歯列矯正という名の旅の途中で
「新しいクラウン入れる前に、歯列矯正を考えてるならやってしまった方がいいよ」
歯科定期検診で、そう優しく囁かれたのはちょうど1年前か。
担当の先生はとても温厚でいい声をしているので、この人の声ならずっと聞いていたい!と思えるのだが、毎回話の盛り上がりに欠けることが玉に瑕である。
しかし、言っていることは的を得ているので、私は1年前にようやく、そのええ声に導かれるように、歯列矯正を本格的に検討しはじめた。
きっかけ
ある朝、「ガリっ」という歯の擦れ合う音で目を覚ました。
その一度に限ったことではないのだが、前歯が少し内向きに生えている(た)ため、下の前歯とかち合ってしまう、というのが私の悩みだった。
意識しているうちはどうにかなっていたのだが、寝ている時はどうにもこうにも・・
顔を洗って鏡を見ると、上の前歯がみすぼらしく三角形に欠けていたのだった。幾度ものかち合いを重ね、薄ーくなってしまった前歯。挙げ句の果てに風通しのよい三角が現れて。
あの時は前歯をレジンで分厚くしてもらってその場を凌いだけれど、頭の中にあの三角の残像を感じながら、しばらくの月日が経った。
根本的に変えなければ、あの三角はまた何度だってやってくる!その恐怖が次第に強くなり、歯列矯正を考えるようになったのだった。
そして、最後は、すんなり、ええ声の先生の一言に背中を押されて、矯正歯科での予約を取ったのだった。ありがとう、ええ声。
私に与えられた選択肢
紹介された矯正歯科はものすごく眺めのいいオフィスビルにあった。これから始まるであろう口内の不自由な日々を事前に帳消しするかのように、あの窓から見た景色はキラキラと輝いていた。
私にすすめられたのは2種類の矯正方法だった。
1 ワイヤーによる矯正
2 インビザライン(抜歯なし)
深く調べ尽くしたわけではないので、ひとりよがりな情報ではあるが、インビザラインは誰もができるわけではない、結構な割合で抜歯をした後にインビザライン開始となる、という話を聞いていた。
運良く私はどちらの条件も、自分に都合よくクリアしていたのだった。そうとなれば、話は早い。目をキラキラとさせて、私はこれから繰り広げられるインビザラインの世界について、説明を聞き進め、書類にサインをした。
歯並びの実情
実は、そこまで悪いとは自覚していなかった。もちろん、綺麗ではないことは重々承知だった。でも、歯茎の変なところからこんにちは、といった歯は一本もなかったから。気になっていたところは下に挙げるような点だろうか。
1 上前歯がちょっと内向きに生えてて、ふいにガリッと噛み合ってしまう。
2 前歯が少しずつ重なってる。
3 前歯の1本が少し斜めを向いて生えていて、歯を見せて笑うと目立つ。
4 噛み合わせがずれている。
5 前歯の中心がすこーしだけずれてる。
あれれ、意外とポンポン気になってた点が出てくる!つまり、あまり口内の状況はよくなかったということだったのか。文字にしてまとめることで見えてくるものがあるよなぁ。
押し寄せる不安
インビザラインを始めるにあたり、一番心配だったのは間食が簡単にできなくなることだった。私はどちらかというと、3度食事をしっかり摂るというよりは、小刻みに食べ物をつまみながらエネルギー補給してきた人種だ。そんな私が1日に20〜22時間もインビザライン装着していられるのか。友達とカフェでもしようものなら、ケーキはお預け?またはお手洗いで人目を気にしながら歯磨き?キスするときとかどうなるの??
様々な不安はあったけれど、私はとりあえず、もうサインしてしまっていた。どう足掻いてもその時はやってくるのだ。何だかんだ言っても、もう覚悟はできていた。
そして矯正開始
プラスチックの味はそんなに気にならなかった。それよりも、アライナーと歯の間に溜まる唾液が気になって仕方なく、気づけばアライナーに吸い付く変な癖がついてしまった。「チューーー」という音を伴うため、隣で寝ている彼には、「耳障りだからその癖やめてくれ。」と言われる始末。
うん、その気持ち、すごくわかるー。(遠い目)
52セットのアライナーを1週間ずつ交換する私のインビザラインの旅路。
不快感もなく、痛みもなかった。新しいものに替えてからの数日は痛いと、経験者のブログ等で読んでいたので、少し拍子抜けしたほどだ。痛み耐性があるのだろうか。気づけば47を終えていた。
新たなる旅の始まり
そして今週、47が終わりを迎える日に、私はあの眺めのいい矯正歯科へと向かった。この日は驚くほど霧が濃く、眺めのいいはずのあの場所から見えたのは真っ白な世界だけだった。・・・これって、何かを意味しているわけではないよね?
アシスタントのお姉さんが見慣れた箱を持って入ってきた。はい、言い渡されたのは、新たに18個追加するよーということだった。装着しなかった48〜52に関してはゴミ箱にポイ、また新しい1番からのはじまりだ。
劇的ビフォーアフター!(中間結果)
私は断捨離では比較的スムーズに「いる/いらない」を振り分けて、思い出の山を切り開いて行くことができるタイプだ。そんな私が、どうしても、インビザラインの歴代アライナーを捨てることができない。
今週、元祖No. 1と新入りNo. 1を比較してみた。
正直に言うと、今終わりになっても、全く問題がない程に悩みが解消されている。見た目もなかなかいい感じだ。矯正を始める前は、自分の歯並びがそこまでいびつだと自覚できていなかったが、現在のアライナーと比べてみると、始めた当初のものは、ガタガタしていて、まるでリアス式海岸のようである。入り組んだ入江から、なだらかな砂丘へのトランスフォームが、たった11ヶ月で起きるのか、と感慨深い。
30代後半を過ぎてからの歯列矯正、最初は不安もあったけれど、今はこの自分への投資は間違っていなかったと思える。
早いとこ旅行での楽しい食べ歩きを再開したい!
チャイラテとか飲みながら仕事したい!
などの小さな願望リストは果てしなく続きそうだ。しかし、今まで犠牲にしてきたそれらを全て含めたとしても、自分の下した「矯正、GO!」の決断に一片の悔いもない。
2020年、劇的ビフォーアフター〈最終結果〉が今から楽しみで仕方ない!
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