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人は最終的に甘い匂い。 【火葬場から愛をこめて】
生まれて初めて火葬場に行ったのは、祖母が亡くなった時だった
街のはずれの大きなセレモニー会場とセットになった場所に、大きな煙突が立ち煙が見えた。
(あの煙は誰かの遺体を焼いたのかな?)とぼんやりと見つめながら喧嘩中の母と、息子とイライラとした時間の中でも親戚が集まり悲しいはずの宴は
久しぶりに会った同窓会の如くにぎわっていて、私は違和感を覚えた。
人が死んだのに、なぜにそんなに笑うのさ?と・・・
あんなに笑っていたのに、出棺の時は皆が泣いた
まるでチャンネルを合わせたかのように、悲しみのお別れチャンネルだ
人の死と言うのはそんなものなのかな?と
それから何十年後、私は一人落合の斎場に佇むがせっかく主人を送り出してもらおうと連絡した家族は、だれ一人来ない
私一人でおくり人だ。
なんの意味もなかったと思う、ただやっかいな人間関係を結んだだけでお棺に入って冷たくなった主人が可哀そうだったが、見送るのが私の最終目的だ。白い着物に腫れた顔の主人にお気に入りだった、ポールスミスのスカーフを入れた。箱の中の主人はもうここに居ないのだから
順番を待つ間、私は一人「さよなら、また会えるからね」と手を合わせた
涙が止まらず目が回る・・・
約1時間かかるというので、2Fにあるカフェでコーヒーを飲むことにした。
独特の甘い匂いが鼻につく・・・前にも嗅いだ匂いだ
これが人の匂いなのだと思うけど、嫌いじゃないのは私もいつかこの匂いをまき散らし、灰になるわけでその時には死んでいるんだからと思う。
館内には、いろんな人たちが居てお坊さんを先頭に慰霊を持ちながら一列に歩く家族や、泣き叫ぶもの談笑するものや弁護士が付き添うものも居て時間つぶしにはちょうど良かった。
数日寝ていないのと、疲れで私はおかしなカッコをしている
上下黒のスーツ、黒のブラウスに白と黒のレースのバックは絶対におかしい合わせ方だ。どうでもよかった・・・
短期間で、主人の死、身内との交流と罵倒
一人ぼっちの密葬
火葬と骨の引き取り
うちへの訪問者
なんだか目まぐるしいわけで、なにがなんだか分からないのが現状だ。
それでも、あの甘ったるい匂いが記憶に残るであろう・・・・
当たり前だが、人は死んでしまえば骨しか残らず焼きあがった骨は残骸のように悲しく感じるけれど、私もそうなるのだ。
一人で骨を拾いきれずに
「すいません、一緒に骨を拾っていただけますか?」と女性スタッフさんにお願いして骨壺に収まる主人は、かなり骨が大きかった
満タンの骨壺だ。
「これがのどぼとけですよ」とうんちくを話されたが、知り合いの歯科医が言うには、そうじゃないらしい。
彼も、両親を亡くし同じことを火葬場で言われたそうだ。
因みに、焼いた骨には匂いは無かった・・・無臭だ
カルシウムだ
タクシーに乗り、骨壺を抱いて乗り込むと膝の上があったかい
焼きたての骨は、私の膝の上に抱かれている
そう言えば、病院から落合斎場へ霊柩車で彼を運ぶときにストレッチャーに乗った彼を、二人係で運んでいたときにあまりに重くて遺体を落としそうになったのは笑えた。
最後までそんなにおかしい旅立ちなのか?と思ったんだ
彼らしい。
白い布に包まれた彼の横に座り、ぼんやり道路を見つめていた・・・
あんなにおしゃべりの人も、さすがにしゃべらない
死んでいるのであたりまえか・・・
辛い戦いが終わり、きっとほっとしているだろうね
痛かったよね
亡くなる2日前くらいに、もう駄目だなと分かってから余計なことしたけど
良かったと思っている
知らん顔も出来たけど、しなかった余計なお世話は自分の自己満足になったよ。
目が空きっぱなしになって、テープでまつ毛を止められて黄疸で真っ黄色になって、床ずれでたくさん水ぶくれが出来たかかとや膝を摩ってもどうすることも出来なかったけど、私は甘い匂いのあの場所から貴方の骨を連れて家に帰れる事が本当に嬉しかったよ。
やっと
私のもとへ帰ってきたからね
やっと4年目になるのか・・・時間がかかるけど私は、前向きに多分生きているよ、仕事もしているし彼も居る
「俺が死んだらどうするの?」とよく貴方が聞いていて
「泣く」としか私は言わなかったけど、本当に泣いてばかりだよ。
泣いたってしょうがないのは分かっているけど、泣くでしょ
何度だって言うよ
愛しています、ずっとずっとね。
※拝啓、関真佐徳様 私マイクと再婚しました。あなたの写真になんかしゃべっているおじさんですが、本当にやさしくてそして正直な人です。少し時間がかかるけど、必ず会いましょうね(笑)仮の名はマイクです。