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路肩とバイシクル
ジャカルタは今空前の自転車ブームが来ている、らしい。確かに休みの日に何の気なしに外を眺めていると、時たま自転車が走っていくのを見かける。しかし、それ以上に圧倒的にオートバイが多いので、あまり自転車が増えたという印象は受けない。
ジャカルタに限らず、インドネシアは車社会である。噂によるとインドネシアで流通している自動車を全て道に並べると道からはみ出してしまうくらい自動車が普及しているらしい。もっとも私の通った大学でも学生が全員出席すると席が足りないという逸話があったのでこの噂の真偽は不明である。
これは大昔に人から聞いた受け売りだが、自動車会社は常に、同じ業界の他社だけでなく、鉄道会社と競争をしているらしい。ある国、ある街に先に自動車を普及させれば、車道と高速道路とスタンドが整備され、自動車による移動を前提とした街が形成される。一方で先に鉄道が進出すれば、線路と駅が張り巡らされ、鉄道を主とした街となる。先にどちらかに傾いた方に街は発達していくので、後から参入するのは難しいらしい。そういう意味では、インドネシアにおいては自動車が圧勝している。ジャカルタ市内なら、ぱらぱらと線路や駅はあるが、日常の足とするには未発達だ。駅の周辺に小さい町が形成される気配もない。首都でこれなので地方都市はいわんや、といったところである。
車社会の特徴は、当然車なしで生活するには著しく不便であるという点だ。私の住むアパートから歩いて行ける範囲に、私の生活を潤すものは何もない。そんな街で、自転車を生活の足にするのは多分に苦労するだろう。
そんな中、ジャカルタ特別州のアニス知事が、ジャカルタ近縁を走る高速道路の車線を週末、自転車道路にするという計画を出した。ジャカルタは車社会であると同時に、渋滞社会である。ジャカルタの渋滞は一説には世界一と言われている。今はコロナでなりを潜めているが、以前は数キロ進むのに数時間ということもざらにあった。高速道路も同じようなもので、会社から家までの70kmの距離を10時間かけても帰れないことがあった。
そんな高速の1車線を閉める、というのは中々挑戦的な社会実験である。ちなみに一般的なインドネシアの高速では、路肩までを車線と数える。日本では黒塗りのベンツくらいしか走らない場所だが、当地では路肩にも車列が形成され、空いていれば他の車線と同様、時速100kmで軽快に走り抜けていくのである。つまり1車線閉めると実質、その横の路肩を含めた2車線を封鎖したに等しい影響が出る。2車線を塞ぐと考えれば、いかに挑戦的な試みか分かるであろう。それならば、横着して路肩を自転車道にしてしまえばよいのでは、と言う考えも浮かぶが、「路肩を自転車道にします」では先進国で全く理解されない試みとなること請け合いだろう。そこは本来、車道ではないのだから。