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少女の聖域vol.3|夏目羽七海|瞳の行方

 夏目羽七海の代表的な作品である、単眼うさぎ。
 その名の通り長いまつ毛と大きな一つ目を持ったうさぎのドールである。
 小さな身体についた傷はきちんと縫い合わされ、記憶と共に封じ込められている。物憂げな瞳は遠くを見つめ、長い耳の先は何処か遥か別の世界と交信しているかのよう。

 魔法の薬はときに劇薬となるから、扱いは慎重にしなければならない。
 単眼うさぎに姿を変えた薬箱を、そっと開けてみる。
 さあ、魔法が効き始めた。

 結合双生児の体を持ったうさぎは、菫色の瞳と耳で、ひとつに合わさる時を待っている。
 人魚の美しい声が恐ろしくも魅惑的なサイレーンの声とならぬよう、うさぎたちに注意深く混ぜ方を教えてもらわなければならない。

 美しいものや可愛いものが大好きだった少女は、永遠にそれらと共に過ごすために夢そのものになった。
 少女の夢はあまりにも美しいので、帰ってこれない人が続出している。
 用量用法を守って服用するように、単眼うさぎがクギを刺す。

 魔法の薬箱は、それが必要な人のところに現れるらしい。
 単眼うさぎの姿となって、いつのまにかそばにいることがあれば、開けてみてください。

 少女の涙は氷の欠片となって結晶化した。
 ミントグリーンに染まったうさぎは、あなたに問う。
 悲しみと引き換えに叶えられる願いは、やはり悲しみを生むのだけど、それでもいい?

 空を飛べるかどうかは保証しない。
 白い色を沢山集めてよく煮詰めたから、真っ白な翼が生えることは間違いない。
 翼はとても繊細だから、折れないように気をつけて羽ばたかないと。

 暗闇の中で道を見失うことがないように、少女は仄かな光を身にまとう。
 薄荷の香りを漂わせて、大きな菫色の瞳で見つめるうさぎと共に、真っ直ぐに歩き続ける。
 魔法はすぐに消えてしまうから、その前に自分自身でいばらの道を切り開く。

 単眼うさぎの薬箱は、少女の傷を癒してくれる。
 夏目羽七海の手が紡ぐ物語は、傷の数だけ続いてゆく。

夏目羽七海|人形作家 →Twitter
2004年、独学で人形制作開始。
プチ個展『メルティ・メランコリィ』(2019年/カフェ百日紅)
ミニ個展『星少年』(2019年/ぼらん・どぉる)
『人・形展』(2020年/丸善)
『人・形展』(2021年/丸善)
クラフトアート人形マッチングコンクール入賞 (2022年)
他、グループ展、企画展等。退廃的でメランコリーな人形を作っています。

高柳カヨ子|精神科医・元法医学教室助手・少女批評家 note
東京上野で生まれ育ち、東京理科大学理工学部応用生物科学科・信州大学医学部医学科卒業。法医学教室でDNA鑑定を専門とした後、精神科の臨床に進む。Bunkamuraギャラリー「新世紀少女宣言」キュレーション/『夜想ーゴス特集』インタビュー/『夜想ー少女特集』評論/『S-Fマガジンー伊藤計劃特集』アーバンギャルド論/パラボリカ・ビス「アーバンギャルド10周年記念展」キュレーション/gallery hydrangea 「『少女観音』~12人のアーティストが描く篠たまきの幽玄世界」キュレーション。
あらゆる時代と時間を超えた少女たちに捧げる少女論「少女主義宣言」をnoteにて連載中。霧とリボン運営の会員制社交クラブ《菫色連盟》にてトークサロン「少女の聖域」を主宰、「少女性」をテーマに展覧会《少女の聖域》を定期開催している。



作家名|夏目羽七海
作品名|海の聲(こえ)
石塑粘土・グラスアイ・布・水彩絵の具・鉱石など
作品サイズ|約13cm(耳の先から踵まで)
制作年|2022年(新作)
*オンラインショップに別ショット画像を掲載しています(以下同)

作家名|夏目羽七海
作品名|少女の魔法の薬箱シリーズ(4種)

石塑粘土・グラスアイ・布・水彩絵の具など
作品サイズ|約12cm(耳の先から踵まで)
制作年|2022年(新作)

少女の宝石
氷花
羽花
蛍の約束

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