「ペロシ米下院議長が台湾訪問を強行」の波紋
これもまた、日本ではあまり報じられていない本件ですが、日本の安全保障というか、東アジア全体の安全保障の根幹にかかわる問題になっておりまして、面倒この上ない話になっております。
台湾系のメディアと、アメリカの超党派アンチチャイナホークとは相応に情報交換できており、そこにぶら下がる形で日本やオーストラリアほか各国の情報部門がぶら下がって情勢を見守るってやつだったんですが、どうも今回の件、本格的にバイデン政権はアメリカ下院議長・ペロシおばさんの制御に失敗してしまっていたらしいんですよ。
で、これは現在劣勢が予想されるアメリカでの選挙対策だという話が（主にパンダハガー方面のジャーナリズムから）流れてきていたのですが、実際にはまったく逆で、ホワイトハウスも民主党関係者もペロシさんのことを羽交い絞めで止めようとしていた経緯が明らかになりつつあります。
こうなると、習近平さんとバイデンさんが長電話して対策協議したところで着地点を探ることそのものがなかなかむつかしく、かつての台湾有事のように中国側から内々に「これは演習であって不測の事態を起こす意志はまったくないから動揺しないで」と台湾サイドに伝えてきた歴史的事実によって偶発的な戦争勃発を回避するようなメカニズムがなかなか働かねえじゃねえかということになります。
我が国としては、いわずもがな与那国島に自衛隊駐屯地が新たに設営されある意味で砂被りの特等席で中華演習を目の当たりにすることになるのですが、あろうことか、中国サイドから日本に対して周辺海域の海上戦力の退避を求めようとしたとかいう話まで飛び込んできております。
過去の議論の積み上げはありますし、いわゆる「一つの中国『原則』」のロジックで賭け金が上がっている状態であることも鑑みますと、ペロシさんと台湾総統・蔡英文さんとの間での合意事項の発表如何では単に「アメリカの下院議長が25年ぶりに台湾を訪問しました」以上の問題になるんじゃねえのかという気も致します。
対して、中国系からは引き続き「ペロシ訪台問題について過剰に評価するな」というメッセージがこの数時間強力に発信されていて、プロパガンダ戦の様相が色濃くなってきました。曰く「ペロシは過去に（求められていないのに不必要だと知りながら示威行為をするために）超党派の有志議員を集めてウクライナ訪問をやっている」だから「今回もペロシの行動はパフォーマンスにすぎず、（お前らの負けそうな選挙対策以外に）たいした意味や価値も持たないのに東アジアの安定を脅かすような行動は控えるべきであったのに、これを看過したアメリカさんサイドの挑発はひどい」というロジックです。
他方、アメリカさんとしては三権分立という民主主義の根幹であって、信念をもって民主主義を掲げる台湾にペロシさんが「訪問したい」という行動を大統領と言えど押しとどめることはできない、という反応をしています。
アメリカも弱いのは今回の衆人環視の台湾訪問によって、中国が実質支配をしている南シナ海を迂回する飛行航路を取らざるを得なかった事情や、台湾周辺どころか事実上台湾の領海に踏み込んで中国が軍事演習していること、また、下院議長個人の意志であるとしつつも撃墜などを恐れて中国海軍と対抗する形でアメリカも空母ほか海上戦力を展開しなければならなくなったという点で「アメリカ軍もペロシと行動を共にしている」と断じられても仕方がない情勢になったことは特筆されるべきことです。
すなわち、現状の東アジアでの情報戦においては中国に対してアメリカがやや劣勢になりつつあることをペロシ訪台で明らかにしてしまったよなあというのが日本からすれば「あちゃー」という面でありまして、前掲台湾メディアで書いた記事の状況よりも日本にとって（特に何もしておらず、なんのイニシアチブも発揮できないのに）勝手に失点されてしまったというのが実情なんじゃないかというのが情報部門からの観方になると思います。
結果的に、台湾侵攻前の前哨戦になってしまいました。強度は違うでしょうが、台湾やその周辺に対するサイバー攻撃が一部総動員され、ウクライナで立役者になったような民間によるオシント的な動きはどうやら中国が起こす有事においては封じられる危険性が高いことが分かっただけ怪我の功名的に良かったのかなとは感じました。
正直、ほんと「余計なことをしてくれた」と思いますし、ペロシさんが民主主義のためのアクションなのだと言うほどに、別の時期でほかのやり方があっただろうと感じざるを得ません。これで、アメリカも台湾関連ではいままで以上に曖昧政策による戦略的利点を失うことになり、また、あー、その情報が遮断される恐れがあるのかという話になって、いままでよりもはっきり敵味方を分けて対策を打つことの重要性が際立つようになるでしょう。
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