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A3052の神様(5)

「おぬしまた来たのか。願いは叶えられないぞ?」
目の前には動画サイトを暇そうに見る神様の姿があった。

「お礼が言いたくてきました。この間はありがとうございました!」
大きな声でお礼を言い、頭を人生で一番深く下げた。
「ええい、うるさいうるさい!そんな大きい声で言わんでも聞こえてるわい!そまぁ久々にいい暇つぶしになったからな。わしからも礼を言うぞ」
神様に暇つぶしと言われたのは癪に障ったが、まさかお礼を言われるとは思わなかった。

「そもそもおぬし、どうやってここに来たのだ?普通はたどり着けないはずじゃぞ」
神様の問いに、私はここまでの行き方を話した。ここまでの行き方を聞いた神様は頭を掻きながら、「誰だそんな方法思いついた奴は」とぼやいていた。

「結構有名なんですよ?神様に会いたいって言ってここを探す人が多いみたいですけどたどり着ける人は少ないみたいです」
「昔に欲深い人間の願いを叶えて痛い目を見ているからな。そういう人間はここに来れないようにしてるんじゃよ」
神様はため息をついた。
「昔…ですか?」
「そう、ずっと昔の話じゃよ」
そういうと、神様は私にその昔話を聞かせてくれた。

このネットカフェの入るビルが建つずっと前に神社が建っていたらしい。
それも時代は江戸時代まで遡る。

山の麓にあったその神社は地元でも少しばかり有名な神社で、神様はそこの土地神として、その地域の厄災から地元の人間を守っていた。厄災を守る神様は地元の人から崇められたそうで、多くの貢ぎ物がもらえたそうだ。

神様は自分の好きな物がたくさんもらえることに喜びを覚えていた。
最初はその地域の平和を守るだけであった。
だが人は、その平和が当たり前だと思い始めると、少しずつ貢ぎ物の量を減らしていった。
神様はそれに嫌気がさしていたが、土地神としてここを守ることを放棄すること出来なかった。

時代と共に祈りの内容も少し変わってきた。
これまでは土地を守ってほしいという願いから、やれ病気を治してほしい、やれ金持ちにしてほしい、やれ天罰をくだしたいだの、個人の願いへとなっていたのだ。
最初は馬鹿らしいと思って無視をしていたが、あまりにもしつこいので、適当に願いを叶えてやった。
そうするとどうだ。まるで、天地がひっくり返ったように喜んで、これまでとは比べ物にならないぐらいの貢ぎ物をしてきた。

神様はその出来事に驚いて、調子に乗った。
次々に願いを叶えては、貢ぎ物をもらい続けた。

あの神社にいる神様は何でも願いを叶えてくれるとどんどんと噂が広がり、山を越えた先にいる人までも参拝するようになった。
どんどんと人が集まり、どんどんと貢ぎ物が増えていく光景に、神様は調子に乗り続けた。

だが、それを面白がらなかったのは周りの神様たちであった。
それもそうだ。勝手に信仰を取られ、自分たちの貢ぎ物が別の神様のところへ行くことを黙っているわけにもいかない。
一度別の神様から抗議されたが、神様は聞く耳を持たなかった。

別の神様はさらに上の神様へと状況を伝え、そしてとうとう神様に天罰が下った。

神様がいた地域に大雨が降り、神社の近くにあった山が崩れ、神社はその土砂のなかに埋もれてしまったのだ。奇跡的に神社はその地下の中で瓦礫の間に挟まりどうにか原型をとどめていた。

そこから何百年と経った今、ここにビルを建てるとなった際に、神社が見つかりそこに祭られていた神様が助け出され、このビルの地下にある小さな祠の中に納められている。

「まぁざっとこんな感じじゃ。わしも人は好きじゃ。だが好きということには責任を持たなきゃいけない。わしは間違っていたのじゃ。願いを叶えることだけが人への愛の向け方だと思っていた。だからわしは、欲に振り回される人の願いをそう簡単に聞かないようにしているのじゃ。たまにおぬしのような願いもあるから、気が向いたら叶えてやっているのじゃ。感謝せい」
神様は頬杖をつきながらにこりと笑った。

「神様、私またここにきていいですか?」
私の口から無意識に言葉が出た。なぜだか、もう一度神様に会いたいと思ったのだ。
「おぬしも奇特なやつじゃな。願いを叶えないわしに会ってどうする?」
「友達になりたいんです。神様と」
「友達!?わからんやつだなまったく。わしも暇ではないのじゃぞ」
神様はため息をついた。

そして動画サイトの街中華探訪の再生を始めた。
だが私もそれを言われて引き下がるわけにはいかない。神様の個室へと入り、神様様の耳元に顔を近づける。
「今度炒飯もってきますよ」
私の耳打ちに神様の耳がさわさわと動き出した。どうやら神様はご飯に弱いらしい。
わざとらしい咳払いをした後、「それなら、友達にならんわけでもないぞ」と少し恥ずかしそうに言っていた。

終わり。


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静 霧一/小説
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