柴田勝家『雲南省スー族におけるVR技術の使用例』-感想・紹介
柴田勝家 『雲南省スー族におけるVR技術の使用例』
舞台は中国南西部雲南省とベトナム、ラオスにまたがる少数民族の自治区。この舞台に住む民族「スー族」は生まれてから死ぬまでVRヘッドセットを装着し、VR世界で一生を終えるという。この独特の風習を持つ「スー族」が見ている世界とはどのような世界であるか。また、この風習はどのように成り立っているのか。特異な民族の調査記録は「世界存在」の在り方を問う。
自分が見ている世界は、相手が見ている世界と地続きでは無い。
VRという仮想空間で一生を過ごすというあまりにも奇異な文化を持つスー族の調査記録は、作中に登場する学生に
「スー族に対する理解も多いに深まったように思います。しかし、疑問に思うのは、実際にスー族という民族が存在しているのかという点です」
と言わしめた。これは、あまりにも自身とかけ離れた生活を送っている民族が同じ世界に存在していることが受け入れ難かったからだ。
私たちは与えられた情報を脳機能というフィルターを通して濾過し、欲しい姿に変換して自らの世界に実装している。このような変換が個人単位で行われることにより、それぞれが固有の世界を保有することを可能としているのだ。
自分の見ている世界が相手の見ている世界ではない。この一見してあたり前のことを「スー族」という具体例を用いて私たちに問題提起している本作は、多種多様な民族、文化が物質的にも精神的にも混じり合う現代だからこそ一読の価値がでる作品だといえる。
共生社会における他者理解の解法の一つを提示した『雲南省スー族におけるVR技術の使用例』。32ページ程の短編であるため、興味がある方には是非、手に取ってもらいたい作品だ。