見出し画像

セガール助演『Executive Decision』

暇だったので、昔観た映画『Executive Decision』を再度鑑賞した。この映画はカート・ラッセル主演だが、我々の世代では敢えてセガール助演映画と呼ぶ。少なくとも、これを観た友人の間ではそう意見の一致をみている。

スティーブン・セガールとは

私が幼い頃は、TVで映画を見る機会が多々あった。特に週末は金曜ロードショー、ゴールデン洋画劇場、日曜洋画劇場など、毎日何かしら映画がTVで流れていた。その中で、私が好んだのはアクション映画である。小さい頃のヒーローはアーノルド・シュワルツェネッガー、シルベスター・スタローン、ブルース・ウィリスら、ゴリゴリのハリウッドアクションスター達だった。振り返れば、アメリカン・マチズモの信奉者のような少年であった。

アクション映画のいいところは、なんといってもハッピーエンドで終わるところである。一部例外もあるが、基本的には主人公が腕力で悪役を倒し、途中の小難しい問題は万事腕力で解決し、しかる後に腕力に惚れたヒロインと結ばれる。これぞまさにエンタメの真骨頂と言ってもよい。なお、私がエンタメに求めるものはハッピーエンドである。

しかし、いかに最後は腕力的ハッピーエンドで締め括られるとはいえ、物語の途上には必ずヒーローの苦境が存在する。起承転結で言うところの転に当たる部分だ。幼い頃の私は、このハラハラする時間帯が苦手だった。

そこに颯爽と現れたのがスティーブン・セガールである。初めて観た作品は『沈黙の艦隊』だった。同作品におけるスティーブン・セガールは、戦艦ミズーリの調理場で働く元特殊部隊員のコックで、戦艦ミズーリを占拠したテロリストと単身戦う主人公を演じている。セガールは武装したテロリストに対して、電子レンジを使った時限爆弾をお見舞いし、ナイフで刺し、銃で撃ち、両手をパタパタと動かす謎の拳法でばったばったとなぎ倒していく。

途中、テロリストがセガールの素性に気づくと、戦車1台より価値のある兵士だと言って半ば戦意喪失する。定石では、敵に素性が知れると何かしら付け込まれてピンチを招くはずなのだが、セガールの場合はセガール情報が敵の意気を挫く武器となる。

その後、特にピンチらしいピンチもなく、唯一少しだけ背中を負傷するも、ちょっと擦りむいたくらいの影響だけで、終始セガールがテロリストを圧倒して話は終わる。セガール主演の『沈黙シリーズ』は20作品以上あるが、全てこのような調子である。大抵の場合、セガールは一匹狼的な警官か元兵士で、超人的な技能で敵を瞬く間に倒していく。なぜか植物学者を演じたときも銃とナイフの扱いに長け、謎のパタパタ拳法を駆使していたので、あまりその辺の設定に意味はない。セガールの映画は、セガールの無敵ぶりを楽しむものなのだ。なお、『沈黙シリーズ』は日本が勝手に作ったシリーズなので、作品間につながりはない。唯一、『沈黙の戦艦』だけは続編があるのだが、題名はなぜか『暴走特急』である。

『Executive Decision』におけるセガールの助演ぶり

セガールは映画、ビデオ共に主演を好み、基本的に人の映画には出てこない。そんなセガールが珍しく主演ではないのに出演したのが、『Executive Decision』である。セガールはこの映画で、主人公カート・ラッセルの上司であり、ハイジャックされた飛行機に乗り込む特殊部隊の部隊長を演じる。

特殊部隊部隊長のセガールとはすなわち、無敵を意味する。映画の開始から終始微妙に頼りないカート・ラッセルに対してセガールは登場してから謎の安心感があった。さらに、指令室から指示を出す役なのかと思いきや、セガール自身も飛行機に乗り込むと言う。この時点で主人公を完全に食い、お決まりの『沈黙』路線に乗っかるシナリオが見えてきていた。

しかし、この映画はすごいことに、セガールが普通に死ぬのである。セガールは映画の序盤、空を飛ぶハイジャック機に乗り込むところで失敗し、高度数千メートルに放り出されてあっけなく死亡する。我々視聴者は無敵のセガールでも死ぬことを目の当たりにし、緊張感が一気に加速する。カート・ラッセルはぺちぺち拳法が使えないので、ぎりぎりの状況で仲間と協力して事件解決に当たらざるを得ない。常に「セガールがいれば…」という思いを抱えて、我々視聴者は一進一退のハイジャック犯との攻防を歯がゆく見守る。また、頭の片隅で、「あれくらいであんなにあっけなくセガールが死ぬか?もしかして生きていて終盤のピンチに駆けつけるのでは?」という疑問と期待も抱く。これまでのセガールを知っていれば、高度数千メートルで外に放り出されるくらいで死ぬとは思えないのだ。

セガールの死により、『Executive Decision』は我々視聴者の度肝を抜き、展開を読めなくすることに成功した。セガール映画の脱構造的作品と言ってもよい。セガールはあっけなく死ぬことで立派に助演を果たし、この作品に大きな深みを与えた。ゆえに、『Executive Decision』はセガール助演映画なのである。実際、カート・ラッセル主演のハイジャック犯と戦う映画と説明するより、セガールの死ぬ映画と言った方が話が通じやすい。なお、ここまで作品貢献したにも関わらず、セガールはこの映画でラズベリー賞の助演男優賞を受賞している。個人的にはかわいそうだと思う。

いいなと思ったら応援しよう!