異なる可能性があるからです。

話が大きくなってしまいますが、教師は他教科の実践をできる限り知っておきたいものです。国語科初等教育における音読指導には、英語科が学べる要素がたくさんあるはずだと思っています。そして何より、自分の目の前の生徒がどのような学習を経てきたのかを知ることは、様々な場面で役に立つのではないでしょうか。

また逆に、英語科の知見が国語科の指導に役立つ可能性も十分にあると考えます。古文や漢文の指導でも音読を勧めることは多いそうです。とくに古文に関しては「語学」の要素が多く、その意味で英語科の言語習得理論的な考え方が、古文の音読や学習に何かしらのヒントを与えることもあるのではないでしょうか。

他教科と連携して、生徒の学習観を理解し、より良い学習観を育んでいく。音読指導のあり方を突き詰めて考えていった結果、そうしたひとつの理想像が見えてきました。

偉そうに書いていますが、私自身、国語科との連携や生徒の学習観を把握するために、現時点で何かができているわけではありません。しかし、こういったことを考えるに至ってから、国語教育のあり方や生徒の学び方に、少しだけアンテナを張るように――例えばTwitterで国語教育に携わる方々をフォローするなどのごくごく些細なことですが――なりました。まだ具体的な形にはなっていませんが、少しずつ自分の教育力をupdate、upgradeしていきたいと思います。

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