涙の理由(わけ)
【春の楽しみ】
幼い頃私には秘密の場所があった。
考えてみれば秘密にしなくとも誰にも取られたりはしない。
きっと他の人には何でもないありふれた風景かもしれない。
今になって考えてみれば独り占めしたいような場所だったのだ。
それは小学校の帰り道、畑をぐるっと回って元の道に戻るくらいの距離だけれど、畑の向う側に私にとってとても魅力的な土手があった。
最初はその魅力に惹かれて行ったのだ。
春先の土曜日の帰りは陽だまりになっていて、見たことのない草花を見つけた。
しかも2つの種類。それぞれ一つずつしか咲いていない。
本当にに本当に嬉しくて童話の世界にでも入り込んだような気持ちになった。いつまでも帰れない。ただ見ているだけなのに、幸せな気持ちでいっぱいになっていた。
その日から毎日会いに行ったのだけれど、土曜日のような陽だまりではなく肌寒い上、当然のことながら、それはやがて枯れてしまった。💧
でもきっと来年も会える!それを楽しみにしよう!🌼
その時からその場所を【秘密の花園】と自分の中で名付けていた。
次の季節が近づくと毎日回り道をして、小さな蕾を見つけたときは涙が出るほど嬉しかった。また会えた🌼。
土曜日に行ったとき「ちょっと待っててね、お弁当持ってくるから!」と心の中で話しかけ、急いで帰ってオニギリを作って行ったことを覚えている。
3回目を迎えた時だった、どうしても自分だけの物にしたい衝動に駆られ、棒切れや石を使って根ごと持って帰った。
家の庭に植えた途端に涙が出て止まらない。いつまでも……。
なぜなのかは自分でも分からない。
しかも次の朝見たらしおれていて、元気になっていく気がしなかった。途端に憂鬱な暗い気持ちが……。
結局枯れてしまい宝物をなくしてしまった…しかも自分のせいで…。💧
それからその時のことが度々意識に登って来るようになっていた。
自分のことなのに何の涙か分からないから。
他にも抱えていた自分の中の問題と同じように繰り返し疑問として意識に上ってきていた。
そして30代のあの頃やっと答えが見つかった。
私は〈あのお花のある風景の全部〉を手に入れたかったのだった。
お花を持ち帰ることで全てを失ったのだ。
このように自分の気持ちの在り処が分からなかったことが沢山あった。
そしてつい最近その花の名前も知ることができた。一つはリンドウだということは分かっていたが、そのサイズがとても小さいもので〈草リンドウ〉と言うらしい。もう一つは〈アマナ〉というもので、日本人男性による発見種だった。スウェーデンでもAmanaという名前らしい。
可愛らしい頃の私の思い出。
自分のその頃を愛おしく思う。