見出し画像

トランプ、銃撃事件を振り返る

『大統領選スキャンダル/野望の銃弾』は、1980年代にTV放送された米国ドラマのミニシリーズ。ある若手政治家が、狙撃を受けながらも一命を取り止めて脚光を浴びるものの、FBIの地道な捜査によって、故意に急所を外した「狂言狙撃」だったことが判明し・・・という陰謀物だ。

 なぜこの話を持ち出したかというと――まあ、説明の必要もないだろうが――1週間前に遊説中のドラルド・トランプが狙撃され、単に大事には至らなかったばかりではなく、その場で拳を突き上げるポーズを見せてタフネスぶりをアピールし、来る大統領選挙で俄然、形勢有利になったから。
 今のところ、少なくとも大手のメディアではトランプ側の「やらせ」や「仕込み」を疑う声は出ていない模様だ。それどころか、そんなことを公言しようものなら素人でもバッシングを受けそうなムードにさえなりつつある。しかしながら、上記のTVドラマを記憶にとどめる層が、「トランプは無辜の被害者である」説を100%買えずにいたとしても、それは無理からぬことなのだとご理解いただきたい。

 銃撃から5日後、共和党の全国大会に出席したトランプは、大統領候補の指名受諾演説の冒頭で、あの瞬間を振り返った。
 本人の言葉を聞いてみよう。
(原文はこちら。翻訳は不肖、私)
 
「すでにご存知のとおり、暗殺者の銃弾はあと4分の1インチ(約6ミリ)で私の命を奪うところまで迫った」
「後方右側の大型スクリーンに、私の政権下における越境者数の図表が表示されていた。それは本当に素晴らしい数字だった。図表を見るために、私はこのようにして右に向き直った。さらにもう少し右を向く用意があったのだが、そうしなかったのは幸運だった。その時、ぴゅーという大きな音が聞こえ、右耳に何かがかなり強く当たったのを感じた」
「感慨深いのは、発砲に先立つあの最後の瞬間に私が頭を動かしていなかったら、暗殺者の銃弾は完璧に標的をとらえ、私は今夜ここにいなかったであろうことだ」

 報道によれば、狙撃者の銃弾はトランプ自身の右方向(テレビカメラや正面の聴衆から見れば左方向)から飛来している。
 被弾の瞬間の映像も繰り返しニュースで流されているけれど、「最後の瞬間に右を向いたからドタマには命中せず、耳を撃たれただけですんだ」というトランプの認識は、少し違うようにも感じるんだよね。
 実際に自らトランプに扮して、右後方を振り返ってみれば、よくわかる。普通は振り返らずにいた場合より、頭の位置は弾道の方向に近づく。
 むしろ右を向いたから耳に当たっちまったんじゃないのか、ずっと正面を向いてしゃべっていれば弾は外れて頭の少し後ろを素通りしていったんじゃないのかと、素人目にはそう見えなくもない。
 でも、「動いたから当たっちゃった」と言うより、「動いたから助かった」と言う方が明らかに劇的だから、本人としてはそう言いたくもなるのだろうけどね。

「あの最悪の夕刻に起こった出来事のうちの最も信じがたい側面が見られたのは、そのあとだ。おそらくご存じだろうが、ほとんどのケースでは、1発の銃弾が発砲されただけでも――私たちには何発も発射されたわけだが――群衆は出口へと逃げたり、雪崩をうって駆け出したりする。しかし今回は違った。非常に珍しいことだ」
「この何万人もの聴衆は、その場にとどまり、一歩も動かなかった」

 そこなんですよ、一番怪しく思えるのは。
 いくら押し合いになると危険だからって、その時点では何人の狙撃者が何発撃ってくるのかわからないんだから、急いで逃げたり、せめて物陰に隠れたりしなきゃ不自然でしょ。銃撃に慣れていない日本人ならともかく、米国人があの状況で泰然としていられるはずがない、普通は。
 ところが下記の画像で見られるように、銃撃からわずか数十秒後の、トランプがやっと立ち上がったばかりの場面でも、背後の観覧席の支持者たちは身を屈めることさえせずに、なぜかその場にとどまっている。あまつさえ、スマホで撮影している人さえ複数いる。

(NBC NEWSより切り取り)

 う~む、これでヤラセなしの本当の銃撃だと信じろと言われてもなあ。

「この美しき聴衆は、私から離れたくなかったのだ。私が危機に陥ったのがわかっていたから、私を残していきたくなかった。そんな愛情が彼らの満面に見て取れる。素晴らしい人々だ」

 もちろん、支持者がその場にとどまったからといって、全員グルだったなどと決めつけるのは乱暴だろう。
 で、私なりに支持者たちの行動を善意に解釈してみると、彼らもまたトランプが倒れ、シークレットサービスが殺到した一連の成り行きを、何かの演出かショーだと思いこんだのではあるまいかなあ。だから「特等席」を立たなかった。
「トランプが心配だから、誰もが銃弾に身をさらしたままでいた」なんて美談は、トランプの頭の中だけで作りあげられた幻想だと思うよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?