scent
真夜中。
ラジオがおわる瞬間、容赦なく無音に切り替わるあの瞬間がすき。
ラジオがおわって庭にでると、冬空の下、世界で自分がひとりになった気がして、ほんのりさびしくもあり、けれどとても穏やかな気持ちになる。
そのまま屋内に戻り、電気も点けず真っ暗なままで湯船につかる。
もう二度と戻ってこない時間をおもいながら。
こころが深く沈み込んでどうしようもない夜もあれば、シャツとショートパンツだけでそとに出て、火照って汗ばんだカラダを冷ましながらそのまま星空を見上げる夜もある。
今夜はどちらかというとどちらでもなくて、おふろを出た後にホットミルクを飲みながらぼーっとしている。
クローバーのはちみつを溶かしたホットミルク。
白は真っ暗な部屋によく映える。
グレーと青のマグカップ。
ふっと匂いがする。
誰の匂いだっけ?って考えながら、布団に入ると、匂いも追っかけてくる。
脳はとっくにおもいだしている。
独りでほんとうは寂しいときに、その匂いにつつまれながらいつのまにか寝ているのだ。
パイソングラスと、美容室と、すこしだけおじさんの匂い。
あと少しであなたがいなくなった年齢を越えます。