高校一年生のまちぶせ~すぐに散って流されて~
初恋を辞書で引いてみる。
はつ‐こい【初恋】
はじめての恋。浄瑠璃、浦島年代記「自らが―は遥々君を迎ひ舟」。「―の人」-広辞苑
生まれて初めての恋。-大辞泉
初めての恋。-新辞林
出典:広辞苑無料検索
その意味の通りにするのなら、私が初恋を認知したのは高校一年生の時だ。
高校は電車通学だった。
他にもその方法を選んだ地元の同級生はいたが、殆どは他校に進学。出身高校を選んだのは、私だけだった。
だから電車内ではひとりぼっち。
高校の友達も、軒並みチャリかバスで通学する子が多かった。
それくらい、私はアウェーな場所を選んだのだ。
定時制高校だったので、本来は午後コースや夜間コースの子と交わることはあまりない。そのため、学内全体でやる式典やイベントは午後の時間に行われる。私は午前コースだったので、通学時間が遅くなる。
入学式も卒業式も、執り行われた時間は午後からだった。
入学式から3日後。その日はオリエンテーションで午後登校だった。
電車のダイヤがないので、10時半くらいの電車に乗って高校のある青森市へ向かった。
青森駅に到着しても、登校までの時間は有り余っていたので駅ビルをうろついたり図書館に行ったりしていた。そんなふうに時間を潰してご飯を食べて、高校近辺を通る市営バスに乗って学校へ向かう。これが私の午後登校ルーティンだった。
いつものように最寄りバス停を降り、徒歩で学校へ向かう。
普通に歩いていたら、見知らぬ男が私に声をかけた。
「わぁ、○○(隣町)から来たはんで、一緒に学校行かねぇ?」
髪はワックスで上向きに固めたツンツンヘアー。腰パン。ひょろっとした体型。どう見てもヤンキーだった。
私は怖気づいたけど、「はい」と言った。
その人は午後コースで、私と同じ沿線だった。名前はワタル。
見た目はヤンキーそのものだが、アニメやゲームが好きだという。
最初は年上だと思っていたが、同い年ということもあり、すぐに仲良くなった。
確かその場でメルアドも交換したと思う。たまにやり取りしていた。
これが…これが「ギャップ萌え」というのか…!!と、今になって思う。
ましてや恋愛なるものを知らないのだから、好きになるのも当然だった。
それから私は自分の授業が終わったら、午後登校ルーティンのように駅周辺をうろついて時間を潰し、ワタルが授業を終えたタイミングで電車に乗って偶然を装いお話するようになった。
本人は至って真面目にワタルとの距離を縮ませようと努力していた。やっていることは石川ひとみが歌うかの有名曲そのものなのだが、当時の心境は「付き合いたい!!」一心だった。
ワタルとの話はとにかく楽しかった。
ゲームのこと、部活のこと、ネットネタのこと…私が勝手にドンドン進んで話したのが大半だったが、ワタルは話にうなずいてくれた。
ワタルが話を聞いてくれるのが、とにかく嬉しかった。
実際、友達と一緒に歩いていたとき、ワタルが目の前で歩いているのを見たことがあった。
私はいつの間にか耳まで赤くなっていたようで、友達から「きりちゃん、そういうのタイプなんだ~」と笑われた。
付き合ってみたいな。
思い切って告白しようかな。
そう思った高校一年生の秋。決戦は学園祭にした。
もし上手くいけば催しは二人で回れる。
そうじゃなくても食事くらいは二人で過ごしたい。
私は思い切ってワタルの元へ行った。
ワタルの周りには同じ午後コースに属するヤンキー(女子含む)がいた。
「一緒にご飯いかない?」
心臓がバクバクする。
ワタルは言った。
「ごめん、彼女と一緒に回るはんで!」
その一言で、私の初恋は終わった。
それ以後、ワタルとは一度も話をすることはなかった。
そして私の青春は放送部の活動に全力投球することになった。
二年に進級してから、別の時間帯コースの授業を取ることができるようになった。私とワタルは三年卒業組だったので授業で一緒になることはあったが「別の時間帯コースの子」という認識になった。
時は流れて、私は大学生になっていた。
大学生活を謳歌していた最中、母からとんでもないことを聞かされる。
「あんたの友達だったワタルくん、交通事故で亡くなったって」
耳を疑った。
「嘘だろ~」と半分冗談で受け取ってお悔やみ欄を見た。
本当に書かれていた。
しかも隣には交通事故の記事がちんまりと。
軽自動車に乗っていた助手席の男性が即死。
このニュースは地元の放送局でも報じられた。
まさか本当に死んでしまうなんて…
しかも事故死。高校を卒業してからまだそんなに経ってなかったのに…
どうしてなんだろう?
確かに若干やんちゃではあったけど、悪いやつではなかったはずだ。
私と付き合っていたら、こうはならなかったのかな?
いやでも、どっちにしろ別れていたかもしれない。
何が正解?未だにその答えは分からない。
さらに時が経って現在。私には彼氏がいる。
もしワタルと付き合っていたら、私の運命は変わっていたかもしれない。
別の大学に行っていた可能性だってあるし、下手すればこの世に留まっていないかもしれない。
あの事故が、もしワタルと私だったとしたら、どうなっていただろう?
私も死んでいたのかな?
いろいろ考えても仕方ないけど、やっぱり答えは分からない。
でもやっぱり、あの時事実上フラれてよかったんだよ。
そのおかげで、アナウンスに力を入れることができたのだから。
あんなことをした罰なのかもしれない。そう考えると、ちょっと気が楽になる。
ワタルに聞きたいことがひとつある。
どうして私に話しかけた?
同じ沿線だから?知り合いがいないから?
ワタルが話しかけなかったら、私はこんなにも恋に狂うことはなかった。
その罪はとても重い。初恋ってこんなにも恐ろしいものなんて、考えたことなかった。
そこまでの仲にはならなかったから葬式には行かなかったけど、楽しそうに話してくれるワタルが目に浮かんでくる。痛くないのに、涙が出る。
心の底からこの言葉を叫ぼう。
好きだったのよ、あなた。胸の奥でずっと…!!
※本記事は、木ノ実ひよこ様・和三盆様主催「エッセイイベント・初恋の花」参加作品です。