伊藤計劃とボク 〜「セカイ、蛮族、ぼく。〜」
ボクに陰を打ち込んだ「Engine」
あれは、壮絶な中学受験が終わった中学1年生の夏頃だったと思う。
第一志望校に落ちたボクは、夜中にアイロン台を前にして泣く母親と
それを第一志望に落ちたボクの所為として、
中高一貫校の6年間、良い成績を取るように迫る父親とで
毎日どうやって世界を終わらせればいいか考えているようなそこら辺にいる今にも厨二病になりかけの男子だった。
一学期の試験は問題なく突破し、「第二志望校の制服のお前を見るのが憂鬱」だという母親のメンタルも落ち着いて、束の間の夏休みへと入ったときに、ボクはそれと出会った。
本はよく読む方だった。
でも読む本は、ボクらの世代の定番の「ハリーポッター」や青い鳥版の「シャーロックホームズ」だった。大好きなのは「星新一のショートショートセレクション」で違う世界に逃避できて好きだったけど、所詮コドモ用のものだった。
そんな時に銀色のカッコイイ表紙と「The Indifference Engine」という題名に惹かれて、その文庫版を手に取った。
今でも詳細に覚えてる。
ボクは、家族で行ったショッピンセンターに併設されている本屋でその本を親にねだって買ってもらい、そこから、車の中で、夕食のために入ったロイヤルホストの中で夢中で読んだ。
あの短編集の中で、最初に選んだのは、「セカイ、蛮族、ぼく。」だ。
短く見えたし、「ぼく」という同年代そうな主人公に惹かれた。
そして、ボクは、脳に「Engine」を組み込まれた。
ボクの努力を褒めてくれない親を無茶苦茶にしたいボク
入学した第二志望の学校で楽しんでいるのを恨めしく思っているような親や祖父母を消してしまいたいボク
こんな世界を消してしまいたいボク
結局いい子ちゃんのまま、学校と塾に通って、勉強して、いい成績に喜んで、親から離れないボクを消したいボク。
水泳と野球と綺麗に白く塗り直されたコドモ向けの本を貪って、
受験に敗れて、
自分のコドモを医師にさせるために必死な親に疲れて、
何もかもが許されている妹に哀れみと嫉妬を覚えてた
13歳になりたてのボクには、
「ぼく」は、何もかもがボクのようで、
ボクのヘンテコな感情を何もかもを肯定してくれているようで、
「ボクは蛮族なのだ」と思った。
でも、年相応の倫理観と羞恥心を持ち合わせていたボクは、
「セカイ、蛮族、ぼく。」のその過激な内容に恐れ慄いて、
祖母に買ってもらった本棚の奥に隠したのを覚えている。
あの本棚にある銀色の本は、ボクにとっては、ボクの野蛮の象徴であり、
「ローマ人の頭蓋骨」だった。
親がそうだからと言って憧れていた医師という職業と
そこに併存すると思っていた「知性と文明」そこに到達できそうにないボク
自己嫌悪。
耳と目を独りでは同時に塞ぐことはできない。
その日の夜は、第一志望に受からなくてヒステリーを起こしながらドラマを見ている母親の声を塞いで、年相応の眠い目であの本棚にある銀色の本を見つめた。
自己の存在と「「The Indifference Engine」
また記憶の限り、ボクと伊藤計畫との出会いを書こうと思う。
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