蟷螂山(とうろうやま)
いよいよ7月祇園祭の季節です。今年はいつも通りの祇園祭になりそうで嬉しいです。今日の絵は蟷螂山の山鉾です。私の好きな山鉾の一つですね。山鉾にしては珍しく機械仕掛けでこの蟷螂は動くのです。山鉾に比べて大きいように見えますが、実物もこのくらい大きいのです。
カマキリは自分の力を顧みず大敵と戦うという中国の故事から、足利軍と戦った四条隆資を称え彼を蟷螂に見立てて御所車に蟷螂を載せて巡行したとありました。でも始まった年を見てびっくりです。1376年とありますが、この年だとまだ南北朝の時代です。四条隆資は1352年に戦死、息子も1373年に北軍により討ち取られ四条家は断絶しているんです。それからたった3年しか経っていないのに足利家に歯向かった四条隆資を蟷螂と見立てた山鉾が出来たとは驚きでしかありません。きっと四条家の鎮魂の意味があったのだと思いますが、京都人にとっては彼こそが後醍醐天皇を助けた英雄だったのでしょう。蟷螂の謂れなんてしたたかな京都人ですから将軍家には言わないで、中国の故事ですくらいの説明で済ませていたと想像します。
硬い話はこのくらいにして俳句にします。蟷螂は秋の季語ですが「蟷螂生まる」「子蟷螂」などは夏、「蟷螂枯る」は冬の季語でした。蟷螂は虫の世界だけでなく俳句の世界でも目立つ存在なんですね。
ところで蟷螂とは無関係なんですが、カマキリの姿から蚊を思い出しました。私の好きな一茶の句に「年寄と見るや鳴く蚊も耳の際」という句があります。耳の悪くなった年寄だと思って馬鹿にしやがって耳のそばに来て鳴きやがるという句だと思います。耳が遠くなった今の私にぴったりです。でも「昼の蚊やだまりこくって後から」という句もあって耳の際に来なくても一茶はちゃんとか蚊に刺されているのですね。
余談から始まりましたが、まずはカマキリの句で詠んでみます。
垣根からひょこっと鎌出す子蟷螂
子蟷螂背伸びする様親譲り
見たことがないので本当に垣根にいるのかどうかは分かりません。でもひょっこり顔を出したら面白いなと思っての一句です。顔より先に鎌が出てくるかなと思って鎌に変更しました。
蟷螂や雄を食らひて子を残す
子の為に身をも差し出す雄蟷螂
雌のカマキリは交尾の途中やその後に雄カマキリを食べて栄養にするそうです。ある実験では雄を食べた雌は平均88個の卵を生み、食べていない雌は平均35個と大きな差が出たそうです。でも全部の雄が交尾のあと食べられてしまうのではなく、研究の結果75%くらいは食べられていないのです。男の私としてはなんとなくほっとしましたね〜。
お囃子や今年の夏のありがたさ
お囃子や四条通りに夏戻る
2年にわたり中止されていた山鉾巡行も今年は開催されるようで嬉しい限りです。四条通りや河原町で買い物をしていると聞こえて来るコンチキチンの鐘の音はなんとも言えない夏の風情を感じさせてくれます。
宵山にお久しぶりの鷹の山
宵山やお久しぶりの二百年
今年の祇園祭の山鉾巡行になんとなんと196年振りに「鷹山」が復活するのです。昔は「くじ取らず」といわれ「長刀鉾」や「岩戸山」などと同じような大きな曳山だったらしいですが、休み山として200年近く休憩していたのです。大船鉾が何年か前に復活したので、これで休み山は布袋山ひとつとなりました。京都の時間はゆっくりと流れているのです。