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デジタル大臣牧島かれん記者会見で教育データ関連が揉めてる件で
初めに書いておきますが、私は教育データの利活用は適法な範囲内で推進するべきと考えています。
先日、わたしが所属している情報法制研究所(JILIS)でJILIS出版主催の「プライバシーフリークカフェをやりました。詳細はどこかに掲載されるようですが、そのお題は1月7日にデジタル庁から提示された「教育データ利活用ロードマップ」、それへの意見・批判に応じる形でのデジタル大臣牧島かれんさん記者会見、それ絡みのQ&A、またデジタル庁の本件の中の人である中室牧子さんの個人的見解を記したnoteと、ネタが大量に投下されました。あれ読んで椅子から落ちた有識者もたくさんおられたようです。
その結果、お付き合いのある官僚の皆さんや政策秘書の人、マスコミから取材がたくさんくる事態となり、今日も立憲民主党の城井崇さんが謎の質疑を本件でなさるなどの余波は大きくなってきています。
率直に言うと、今回のデジタル庁が提示した「教育データ利活用ロードマップ」は政策資料としての出来がとても良く、抽象的ながら何をしようとしているのかかなり適切に整理され、明示されてしまっているが故に、読む人の「教育データの利活用」が鮮明にスコープされた結果、みんなが思う「ぼくのかんがえた さいきょうのきょういくでーたりかつよう」が乱立する騒ぎになっているのかと思います。
他方、情報法や立法論の観点からはあまりにも詰められていないことが多く、ツッコミどころ満載になっており、取れるデータはじゃんじゃん取れよ的な喜連川優先生風ドクトリンが見え隠れするので、大変なことになるよなあと思って見ているわけです。
後で論文でまとめる予定ですが、いまの教育データ利活用の流れはおおきく四つの問題があり、
まず、その情報のコントローラーは誰よ? 政府? 自治体? 教育委員会? 学校? 保護者? 子ども本人?
次に、同意は誰がするの? ロードマップには「原則として本人合意」って書いてあるけど、未就学児のデータもかき集めるのに幼稚園児に利用規約やプライバシーポリシー捺印署名させるの?
三番目に、その教育データの利活用ってあるけど、おまえそれなんのエビデンスがあるの? お前らEBPMが大事とか言ってなかった? 海外の論文? なら悉皆データ集めて解析する前にサンプリングで追試してからやれや。アウトカムも何を設定するんや?
最後に、いまのやり方は確かにいまの令和3年改正個人情報保護法や行政機関個人情報保護法、各自治体条例(22年3月まで)は合法だろうけど、そもそもGDPR最小性原則とOECDガイドラインに抵触してるし、次の個情法改正や新法でやらざるをえんのでそれまではガイドラインでゆるく縛っとけや、という話です。
で、牧島かれんさんが「教育データは国が一元管理するものではない」と説明してましたが、外形的にはその通りです。
ただ、22年秋までに教育データの標準化をデジタル庁が取りまとめて、各教育の現場に教育データ(学習ログ)を取得するんだと言う話になるならば、いつもの政策は国が決めて、実施は自治体、問題は教育の現場で発生することの繰り返しになります。
国が責任を取らなくて良いようになってるという意味で一元化ではない、けどデータフォーマットや契約雛形は国が用意するからあとはお前ら自治体と教育委員会がやれとなり、負担は新しいことやらされる教員にドーンと来ることになりかねない。
それならばいっそ、SCAP進駐軍から押し付けられた教育委員会の制度的解体と併せてイギリスみたいに国民の子どもの教育データは国家が堂々と一元管理して麹町中学校で全共闘活動するような世田谷区長は内面ではなく事実で高校進学させてやらないよバーカとすれば良いのではないかと思います。
さらに、エビデンスを集めるために教育データをかき集めるのだという記事まで出てきて、椅子から落ちて床にめり込んだ有識者も多かったと聞きます。
中室牧子さんの気持ちもわかるんですが、EBPMを主張するにあたり「まだエビデンスがはっきりしない政策を検証するために、悉皆データをかき集めては駄目」です。
「政治家は政策をスタートさせる前にデータを収集せよ」というのは順番が逆で、まずは先行論文なり実証研究なりで小規模の二重盲検でもやり、追試を行なって教育効果があると把握できたものをやらないといけません。「がん以外の一般的な疾患のデータを全部集めたらきっとなんかわかるに違いない」と治験データやレセプトをかき集めるのと同様で、お前ら研究倫理とか無いんかと感じます。
畢竟、いまのデジタル庁(やこども家庭庁)がやろうとしている子どもの教育データ取得は「まだよくわからないけどそれっぽい教育データを全部取って多変量解析すれば何かいいことがわかるに違いない」という話で、ヘタをすると国が教育データを一元管理したほうがよほど合理的な話じゃないかと思います。
(なお東京大学附属中高がどうのこうのという議論があるけど面倒なのでパス)
ほかにも、教育データで子どもを選別しないよ的なQ&Aもありましたが、多くの有識者が椅子から落ちて床にめり込んで突き破り階下に落ちたように、そもそも教育データは子どもを選別するために使うものです。
この辺りの話は有識者会議でもほんのり触れられているものの、指摘できる問題点としては:
○ 教育データ利活用推進派が主な検討メンバーで、利活用ありきで議論が進んだ
○ もうすでに学校教育の現場に民間の教育ベンダーやプラットフォーム事業者が入り込んでいて、一部の教育データは法制整備の前に民間事業者が収集を始めている
あたりは指摘されるべきだと思います。
別にそれが悪いと言っているわけではないのですが、議論が雑なまま話が続いているので、何か事故ったときに名指しで「あいつが出した方針だ」と指弾されて教育データの利活用が総崩れになり政策的に手戻りする恐れが強くなります。
教育データ利活用というと、どうしても子どもの貧困や虐待など福祉名目で公益無罪と言わんばかりの議論が横行しますが、しかし、実際に教育産業全体で見るならば、もうすでに公教育よりも学習塾や予備校、学童保育SAPIX、スタディサプリが先行していて、むしろ公教育がこれらの効果的な民間の仕組みの下請け、後追いを強いられているのが現状ではないかと思います。
また、子ども見守り事業などで子どもの内面に関するデータがスコアリングされ、問題のない家庭の子どもまでデータが集約されて個別にダッシュボードで管理できるというのは監視社会的ディストピアそのものですし、これらが納税データや生活保護、給食費未払いなどのデータと同じテーブルで管理されるのは適切とは思いません。
先行研究でなぜか大阪府箕面市や大阪市のネタまで出てきてますが、あんなもん条例レベルでやっちゃ駄目でしょという大前提も含めて、教育データは医療データとは異なる性質だけど同等の重要性があるものだということで取り扱いを法的に検討してほしいなあと切に願う次第です。
冒頭にも述べましたが、私は教育データの利活用は推進すべきという立場です。
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![山本一郎(やまもといちろう)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/15060/profile_1b4b3459770a8ef2a7fd2d2e7ae3b89b.jpg?width=600&crop=1:1,smart)