見出し画像

結婚をお断りしたいと思った若かりし私

彼とは遠距離恋愛だった。
『遠距離なんて、キラには無理!無理!』
友達も会社の先輩も口を揃えて、全力で否定をした。
その甲斐あってか(?)ほそぼそと遠距離恋愛を続け、結婚に至った。
きっかけは、私が高熱を出したことだったそうだ。
すぐに駆けつけられない、たとえ入院したとしても自分には連絡が来ない、そう思ったら、家族になるしか方法はなかった、と、プレゼンを受けた。
そして迎えた、彼の実家への挨拶。
彼の実家は、びっくりするくらい都内にあって、そこそこ大きな家だった。
そんなこと、一言も言われてなかったので、かなり驚いた。
しかも、当時の私は若気の至りで金髪にピアス。

『いらっしゃい』
出迎えてくれた義母は、髪を綺麗に巻いている、おしゃれなお母様だった。
金髪の私をみても、顔色一つ変えずに、
『きれいなお嬢さんね』
にっこり笑った。
挨拶を済ませると、レストランを予約しているから、食事に出かけよう、と誘われた。それは、近くのホテルのレストランだった。
完璧に場違いじゃない?
大丈夫、私?
こんな世界があるのね・・・などと、やや困惑していると、彼のお母様が話しかけてきた。
レストランには、彼のお姉さんと妹が合流するという。
『妹にね、似ているのよ。今、顔合わせたらきっとびっくりするわよ』
ふふふ、と上品に笑いながら、席につく。
お祖母様が、怪訝な顔をずっとしているのはきっと、金髪にピアスだからだろうな、と思いながら、気まずい空気感を耐えていると、
『おまたせ〜』
お姉様と妹さんが入ってきた。
『は、はじめまして』
慌てて頭を下げる私。
『やだ〜!一緒じゃん!』
挨拶よりも先に感嘆の声を聞き、びっくりして顔を上げると、金髪にピアスの妹さんが立っていた。
『おそろい!すごい!お兄ちゃん、やったね!』
そうか、彼女のお陰で、私はお母様にびっくりされなかったんだ。
お祖母様も怪訝な顔をするだけで、何も言わなかったのは彼女のおかげなんだ。妹ちゃん、ありがとう!
『さあ、食べましょう』
その時に食べた料理は殆ど覚えていないけれど。

帰りに、義母と並んで歩いた。
結婚を決めてくれてありがとう、と言われた。
自分の息子ながら、彼女がいることも知らなかったし、まして結婚は一生できない子だと思っていた、だから、結婚できることがすごく嬉しいのよ、と。
『あぁ・・・えへへ・・・』
返答に困りながら愛想笑いをしてしまう私。
それにね、と、ゆっくりとお母様が話を続ける。
『職業がいいわよね。立派なご職業よね、介護施設にお勤めなのでしょう?!本当に安心だわ〜。これからたっくさんお世話になることあると思うのよ。ほら、私の父も母もいい歳だしね。私一人ではどうしようって思ってたから、すごく嬉しいの!』
お上品にゆっくりとにっこりと話すお母様。
・・・うん?うん、悪意は感じられないし、単純に、本当にそう、思ったことを言ってしまったのかな?
初対面の、近い未来にお嫁になるかもしれない私に、思ったことをそのまま言えるのは、天然、なお母様なのかな?
そんなことをぐるぐると考えながら、返答に困っていた。
だけど、そんな私の様子などお構いなしなお母様の様子が伺える。
助け舟を出してもらおうと、彼の姿を探したら、お祖母様に寄り添って歩いていた。
(そういうところも良いんだけど、今は私のそばにいてほしかったな)
ぼんやりと彼の姿を見ていたら
『本当に優しいのよ、息子ったら。』
微笑んで同じ光景を見ていたお母様と私。

私は生みの母親のことをほぼほぼ覚えていない。
育ての母親は甘えることができなかったまま居なくなった。
彼の母親も私にとってはまあまあ、衝撃的なお母様。
・・・結婚、早まったかな、と思うには十分だった。

帰ってから、彼にことの顛末を報告したら、
『うん。僕の母親、そんな感じ。無視してていいよ』
・・・無視できるわけないじゃないですか、結婚相手のお母様だよ?
結婚、早まったかな、と思う瞬間がこんな短期間で2度もあるとは。

結婚はお断りしようかな、と思った若かりし私。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?