少女の聖域vol.3|麻生志保|花化粧、花幻想
化粧とはある種の魔法であると思う。
化けて粧う。そこには少女ならではのまやかしが潜んでいる。
そう、その背後に密かに見え隠れする尻尾のように。
黒猫か、はたまた人外の存在か。
互いに紅を差し合う少女たちは、一面の罌粟が咲き乱れる中で戯れる二匹の美しい獣のようだ。人のかたちを保っていられるのは、束の間の幻想。
菫色の帷の向こうで行われる化粧という秘め事は、魔法以外のなにものでもない。
紅は真紅の罌粟の花弁を磨り潰したものだろう。罌粟はもちろん禁断の植物である。果実から滴る乳白色の阿片からは、麻薬となるヘロインと薬となるモルヒネができる。裏と表、黒と白、どちらにも転べるのは魔法と同じ。
幻覚を見るのは、少女たちではなく、我々かもしれない。
麻生志保の作品は、日本画は大人しく慎ましやかなものだと捉えている人の意表を突く。
極彩色と言っても良い鮮やかな色彩と大胆な構図。向こうが透ける程薄い絹本に描かれた、繊細でありながらも強靭な線と、舞うように散りばめられた金泥。発光しているように白い少女の肌合いは、日本画の技法ならではであろう。
今回菫色の小部屋に向けて、通常日本画ではあまり表に出ない菫色が、ふんだんに使用されていることにも目を引かれる。
ふたつの黒髪が溶けるように対応した顔(かんばせ)には、それぞれ異なる罌粟の化粧が施されている。
一方は罌粟といえば赤と言える真紅の花を、もう一方は幻の罌粟とされた青の花を咥えて、ひっそりと微笑む。濃淡の菫は少女たちの秘密を覆い隠すように周囲に咲き誇り、長い睫毛で覆われた瞳の表情は伺い知れない。
小さいながらも濃密な画面からは、匂い立つような花の存在感と、花化粧に隠された少女の企みが見てとれる。
現世の理を忘れ、罌粟の花に埋もれて、少女という魔法に幻惑されようではないか。
極楽か地獄かは、行ってみなければわからないのだから。
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作家名|麻生志保
作品名|粧い粧われ
絹本着彩
作品サイズ|31.8cm×41cm
*額なし
制作年|2022年(新作)
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作家名|麻生志保
作品名|赤粧青粧
絹本着彩
作品サイズ|15.8cm×22.7cm
*額なし
制作年|2022年(新作)
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