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くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》|植物に寄り添って

 植物に造詣の深いヒルデガルトに敬意を表すように、くるはらきみは様々な植物を用いてヒルデガルトの姿を描き出した。

くるはらきみ個展《ヒルデガルト点描》
会場風景(以下同)

 少女ヒルデガルトは、先輩修道女のユッタに尊敬のまなざしを向けている。その瞳には、隠し切れない音楽への強い好奇心も浮かんでいるようだ。二人の姿は、修道服とあいまって、まわりに立ち並ぶ背の高いオダマキたちに溶け込んでいる。
 上を見上げるヒルデガルトと、彼女をユッタと同じ目線で見下ろすオダマキのコントラストも微笑ましい。オダマキはオダマキで、彼女たちを見守っているようにも、音楽に耳を傾けているようにも見える。もしかしたら、風に身を揺らして一緒に音を奏でているのかもしれない。

 彼女たちがオダマキに似ているのか。オダマキが彼女たちに似ているのか。二人が奏でる音楽によって、その境界線がユーモラスに溶け合っていくような、作家の豊かな感性が光る一作である。

 一輪のマーガレットを手にしたヒルデガルト、その頬が紅潮しているのは、植物の成長を心待ちにしているからだろうか。丁寧に編み込まれた髪を結ぶリボンも心なしか弾んでいる。

 まさにそぞろ歩き、という表現がぴったりな動きは、隠し切れない彼女の興奮や期待を伝えて微笑ましい。
 なお、本個展にて発表する人形写真及び参考映像は全て、作家自身によって撮影されたものである。

 悪魔の誘惑に試される魂。美徳を演じる修道女たちは悩める魂を救い導くように一輪のバラを手にする。バラは劇の創作を導くかのように、ヒルデガルトの頭上にも大きく花開く。天から差し込む光は彼女たちを照らして美しいコントラストを成し、セルフィーユは修道女たち演じる美徳を後押しするように見守っている。

 音楽家としての才能にも恵まれていたヒルデガルトの神秘劇とその創作をドラマティックに描き出した一作である。

 一列に並び、合唱する五人の修道女。同じ修道服を着ていても違った個性を見せる修道女たちの表情は豊かである。光を背にした彼女たちが作り出す影は、喉の痛みを和らげる効果を持つマレインの姿をしている。厳粛な中に響き渡る彼女たちの歌声にもまた、マレインのような癒しの力があるのかもしれない。

 ヒルデガルトヘのアプローチは自由でいい。
 くるはらきみの作品にふれれば、あなただけのヒルデガルトが見えてくる。

会場風景写真|霧とリボン

くるはらきみ|画家・人形作家 →Twitter
東京生れ。幼い頃より自然のある場所に憧れる。大学では油彩を専攻しながら独学で人形制作を始める。2000年に長野県に移住。季節の移り変わりを身近に感じながら制作活動をしています。くるはらきみ & 影山多栄子二人展《夏の夜》(2019年・霧とリボン)ほか、個展、グループ展多数。

熊谷めぐみ|ヴィクトリア朝文学研究者 →Blog
『名探偵コナン』からシャーロック・ホームズにたどり着き、大学の授業でチャールズ・ディケンズの『互いの友』と運命の出会い。ヴィクトリア朝文学を中心としたイギリス文学の面白さに魅了される。会社員時代を経て大学院へ進み、現在はディケンズを研究する傍ら、その魅力を伝えるべく布教活動に励む。モーヴ街5番地、チャールズ・ディケンズ&ヴィクトリア朝文化研究室「サティス荘」の管理人の一人。



作品販売期間
【7月9日(土)23時~11日(月)23時】

作家名|くるはらきみ
作品名|ユッタとヒルデガルト

油彩・キャンバス
作品サイズ|33.3cm×24.2cm(F4号)
額込みサイズ|42.3cm×横33.3cm
制作年|2022年(新作)

作家名|くるはらきみ
作品名|そぞろ歩き

オーブン陶土に油彩仕上げ・モヘア・布・木
作品サイズ|高さ43cm
制作年|2022年(新作)
*台座の内側に車輪があり、三編み状のリボンを引くと動く仕様です。
*オンラインショップに別ショットの画像を掲載しています。

作家名|くるはらきみ
作品名|神秘劇を書くヒルデガルト

油彩・キャンバス
作品サイズ|22.7cm×15.8cm
額込みサイズ|28.2cm×21.1cm
制作年|2022年(新作)

作家名|くるはらきみ
作品名|ア・カペラ

油彩・キャンバス
作品サイズ|33.3cm×33.3cm
額込みサイズ|42.5cm×42.5cm
制作年|2022年(新作)

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