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10本目「文字化化」-感想ダイニングテーブル

■登場人物紹介
T 映画や小説が好き。超放任主義の家に育つ。一人っ子。
K ゲームや漫画が好き。実家も親戚も超仲良し。兄弟姉妹がいる。

感想ダイニングテーブル 登場人物紹介

■導入


「世の中における恐怖って色んな種類があるじゃないですか?」
「急にどうした?」

Tさんがつまらなさそうな顔をしてこちらを睨んでくる。多分、僕がこれからホラー作品について話すからそれだけで機嫌が悪くなっているんだろうなあ。普段はそっちが長文を色々話すのに、聞くのはイヤだなんてそんなのずるいですからね。残念ですが聞いていただきます。(僕が書くって言ったんだしいいでしょ)

「今回僕が取りあげる作品の恐怖は、未知、予測不可の恐怖といったところです」
「無視かよ」
「前提くらい語らせてくださいよ~」
「チッ」

華麗なる舌打ち。うーん、あからさま!

「ところでTさんって英語喋れましたっけ?」
「喋れ、はしないが、多少は読める」
「じゃあアッサム語」
「茶?」
「インドの一部地域で使われている言語ですが」

Tさんはしばらく黙ってしまっていたが、首を横に振った。

「知らないし、今後も知る予定はないだろうな」
「なら、アッサム語圏でTさんが目覚めたとします。スマホやらの持ち物も特にありません。どうですか?」
「え、ど、どうもこうも詰んでないか?」
「そうですよね。感情としてはどうですか?」
「感情、感情は、あー、焦り?困惑、恐怖?」
「それです!怖いですよね。その国の治安とか関係なしに、シンプルに何も知らないから。しかも言葉も通じない。何が起こるか分からないし言葉まで不自由だなんて、怖いですよね」
「まあ、うん、そうだな」
「今回紹介するゲームはそんな2つの恐怖を味わえちゃいます」
「は?」
「その名も、文字化化です!」


■文字化化 ざっくり感想


「7Days to End with Youっていうゲームはご存知ですか?」
「知らん」
「結構話題になったんですが。言語解読アドベンチャーゲームなんですよね。記憶喪失の主人公が、知らない言語を喋る女性とともに日々を過ごし、自分に何があったかを思い出していくって筋書きです。その中で言葉を推測して自分なりに当てはめていくんです」
「はあ」
「今回のゲームも基本部分は一緒なんですよ。目覚めたらぜんぜん違う言語圏に放り込まれてたので、頑張って言葉を解読しながらその場所からの脱出を目指す話です」

Tさんは面倒くさそうな表情で頭をかいている。

「ホラーゲーム要素あるか?」
「もちろん。全体的な雰囲気が薄暗くて不気味です。それに、何より選択肢間違うと死ぬんで」
「は?」
「相手の言葉をちゃんと理解しないと、選択肢で知らんうちに実質自死を選んでるみたいなことが起こりうるんですよね~」
「え?」
「まあ死んでもすぐ復活できるんで、ネ!」
「ネ!じゃないわ」

リトライがスムーズなら死に対するストレスというのは0に近くなるので。
しかしTさん、急に目の色が変わった。この人、お手軽な死という概念が出てくるのを忌避してる気がする。多分、攻撃力が高い要素だからなんだろうなあ。僕もあんまり好きではないけども、軽デスはやっぱり緊張感を生む要素としては大きいし、こういうライトなホラーゲームでは必要だと思います。

「選択肢間違わなければ異形である皆様とキャッキャウフフ、と言えるかはさておき、まあ、仲良くできるんで」
「待て。異形?」
「異形です。基本、攻略対象に肌色のキャラはいないですね。あ、変な意味ではなく。皆土気色の肌をしてるっていうか~。言い忘れてたんですけど一応乙女ゲー分類ですよこれ」
「こうりゃく。おとめげー」

あ、これ分かってないな。補足が必要そう。

「乙女ゲーというのは、女性向けの恋愛シミュレーションゲームのことを言いますね。で、攻略というのがなんといいますか、要するに落とすってことです。相手を」
「命を奪うってことか?」
「そういう意味の落とすではなく、ナンパ師的な意味での落とすです。基本は」
「基本は????」

Tさんは顔色を悪くしてテーブルに突っ伏してしまった。ゴン、と鈍い音が響いてくる。アザになっちゃいますよ。

「全然わからん。なんで異形と恋愛一歩手前の命の駆け引きせにゃならんのだ。どういうことなんだ」
「そこからですか。え、でも生死をかけた恋愛って割とよくありませんか? バチェラー*とかだって言っちゃえば近いとこありませんか。デスゲームですよあれ」
「知らんーーー」
「それに、ほらギャルゲー、あー、男性向けの恋愛モノ作品でも同じですよ?主人公余裕で死ぬことありますし」
「再三訊くが恋愛モノなんだよな?」
「ラブ・オア・ダイってやつです。ま、文字化化はラブというよりライクって感じしますけどね。僕はこういう塩梅も好きです」
「うぐぐ」

あ、テーブルで額をずりずりやっている。こういう時は大体理解できないことが悔しいと思っている際のモーションだ。この人は自分の分野ではないものにも手を伸ばして取り込みたいという意思があるが、受け入れられるかどうかは別なので凄く難儀している人だ。生きづらそうで可哀相で面白い。

「っと、このままざっくばらんに話していても微妙ですね。サクッとまとめたノリの感想いっちゃいましょうか」
「恋愛しててなんで死ぬんだ????」
「そこってそんなに引っかかることですか?結果的に死んじゃあいませんが、それくらいは僕だって経験してたじゃないですか、ほらここの傷」

服をまくりあげようとしたところで、伏せていた顔を上げたTさんにすんごい睨まれたので喋るのを止めた。

「その話、余計に、肝が冷えるから、やめろ」
「あ。その説はどうもすみません」

話が逸れそうなのでまとめに入りまーす。


■文字化化 総合感想


「まずゲームとしては結構面白かったです。物語の、まあ全てではありませんが、謎みたいなものも開示されますし。主人公がいいですよね~。乙女ゲーの主人公はやっぱり魅力的でないと!」
「そういうもんか」
「そりゃ、だって。操作するキャラが素敵じゃなきゃやっぱりモチベ上がらんじゃないですか」
「そういうもんか」

ずっと腑に落ちない顔してるなこの人。

「システム的な話をすると、えーと、エンディングもたくさんあるし、スチルも結構充実してるし、システム面もいい感じですね。各種内容を回収しやすくて。難易度もそこまでではないです。スキップ機能はないっぽいですが、チャプター機能が充実してるので気にならないかな?恋愛シミュである以上、異形のみなさんとも~ちょっとイチャコラしてもいいかなという気持ちはありますが、これはこれで満足でした!ホラー表現もそこそこあっていい感じです。いいゲームだ~」

Tさんはしばらく黙っていたが、目を泳がせた後に恐る恐る、というか、戦々恐々みたいな顔つきで喋りだした。

「その、なんだ。キャラクターの画像とかないのか?」
「あ、ちょっと待ってくださいね、さくっと描いてみますか。えーと」

(筆:K)

「この人がメインヒロイン、じゃなかった。メイン攻略キャラの這い這いさんです」
「男版貞子?」
「別にテレビからは出てきませんよ。ちゃんと喋れますし!あと優しいですし!ずっと主人公の味方ですし!」
「あ、ああ、まあ見た目で判断するのは、よくないか」
「それに主人公より弱い疑惑があります」
「は?」
「なので、まあそれ以外にも色んな要素はありますが、メインヒロインという意識が」
「それは、は?」
「気になる方は是非プレイしてみてくださいねっ!」
「いや、は?」

満足感のあるいいゲームなので実際オススメです。結構細かいところまで手が込んでいるので。

尚Tさんはこの後僕の話していた内容から感じ取ってしまった謎を解くために文字化化をプレイしてくれましたが、普通にシナリオ中のジャンプスケアで椅子から落ちてひっくり返ってました。効果音は大きめかもだけど、別にそこまでじゃなくないです?と言ったら「慣れてるやつの感想ほど信用ならん」と言い返されました。そんなー。

■まとめ
対象  :文字化化
クリア日:2025年1月19日(日)
感想  :満足度の高い良作ADV。恋愛要素は控えめ。
次回  :「邪悪なるもの」もしくは「se7en」

また次回

■注釈


*1 バチェラー - Amazonプライム・ビデオで配信されている恋愛リアリティ番組「バチェラー・ジャパン」のこと。1人のハイスペ男性=バチェラーを約20人の女性で取り合う、擬似的デスゲームコンテンツ。元々はアメリカ発。段階(話数)ごとにあらゆる課題が発生し、それらを達成できなかった女性たちは脱落者として番組そのものからフェードアウトしていく。そして数々の試練を乗り越え、最後に残った1人の女性とバチェラーは晴れてカップルに……という筋書き。Kは純然たる興味で、Tは後学のために視聴した。Kは別シリーズ等も視聴しているが、Tはファースト・シーズンの3話あたりで具合が悪くなり脱落した。



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