ヒルデガルトの小径|鉱物Bar by 鉱物アソビ|鉱物と薬を巡る旅
鉱物の買付や鉱物遺産巡りの旅と称して鉱山など鉱物スポットをまわっているうちに、ふと街中の何てことのない調剤薬局に鉱物が飾られていることに気づきました。それも一軒だけでなく、国もエリアも違う街でしばしば。
さらに、オシャレなオーガニックコスメも扱うようなモダンな薬局には鉱物入りのウォーターサーバーが置かれていたり、ルース(鉱物を磨いたもののこと)のガチャガチャを設置をしている薬局まであったり。
「なぜ普通の薬局に鉱物があるのだろう?」
それが鉱物と薬、ひいては鉱物とヒルデガルトの関係について知ることとなったキッカケでした。
ヒルデガルトは多彩な才女で、なかでも大きな功績として語られるのが「ドイツ薬草学の祖」といわれるように、薬草治療や宝石治療を提唱し、薬学医療の発展に影響を与えました。
薬草は東西問わず薬の材料として用いられてきたことは、皆さんもご存知かと。でも一方、鉱物が薬となることに意外に思う方もいらっしゃるかもしれません。古代より様々な鉱物が薬として用いられてきた事実があります。紀元前1600年古代エジプトではパピルスに薬の素材として、銅、鉄、水銀、マグネシウム水酸化物、アルミニウム水酸化物などの名前が記されていたとか。とはいえ科学が未発達な時代。どのようにして薬効の知識を得たのでしょうか?
最初は古代ローマ時代にプリニウスがまとめた『博物史』のように神話的な伝承や経験則から。やがて古代エジプトから始まりアラビアを経てヨーロッパに広まった錬金術などを通して、先人たちが命を張った実験研究をしてくれたおかげです。だから薬に因んだ物として、ドイツ薬草学ヒルデガルトの提唱した物として、薬局に鉱物が色々あったのです。
(想いおこせば確かにドイツ語圏の薬局に多かったと納得)
ではヒルデガルトが提唱した宝石(鉱物)治療はどんなものだったのでしょうか?
宝石には7つの力(空気・火・土・水の四元素と、神・精霊・イエスキリストの三位一体)が宿っていると敬虔なる彼女は考えていたそうです。特にヒルデガルトが重要視した鉱物としては「水晶・紫水晶・玉髄・紅玉髄・緑玉髄・ブラッドストーン(血玉髄)・碧玉・瑪瑙・紅縞瑪瑙・エメラルドなど緑柱石・ルビー・サファイア・トパーズ・ジルコン・ペリドット」などがあります。
*書籍によって宝石23種とするもの、12種とするものがあるようです。
これらヒルデガルトが提唱した宝石治療は、もちろん現代科学・医学からみれば薬としての科学的な根拠・薬効は全くないものです。
ヒルデガルトが生きた12世紀当時の宗教観やプリニウス『博物史』から続く西欧的伝承など知識人の教養をベースとしていたと理解ください。
では、本当に薬効ある薬としての鉱物は、どんなものがあったのでしょう? そこで向かったのがハイデルベルクにあるドイツ薬事博物館です。1938年に設立以来、薬の素材、薬瓶はじめあらゆる薬容器、救急箱のような携帯用薬箱類、薬の製造・調剤のための道具類、調剤や販売の場としての各時代の薬局そのものまで、薬にまつわることなら何でも収蔵している類稀なる博物館です。
なかでも圧巻なのが、17~20世紀に実際、薬の材料としていたものを各ジャンルごとにまとめた『マテリア メディカ』展示室。アーチ形の展示棚毎に素材(例えば植物なら葉、花弁、種子、根、樹脂のように細かく分類)と、薬剤を保管していた容器類(木製、パピルス、陶磁器、ガラスなどこれまた多種多様)と一緒に展示されています。
大半が植物系で、動物系(ユニコーンの角など伝説上の動物含む)が10~20%、岩石・土壌・金属・鉱物系は多くはないものの医師パラケルス(1493/1541年)以降、大きな関心を集めるようになったとか。
最後に、拙店 #鉱物Bar でも観られる鉱物で、実際に薬の材料となってきた歴史あるものを簡単にまとめてみました。
これらは薬とされてきた鉱物のごく一部。そして、薬効もあるというのは数多ある鉱物の魅力の一面的なもの。
ヒルデガルトの宝石治療を、現代科学・医学・薬学の視点からみれば実に非科学的な似非薬学です。でも、はるか昔に生きた彼女はじめ先人たちから受け継いで、今を生きる私たちの暮らしが確かに在ると、鉱物を通して実感するのです。
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常設作品を展示販売中です
作家名|鉱物アソビ
作品名|菫色の秘薬
蛍石八面体 (中国産)・理化学硝子・絹糸タッセル・紙製カード付き
サイズ|長さ11.5cm
制作年|2019年(常設作品)
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