菫色の日々を重ねたその先へ——
今日のように冷え込む冬の日には、静寂の雪景色を連想する欧羅巴樅(ファーニードル・シルバー)の香りを——
透明感ある欧羅巴樅にラヴェンダーとミモザを重ねて調香したDu Vert au Violetのポプリ「GIGI at the U」を傍に、この一年を回想しています。
皆様のご健勝を願いながら、残り二日となった2021年の活動報告と共に、感謝の気持ちをお伝え致したく存じます。
霧とリボンの実店舗、直営SHOP & ギャラリー「Private Cabinet」を休業して今月で1年8ヶ月——長いようでいて、あっという間にも感じる、時の不思議に包まれています。
本年2021年は、全ての展覧会とイベントをオンラインにて開催致しました。
長く作家さまやお客様にお目にかかれない日が続く中、霧とリボンを忘れずにいて下さり、ご協力や変わらぬご愛顧を頂きましたこと、どのような言葉を尽くしても足りないほどに、感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。
Modern——聡明に
Mauve——繊細に
Flapper——自由に
全ての人たちが自身の感性に誠実に生きることができるよう「菫色|Mauve」に願いを込めて、文学・アート・モードを横断する作品発表と展覧会企画をひとつひとつ、繊細なレースを編むように、この1年もお届けしてきました。
なにかひとつでも皆様のおこころに響き、そこから豊かなひとときが広がっていましたらこの上なき喜びです。
*
*
まずは、オンライン上のストリート「モーヴ街」の活動報告から。
高らかにアブサン宣言を掲げたイベント「アブサンの文法(3月)」を皮切りに、モーヴ街開通1周年記念イベント「菫色の実験室vol.6〜菫色×シャーロック・ホームズ(6月)」を盛大に開催、「モーヴ街のクリスマス(12月)」で幕を閉じた1年となりました。
モーヴ街のお散歩をお楽しみ下さいました皆様にお礼申し上げます。
「菫色の実験室vol.6〜菫色×シャーロック・ホームズ」では、敬愛する北原尚彦先生の抄訳(新訳)付・オーガニック紅茶セット「221Bシリーズ」を発表。昨年来、オーガニックハーブの入手がますます困難となり、以降、全ての紅茶企画を延期することとなった今、貴重なお披露目となりました。
「221Bのちいさなティパーティ(8月)」と題し、紅茶セットのイラストを再現したメリリル様による美しくて美味しい洋菓子セットのオンライン販売もご好評を頂きました。
モーヴ街のアーカイヴは下記バナーより、いつでもご高覧頂けます。
巡る季節の中で、モーヴ街の9つの建物から発信された多彩な作品やエッセイが架空のストリートを行き交い、通りの木々や花々を揺らしながら、散策する人たちへちいさな種を手渡し、その種から、暗い世の中を照らす花々が咲き誇りますように・・・
来年も新しい企画を準備しておりますので、ぜひ折々にモーヴ街へ遊びにいらして下さいませ。
*
*
本年、オンライン開催した企画展は4つ。アーティストの皆様のお声をお届けすべくスタートした、共通の3つの質問に答えて頂く「Artist‘s Tiny Letter」も作品と共に皆様に温かく迎えて頂きました。
アーティストの皆様、執筆者の皆様といっそう密度高く協力しあい、展覧会を作り上げた一年でした。
オンライン展覧会の始まりとなった「レース模様の図書室(2020年4月)」から1年を経て、平穏への願いを込めて開催された「レース模様の図書室、再訪(4月)」。想いあふれる図書室で、少女たちと特別な時間を過ごしました。
第2回目を迎えた高柳カヨ子先生プロデュース「少女の聖域vol.2(7月)」では、「跳躍と疾走」というスリリングなテーマのもと、既存の枠組みを軽やかに飛び越える先鋭的な作品がお披露目されました。来年も魅惑のテーマで開催予定の本展にどうぞご期待下さい。
ひときわ馨しい作品が寄せられた「スクリプトリウムvol.3〜植物図譜(9月)」。オンライン上の写字室が花々や薬草の詩情で満たされ、植物の成長や循環が私たちの生活にもたらすみ恵みを改めて実感した会期でした。
企画展の最後を飾ったのは、鳩山郁子著作刊行記念オマージュ展「羽ばたき Ein Märchen(11月)」。鳩山郁子先生の孤高の一冊『羽ばたき Ein Märchen(原作:堀 辰雄)』へ、アーティスト達が捧げた渾身の敬愛は、自由を求めて瞬き続ける星々となって、広い空へと羽ばたいてゆきました。
*
*
コラボレーションして下さったアーティストの皆様のご協力のもと、霧とリボンのポプリ・ブランド「Du Vert au Violet」をついにローンチできたことも大いなる喜びでした。
はじまりは2015年英国ケント州ダンジェネス、デレク・ジャーマン監督の終の住処「プロスペクト・コテージ」を訪れた時のこと。強風で極寒の晩秋、遠まきにお庭を見ていると、護り主キース・コリンズ氏が「寒いので紅茶でもいかがですか?」と、見知らぬ私たちを招き入れて下さったのです。
お伽話のような出来事に震えながら扉を開けた瞬間私たちを包んだのは、コリンズ氏の笑顔と温かな空気、そして一条のラヴェンダー・ポプリの香り——清冽な香りと熱い一杯のミルクティは、コリンズ氏から頂いた無条件の信頼と歓待の証として、こころの奥深くに刻まれ、生きる指針となって今日の日まで私たちを支えてくれています。
その時から温めてきたポプリへの想い。
ここ数年、空いた時間は全てポプリの実験と研究に費やし、何度も何度も失敗を繰り返しながら、不穏な状況が続く中にあって諦めずに夢を追い続けることができたのは、再会の約束が叶わず天へと旅立った、コリンズ氏への敬愛と哀悼の想いゆえ。ラヴェンダー・ポプリの香りを思い出せばいつでも、あの日のプロスペクト・コテージに棲まうコリンズ氏に会うことができるのです。
私たちにとって大切な記憶を保存してくれる、香りという存在。その儚き存在が持つしなやかな強さを、形にしたいと思い続けてきました。
そうして実験を重ねてようやく納得のゆく形に仕上がり、室内香ではない、新しいスタイルのポプリ——「プライヴェート・ポプリ」を発表。
BGM的に香りを楽しむのではなく「一対一で香りと対話するためのポプリ」——あの日のラヴェンダーの記憶と静かに向き合う、掛け替えのない時間がブランド設立の根底に流れています。
来年も気鋭のアーティストとのコラボレーションも交え、新作ポプリを発表してゆきますので、ぜひご注目いただけましたら幸いです。
*
*
2019年春、ピエール・ルイス『ビリチスの歌』をテーマにした展覧会開催中の菫色の小部屋を訪れて下さった詩人の嶋田青磁さま。ゆっくりと滞在され、夢中でお喋りした日の鮮やかな記憶が『翼の在りか』の頁に重なり、胸がいっぱいになりました。
本年も全国のたくさんのお客様から折々に頂いた温かなお言葉は、こころの宝石箱に大切に仕舞い、たびたび蓋を開けて、何度も読み返しています。ひとり黙々と制作と業務に向き合うストイックな日々にあって、澄み切った一筋の朝日のように、気持ちを明るくしてくれる存在でした。
菫色の小部屋を今年もこうして守ることができたのは、信頼を寄せ、大切に思って下さったお客様、アーティストの皆様、関係者の皆様のお陰です。心より深く感謝申し上げます。
2022年最初の展覧会は、2月開催のオンライン三人展となります。詳細は年明け1月、シーズン・ラインナップと共に発表致しますので、どうぞ楽しみにお待ち頂けましたら幸いです。
来年の展覧会の開催方法は、状況をみながら、慎重に検討してゆく予定です。来年こそは、皆様とお目にかかることができますように・・・
菫色の冒険はこれからも続きます。
新しい一年も美を通して、皆様とご交流が叶いますように。
皆様のご健勝とご多幸を心よりお祈り申し上げます。
どうぞ美しい御年をお迎えくださいませ。
心からの感謝を込めて——
2021.12.30
霧とリボン主宰
ミストレス・ノール
*