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Free dom ~氷点下の宴Ⅳ~

AM6時半。
固いベットの上で目を覚ます。
もちろん足は筋肉痛
窓にかかったブラインドを上げると
灰色の空が広がっていた。
少しだけ換気しようと窓を開けてみる。
ひんやりと冷たい空気が
鼻の奥に入ってきた。思えば今日は大晦日
我が家では
「大晦日はPM7時までには家に帰ってくること」
っていう訳の分からんルールがあって
それは旅してようと仕事してようと関係ない。
野木まで行って7時までに帰るのは
決して難しいことではないのだが
問題はたくまのほうだ。
あいつは前回の旅の時も
寝起きの機嫌がめっちゃ悪くて
さっぱり出発できなかった。
俺は優しいから
あいつにモーニングコールしてやった
もちろん
この時間にあいつが電話に出るわけがなかった
仕方なく早朝のお散歩に行くことにした。
ホステルを出て
通学路にある公園に向かった
早朝の宇都宮は県庁所在地といえど
人は少なくカラスの鳴き声が街に響いていた
滑り台に座りそのまま倒れこむ
リラックスしてるように見えて
頭の中では今日のプランが駆け巡っていた
そのまま30分誰もいない公園で考え続けた
7時半にホステルに戻り「奴」を起こした。
相変わらず機嫌が悪かった。
少ししてたくまから電話がかかってきた
「やべー、昨日ブーツで50kmくらい歩いたから
 足の裏が内出血起こして真っ黒になってるよ。
 これ今日無理だわ」
まぁそうなるよね。薄々感じていたよ
あいつとはホステルのエントランスで別れた
カンパだと言って500円玉を渡してきた
ありがたく受け取って歩き出した
昨日の残金と合わせて
1400円くらい残ってる
1人で旅するならこれだけあれば十分だ。
少し歩いたらお腹が減ってきた
しかしこの時間だと
まだどこのスーパーも
開店していなかった。
すると丁度いいところに八百屋があった。
きっと個人経営のパパママストアだろう
腹が減ったときはバナナが一番
店内で探してみたが
バナナは置いてなかった
少し残念だったが
置いてないのはしょうがない
店を出ようとしたとき、店員のおばさん
いや正確にはおばあさんが声をかけてきた
「あんたそんな看板背負って
 どこ行くのよ?栃木縦断??
 こんな寒い時に??面白いね
 ねぇお父さん
   裏にあるりんご持ってきてよ」
すぐにおじいさんが出てきて
俺にりんごをくれた
俺は無我夢中にリンゴにかぶりついた
それを見ておばちゃんが笑いながら
熱々の烏龍茶まで出してくれた。
「お代はいらないから温まりな」って
聞くと前にも俺みたいな旅人を
家の倉庫に泊めてあげたことがあったらしい
ヒッチボード用の段ボールももらい
至れり尽くせりだ。
この旅が終わったら
きっとまた来るって約束して店からでた。
するとおばちゃんがもしものためにって
使用済みの軍手と
茶菓子を俺のリュックに詰めてくれた
俺もじーさんになったら
八百屋でも開いて、俺みたいな
アホな旅人を救ってやろうかなと思った

新調した看板をぶら下げてまた歩き出す
20分ほど歩くと大きな交差点に出た
俺は運悪く信号に引っかかってしまった
信号を渡った先にはコンビニがある
ひとやすみすることにした
横断歩道を渡ってコンビニに行くと
一人の若者が俺に寄ってきた
(俺が若者っていうのはおかしいけど)
「お兄ちゃんヒッチハイカー?
 席開いてるから乗せてあげるよ」
「はい!喜んで!」
またも誘いにのってしまった。
なんて信念がないやつ。
車内でお兄さんたちと喋ってたら
まさかの同じ高校の先輩だったのだ
それも3つ上の人。
やばいよね、すごい偶然
そしたらこの人たちお腹減ってたみたいで
すき家に行くことになった。
金使うの渋って唐揚げ食べようと思ったら
好きなもん食えってメニューをくれた
朝からリンゴと茶菓子と牛丼もらって
昨日の空腹が嘘みたいだ。
食べ終わってからすき家の近くの
自治医大駅ってところで降ろしてもらった
近くのスーパーで
セルフサービスのお茶をがぶ飲みした後
小山方面に向けて歩くことにした。
空はなんだか雨が降りそうだ
少し歩くと対向車線の車が
クラクションを鳴らしてきた
応援してくれたのかなと思った
それから3分後さっきの車が
こっち側の車線を走ってきて
俺の少し前で停まった。
俺が横を通り過ぎると
窓を開けて話しかけてきた
「俺、今から小山まで行くから乗せるよ!」
この旅を始めてから
逆ヒッチハイク3回目
きっと看板に
栃木縦断中しか書いてないから
心優しい大人たちがごぼうみたいに
ガリのっぽな俺を心配して
乗せてくれるのだろう
もう流れに身を任せることにしてみた。

乗ってから知ったのだが
このお兄さんも元々は旅人だったのだ
ヒッチで九州?までいったりとか
数々の旅をしてきたらしい。
昔の自分みたいだった俺を
乗せてあげたくなったらしい
いや~いいよねこういう繋がり
人から受けた恩を他人に返すみたいな?
俺も車持ったらヒッチ少年乗せてやろうっと
(きっと軽トラに乗って
   日本中を回ってるだろう)
30分はあっという間に過ぎた
小山の中心街のコンビニに降ろしてもらった
それからコンビニで
ジュースとハイチュウを買ってもらった。
また人に恩をもらってしまった。
そして別れ際に特技のけん玉を見せてくれた
技は失敗したけど大人がニコニコしながら
本気でけん玉してるのは案外カッコよかった
お兄さんと別れてすぐ、外は雪が降ってきた
2017年のクライマックスには相応しい。
しかし旅人の場合話は別だ。
リュックは濡れてしまうし
段ボールはぐしょぐしょ
おまけに体温まで奪われる。
考えてる暇はなかった。
現在地から500mほど離れたところにある
スーパーまで全速力で走った。
それでも全身濡れた。
そのまま多目的トイレに滑り込む。
ここから一人作戦会議の始まり
まず天候から考えて
徒歩で野木まで行くのは
諦めたほうがよさそうだ。
だけど野木に行くこと自体を諦めるのは
どうしても嫌だった。
応援してくれた人たちの
気持ちを裏切りたくないし
それにここで諦める自分が
めっちゃかっこ悪いじゃん?
だからここからは
ヒッチハイクで野木に向かうことにした。
決まったら即行動がお約束。
近くのダイソーに行って
気持ちばかりの雨合羽とゴミ袋を購入
前の旅にも登場したのだが
ゴミ袋はヒッチハイクするときに
リュックを濡れないようにするために使うのだ
一通り装備してから
さっきのコンビニに帰った
そしてコンビニの前の
交差点でヒッチスタート
雪の中のヒッチは初めてだ。
精神的にも大分しんどい
車に乗ってる人からしたら
間違いなく「変な奴」だ
雪水で前髪をびしょびしょに濡らして
微妙に小さい雨合羽を着ながら
ひたすら段ボールを振り回し
間々田(次の目的地)まで行きたいです
って叫び続ける。
俺なら怖くて乗せられない。
子供も一緒なら尚更ね。
だから子供連れの若ママが
乗せてくれたのにはビックリした!
2駅だけだったが
雪の中で乗せてもらえたのは
めっちゃ嬉しかった。
あと5分遅ければ間違いなく低体温症だった
確か2人とも幼稚園児だった気がする
車の中で当たるわけもない
フルネーム当てクイズを
やってたらあっという間だった
(俺は2人ともフルネームを当てた)
間々田のローソンに降ろしてもらってお別れ
正直言うと今回の旅で
一番お別れが悲しい家族だった
南に移動したからなのか
まだここには雨雲が来てなかった
俺は逃げるように南に向かって歩き出した
時計を見るとそろそろ野木に着かないと
まずい時間帯だった。
近くにやたらと広い駐車場のコンビニが
あったのでそこで最後のヒッチを開始
すると5分で一台の車が停まってくれた
ちょっと怖そうなママさんだ
乗せてもらえるってことなので
恐る恐る乗らせてもらった
しかし話してみると言葉こそ
怖いけど優しいママだった。
娘さんは俺と同い年。
Kの日記って名前は知らなかった
ん~俺もまだまだだね
高身長イケメンのKって
あだ名はまだ県南には届いてなかった
(宇都宮でも誰も呼んでくれないのだが)
車はあっという間に野木町に入った
近くのスーパーに停まってくれた。
「帰りもヒッチでしょ?
 段ボール取ってきなよ」
なんて気がきくママなんだろうか
実際俺はそんなこと考えてもいなかった
俺は駆け足でコカ・コーラの
段ボールを持ってきた
するとさっきの娘さんがいない
「あいつならさっき店の中にいったよ」
おつかいにでも行かされたのかな?と
思って待っていたら
パンの袋を持って帰ってきた。
そしてそれを俺に渡してこう言った
「これ、うちからの応援!頑張って帰ってね」
ヤバいこれには俺も感激。
JKからのプレゼントだ。
パンはまだほんのりと温かい。
こんな気が利く女の子が俺の同級生か
きっと俺が幼稚なんだろうな
無茶苦茶感謝してお別れした
この子はTwitterやってなかったので
それ以来連絡は取ってない
またどこかで会ったときは
プレゼントの倍返しをしようと思う
片手に段ボール
片手にパン
そんな訳分からん状況だったせいか
俺はすっかり野木に着いたことを
忘れていた。ゴールだ。ここがゴールだ
出発の時から随分と状況は変わっていた
相方はいなくなった。荷物が増えた
お気に入りの手袋は
八百屋のおばちゃんの軍手に変わっていた
そして何故か無一文旅のはずなのに
俺は満腹になっていた。
よくよく考えたらこの旅自体が良い意味で
訳の分からんもんだなと思う
逆ヒッチ3回に2食もごちそうになって
ホテルのフロントのおばちゃんに
カンパをもらって、リンゴかじって、、
全部家を出るまでは想像できなかったこと
ヤバいよな、こんなのばっかりだから
旅ってやめられないんだよね~
こうして俺は野木の小さな駐車場で
ほんのり温かいパンを
食べながら芝の上に倒れこんだ
さぁ帰るか俺の街へ
暖かくてみんなが待つ俺の家に

俺は本当に最後の
ヒッチボードを作り
4号線に出てヒッチを始めた
その後の話は想像に任せるよ
結果だけ言うと夜6時半に
俺は宇都宮駅に降ろしてもらった
その時俺の目には
うっすらと涙が浮かんでいた。
この話はまた違う時にしよう
家に帰った俺は
親もあきれるほど肉を食いまくった
そして年越しの瞬間を迎えることもなく
深い眠りについた
大晦日といえど俺の地元は
とっても静かだった。
バカ騒ぎする若者もいなければ
酔っぱらうおやじもいない
なんだかんだ平和な街なのだ
俺はやっぱりこの街が大好きだ

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